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不思議なカレラ @仮完結 只今最終校正中につき“ ν ”が付いてる話しのみをお読み下さい  作者: 酸化酸素
3章 Standard-edition G's world

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ミガマエトキガマエトヨワネ ν 挿絵付

 少女とヘルモーズが「フォールクヴァング」の中に駆け込んでいった丁度その頃、「フォールクヴァング」の外ではスサノオとサリエルが戦闘を始め、その激しい戦闘音が響いていた。




 少女とヘルモーズは「フォールクヴァング」の中を虱潰(しらみつぶ)しに探していくが、ただでさえ大きい宮殿に四苦八苦しており、1階部分では誰も発見出来なかったのだった。



ぱたんッ


「ふぅ。これで1階は全て見終わったわね」


「特に誰もおりませんでしたな」


「敵もいなかったし、いなくなった人達もね。でもこれじゃ、このまま闇雲に探しても時間掛かりそうだから、手分けして探しましょ。アタシが上の階に行くから、ヘルモーズさんは階下を探して貰える?」


「で、ですが……」


「なぁに?一人が寂しいって言うワケじゃないんでしょ?それとも、アタシの魅力にもう、メロメロかな?どうしても一緒じゃないとイヤなのかな?にやにや」


 少女の導き出した解答は「フレイヤがいるのであれば上の階にいるだろう」だった。拠って「上の階に2人で行きヘルモーズを危険に晒すよりは、ヘルモーズには安全そうな階下を」と考えた結果、ヘルモーズに地下を探すように伝えたのだ。

 まぁ、フレイヤが上の階にいる保証など何1つない。バイザーで確認しようにも同じ階が辛うじて確認出来る程度でしかなかった。拠って何かの力が作用しているのかもしれないが、それが意図的なのか意図せずなのかまでは定かではない。


 一方のヘルモーズは少女が話した意図を察したかどうかは分からないが、少女の提案に乗る事にした。ヘルモーズとて男なのだ。「1人では心許ない」などと言えるハズもなく、階下を探す提案を受け入れるしかなかったと言えるだろう。

 それにしても、ヘルモーズが「もうメロメロなので片時も離れたくない」などと(のたま)っていたら、話しの流れは変な方向に変わっていたかもしれないが、これはまぁ余談である。



「さてと、アタシはここから「死地(しち)」に入る感じかな?ま、バカとなんとやらは高いトコが好きって誰かに聞いた気もするから、地下の方がまだ安全でしょ。敵の本拠地で安全もへったくれもあるとは思わないけど、それはそれこれはこれ……ね」


 少女は覚悟を決めると愛剣を握り締め、上階へと続く階段に歩を進めていった。



-・-・-・-・-・-・-



挿絵(By みてみん)



「出会って早々のアンタにゃ、まぁ恨みはねぇが……。ここでぶっ飛ばさせてもらうぜッ!悪く思うなよ」

「おぉっりゃッ」


ぶぉん


「へっ?なぁんだ、やっぱりちったぁ骨があるようだな?」


 スサノオはウルに対して速攻を仕掛けていった。スサノオは拳を握り構えを作るとウルに向かって、一気に駆け抜けて距離を縮め、拳打を放ったのだ。


 しかしウルは地面を滑るような独特な歩法(ほほう)を使い、スサノオの攻撃を躱していった。躱されたスサノオは見事なまでの風斬り音を立て、盛大に空振りしたのだが、そんな歩法を知らないスサノオは泡を喰った感じだった。


 こうしてスサノオの拳打を躱したウルは、スサノオから距離を取っていく。しかしその瞳は焦点が合っておらず、口は呂律(ろれつ)が回っておらず、何を言っているか理解出来ない言葉を発している様子だった。

 心身喪失している事は誰が見ても明らかだったが、短弓を持つ手の動きと距離の取り方は、的確に獲物を追い詰める狩人の動き()()()()だった。



ひゅひゅひゅん


「けッ!コイツ、弓兵かよッ」


 ウルはスサノオと距離を取ると同時に弓に3本の矢を(つが)え、一糸乱れぬ正確さで放っていった。スサノオは向かって来るその矢を最小限の動きで躱すと、ウルに対して間合いを詰めるが、ウルはそれを直ぐさま引き剥がしていく。

 こうなってしまうと、近距離戦(ショートレンジ)に長けているスサノオには分が悪いとしか言いようがなかった。



「ッたく埒が明かねぇな。こうなったら仕方ねぇ。ヤツが弓兵なら、その土俵で()ってやるだけだ!オレサマの弓の腕、見せてやるさ」

「出ろ、生弓生矢(イクユミイクヤ)ッ!」


 スサノオの周囲に矢が展開されていった。そして、その手には一張(ひとは)りの弓が現れたのだ。しかしスサノオの周囲に浮かぶ矢は弓に番えられる事なく漂っているだけであり、スサノオは弓の(つる)に指を掛け、弦を(はじ)くだけであった。




「この男、隙がまったく無い。目は(うつ)ろで挙動は怪しい狂戦士(バーサーカー)のような、「なり」をしているクセにな」


 動きのあったスサノオとウルに対して、サリエルは動けずにいた。サリエルは両手にそれぞれ細剣(さいけん)を携え「無形(むけい)の構え」を取っている。

 だが、()()()()


 対するヘイムダルは大きな「(つち)」のような得物(えもの)を担いでおり、身体をブルブルと小刻みに震えさせるような変な動きをしているだけで、構えは取っていない。

 そして、()()()()



「相手の出方が分からない以上闇雲に特攻するのは愚策だが、こちらから仕掛けるしかないか」


ばさッばさッ


 サリエルは4枚の翼を大きく広げると羽ばたき、ヘイムダルの周囲を高速で飛び交っていく。そしてすかさず隙しかないように見えるヘイムダルに対して、両手の細剣で斬撃を放っていった。が、ヘイムダルは斬撃が当たる直前に担いでいる「槌」に口を付け、息を吹き流していったのだった。



ぶおおおおおおぉおぉぉぉッ


「くっ。なん……だとッ?!」


ズザサササァ


 ヘイムダルの担いでいた武器は槌ではなく、どうやら「楽器()」だったようだ。そしてその笛が奏でる音圧に拠ってサリエルの斬撃は阻まれた挙句、ヘイムダルには届かなかったのだった。


 サリエルの顔に驚愕の表情が浮かんでいく。音圧に拠る防御だけではなかったからだ。ヘイムダルが響かせた音色は次第に音を膨らませていき、その音の重圧はサリエルの翼を重くしていったのだ。結果その音に因って、サリエルは飛んでいる事が出来無くなり地面に墜とされたのである。



「身体が、言う事を利かないッ!」

「重力を操る魔術……というヤツか」


 サリエルは墜落し地面に(うつぶ)せに倒れ込んだまま、藻掻いていた。しかし身体を動かそうにも、その身体の上に凶悪な「重り」が乗っているかのような感覚に囚われ、身動きが取れないでいたのだった。



「何だぁ?この「音」は?」


びりッ


「多少身体に響いて来やがる。概念(ファンタスマ)能力(ゴリアスキル)の1種か?」


 スサノオは自身の周りに展開した生矢(イクヤ)をウルに向けて放ちながらも、辺りに突如として鳴り響いた「音」に対しても注意を払っていった。するとスサノオの視界の端にふと映ったのは、地面に俯せで倒れているサリエルの姿だ。

 スサノオは「ちぃッ」と声を漏らすと、サリエルの真横で今にも武器を振り下ろそうとしているヘイムダルに対して、展開している生矢(イクヤ)を放つ事を決めた。



 ウルが放つ矢は正確無比である。一度に複数の矢を同時に且つ、一点集中して放っている。

 対するスサノオは複数の生矢(イクヤ)を使ってやっと相殺(そうさい)出来るウルの矢に対して、余所見(よそみ)をしてる余裕などなかった。しかしそんな状況のスサノオだが、サリエルの危機に咄嗟に身体は反応していたのである。



「サリエルーーーッ!」

「そこぉ、どけぇぇぇぇッ。行けぇッ」


びいぃぃぃぃぃぃん


 スサノオは生弓(イクユミ)の弦を弾いた。弾かれた弦の調べは生矢(イクヤ)をヘイムダルに向けて、一斉に飛翔させたのだった。そして、その隙を付いたウルはスサノオに対して集中砲火を浴びせる事になる。



 スサノオが放った生矢(イクヤ)はヘイムダルに当たる事は無かった。流石に距離があった事と、牽制射撃であった事から当たれば御の字くらいの勢いだった。

 だが、スサノオはウルの正確無比な矢に因って穿(つらぬ)かれていた。


 ヘイムダルはスサノオから放たれた生矢(イクヤ)に気付くと、すかさずサリエルから距離を取っていった。それに拠って生矢(イクヤ)は空を貫いた形になったのだが、生矢(イクヤ)の風切り音は音の重圧を相殺していったのである。拠ってサリエルの身体は自由を取り戻していた。

 サリエルは自分を救ってくれたスサノオを見たが、スサノオの背中にはハリネズミのように刺さるイチイの矢があった。



「スサノオ殿!動くな、その矢はッ!」


ダッ


 サリエルは声を上げスサノオの元に走り出していた。サリエルと対峙しているヘイムダルは、それが絶好の好機(チャンス)であったが何故か動かなかった。

 ウルは矢を引き絞り今にも放とうとしているが、サリエルはそれに構わずにスサノオの元へと走っていた。



「よう、無事で何よりだ」


「動くな、この矢はッ」


「イチイの矢だろ?あー、イチイの矢って毒矢だったけか?」


「それを知っていながら何故、不肖(わたし)を助けたッ!」


 サリエルの顔は歪んでいた。まだ会って間もない自分を(かば)って毒矢を受けたスサノオに、申し訳無い気持ちで胸が張り裂けそうだったからだ。



「大丈夫だ、オレサマの心配は別にしなくっていい。だがな、サリエル。おめぇはアイツを倒せるのか?」

「アイツの相手は荷が重いんじゃねぇか?」


 スサノオが見る限り、あの音の重圧はサリエルにとって分が悪いのは明白だった。拠って自分の事よりサリエルの方を心配して声を掛けていった。

 その気遣いにサリエルは少なからず好感を覚えていたが、その場に少女がいたら「自分が2人と闘いたいだけなんじゃないの?」と悪態を()いていた事だろう。



「殺してしまう事になるが、倒す事は可能だ。それよりもスサノオ殿、毒は平気なのか?」


「がっはっは、大丈夫だ。オレサマを信じろ」


「分かった、信じよう。それならば不肖(わたし)はこれより本気で、あの敵の生命を()らせてもらう。操られているのであれば申し訳無いがな」


「甘ぇよ、サリエル。男ってのはなぁ、生命を賭けて戦場に赴くモンだ。だから捕まっちまった段階であとの生命は()()()みてぇなモンだ。だから殺されたって文句は言わねぇハズだ。それが男ってモンだぜ」


不肖(わたし)は女なので知らなかったが、それが男の生き方なのだな、肝に銘じておこう」


「へぁッ?!」


「死ぬなよ、スサノオ殿」


 サリエルはその言の葉を置いて再びヘイムダルへと歩みを進めていった。その後ろ姿をスサノオは間の抜けた顔で呆然と見ていた。


 途中で、ウルが矢をヘイムダルに向かうサリエルに向けて放っていったが、その矢はスサノオに拠って迎撃される事になる。



「けっ。おめぇの相手はオレサマだろ?浮気すんじゃねぇよッ!」

「しっかしまぁ、手が届かねぇから刺さってんのが抜けねぇな。しゃあねぇ、やるか。ふんッ」


みちみちみち

 ぽろっぽろっぽろっ


 スサノオは背中に刺さる矢を抜く為に背筋を盛り上がらせ、突き刺さっている矢を()()()()()()強引に引き抜いていく。



「まぁ、兎にも角にも「林檎(クインスコード)」を無理矢理にでも食べさせてくれた、アイツに感謝だな」

「さっ、次はヘマはしねぇ、覚悟はいいなッ!」


 こうして2人は再び対峙し睨み合いとなった。ウルは短弓に矢を番えスサノオの隙を窺っていく。操られていても尚、身体に染み込んでいる冷酷な狩人の本能が次の一手を狙っていた。




「それで調教は進んでいるのね?」


 一人の女性がフレイヤに声を掛けていた。ここは「フォールクヴァング」の一室であり、そこにはテーブルが置かれ色とりどりの飲み物が入ったグラスが幾つも置いてある。

 フレイヤはその内のグラスを1つ持つと、グラスの縁を舐めグラスの中身を一気に飲み干していった。



「調教とは人聞きが悪いのですわ。わちきの魔術遊戯(セイズ)と、男共が群がるこのカラダを使って、わちきの(とりこ)にしているだけなのですわよ?それよりも、トールはちゃあんと捕まえられたのですわよね、スカジ?」

「ちゃあんと無事に捕まえたのなら、早くわちきに味見をさせて頂きたいモノですわ♡はぁ、ゾクゾクしちゃう♡♡雷神と名高いトールはどんな味でどんな風に、わちきをイカしてくれるのか楽しみで楽しみで待ち遠しいのですわ♡」


「それは残念なのね。トールは「スリュムヘイム」で眠らせているのね。サカるだけの淫乱な貴女にあげるワケがないし味見だけだってゴメンなのね。トールはスカジのモノで、トールはスカジのお父様の仇な事に変わりはないのね。だから存分に甚振(いたぶ)って楽しむ、スカジのオモチャとして永遠に生きながらえさせるのね」


「ふん、貴女も大概なのですわね。そんなコトを考えているなら、わちきの事を悪く言って欲しくはないのですわ」


「貴女みたいに誰にでも股を開く程、スカジはサカってなんかいないのね。男を侍らせて、男に気持ち良くしてもらうなんて、吐き気がするのね」


「聞き捨てならないのですわ。どうやら死にたいようですわね?」


 フレイヤとスカジは共に狂ってはいるが、狂い方はそれぞれ違っていた。

 フレイヤは男に対して狂い、求めるモノは快楽である。しかし、スカジは復讐に対して狂い、対象者の惨めな死を求めている。さらには男に拠って全てを狂わされたスカジは大の男嫌いになってしまっていた事から、男を貪るフレイヤとは犬猿の仲になったのである。

 こうなるまではそこそこ仲が良かったのだが、今となっては見る影もない。



(いさか)いはそこまでにしなッ」


「「ッ?!」」


 2人の間で散っていた火花を消したのは、遅れてこの部屋に入って来た1人の女性だった。

 彼女はビキニアーマーを身に着け腰に巻いたベルトに、どこか見覚えのある一振りの剣を差している。ビキニアーマーは燃え盛る炎のように赤く、形も炎を模しているかのようだ。特にインナーなどを着ていない事から、ビキニアーマーを下着兼装備品として着用しているのかもしれないが、この3人の中では肌色成分が少ないと言えるかもしれない。

 何故なら、下着も着けずシースルーの薄衣(うすぎぬ)1枚しか着ていないフレイヤは、上も下も大事なところが目を凝らせば見えてしまうし、ロングのベビードールを着ているが、その透け感が強い為に下着1枚でいるようなスカジ……といった格好と比べるならば、透け感が全く無いビキニアーマーは露出が高くないと言えるだろう。

 ちなみに、スカジも胸を隠す下着は着けていないようなので、上も下も隠しているビキニアーマーが一番露出度が少ないとしか言えない。――と言っておきたい。



挿絵(By みてみん)



「やっと帰って来れたのですわね、セック。ヴォルなんかに「ウトガルザ」の事を突き止められてしまったばっかりに、貴女に出てもらう事になってしまい……悪かったのですわ」


「そんな些細な事、別に構わんさ」




 フレイヤがオーディンから「ロキ」の居場所を聞かれた時、本来フレイヤは別の場所を伝える手筈だった。「そこにバルドル達の軍勢を向かわせ一網打尽(いちもうだじん)に捕える」そういった作戦だったのだが、ヴォルが少女の頭から見た情報に拠って「ロキ」が「ウトガルザ」であり、それを知られてしまった事で計画を大きく変更せざるを得なくなっていたのだ。

 拠ってその事を謝っているのだろうが、フレイヤの表情は悪びれてすらいない為に、謝る気のない()()()()()()だったのだろうと推測出来る。



「まぁ結果的にウトガルザは(ほふ)られ、代わりにアタイが出る事になっても、ヤる事に変わりはない。ただ、「ロキ」の一騎を失っただけさ。計画が変更になったところで、「神々の黄昏(ラグナロク)」は起きたんだ。気にする必要はない」


「え、えぇ、そうですわね」


「さてフレイヤ、ネズミが入り込んでいる「フォールクヴァング」は一体どうするつもりなのさ?時間を掛ければネズミ達も調子付くし噛まれ兼ねないだろ?地下にはお前のコレクションもいたよな?捨てるのか?」


「捨てるワケがないのですわ」


「くくく。それならそれで構わんが、アタイとスカジは先に戻らせて貰う。まだ、オーディンのヤツが生き残っているから、「神々の黄昏(ラグナロク)」は完全に終わっていない。お前も淫乱な遊興(ゆうきょう)(ふけ)って自分のすべき事を忘れるなよ、()()()()()()


 セックは置土産(おきみやげ)を一方的に紡ぐと、ポータルを開いてスカジと共に「フォールクヴァング」から姿を消していった。



「くッ、その名前で呼ばないでッ、まったく忌々しいのですわッ」


ガシャンッ

 ぱりーん

  ばちゃあッ


 フレイヤは「グルヴェイグ」と呼ばれた事に腹を立て、消えていくポータルに向けてテーブルの上のグラスを投げ付けていった。しかしグラスはそのまま壁に当たり、甲高い音を立て粉々に砕け散っていくだけだった。

 壁には血のように赤いシミが付き、床に向けて垂れていく。


 フレイヤの顔は醜く歪み、それはまるで憤怒に燃える仁王のような形相であって、そこに妖艶で淫靡な表情を垣間見る事は出来ないだろう。



-・-・-・-・-・-・-



 上階でフレイヤとスカジが言い争っている頃、ヘルモーズは地下に(もぐ)り探索していた。

 地下は薄暗くジメジメとしていて気味が悪く、点々と(とも)る蝋燭の明かりを頼りに恐る恐る進んでいた。




「ここは、地下牢なのか?こんな地下牢がフレイヤ殿の宮殿にあったとは。ここのどこかにバルドル(兄上)がいるのだろうか?」

「それにしても暗過ぎる。どれ、あの燭台を拝借しようか」


ぽぅっ


 ヘルモーズは手近な所にあった燭台の蝋燭に火を点けると、牢獄の中をその(つたな)い灯りで照らしていく。ヘルモーズの視界に入る牢獄は全部で8つだ。1つ1つの牢獄は比較的大きく、それぞれの格子の前に立つとヘルモーズは拙い灯りを向けていった。



「中に誰か入れられているのか?だが誰だ?よく見えないな。そこの者、助けに来たぞ。名を名乗ってくれ」


がしゃん


「ひィっ」


「フレイヤさまぁ♡この従順な犬にご褒美を下さいませぇ♡」 / 「貴女様の従順なペットでございます。どうかこの小汚いペットに淫靡な蜜をお恵み下さぁい♡」


「な、なんなのだ、コレは……ッ。はッ、よく見ればどこかで見た事のある顔ぶればかりではないか。高潔な武人ヘーニル殿、博識な賢人クヴァシル殿……なんでこのような事に」


 ヘルモーズは信じたくなかった。自分の知ってる者だからこそ、そのかけ離れた醜悪な姿に吐き気を催していた。フレイヤに対する劣情のみに支配され、無様で滑稽で哀れとしか言いようのない変わり果ててしまった姿に、少なくとも好感が抱けるハズもなかった。

 だからこそ、バルドルがこのような惨めな姿に堕ちていない事だけを、一心に祈る事しか出来なかったのだった。



 ヘルモーズは祈りを込めて次々に牢の中を確認して行く。途中で幾度も家畜に成り果てた無残なモノ達にせがまられ、嫌悪感を顕わにしながらもバルドルの無事を確認する事に必死だった。

 こうしてヘルモーズは牢獄の確認を重ねた結果、6つ目の牢獄の中に知人を見付けたのである。ヘルモーズはその者であれば家畜になっていないと考え、声を掛ける事にしたのだった。



「オーズ殿?そこにおられるのはオーズ殿か?」


「おぉ、そこにいるのはヘルモーズか。どうして、おヌシがこんな所に?」


 ヘルモーズの思惑は正しかった。このオーズはフレイヤの夫であり、フレイヤへの劣情に囚われるハズがないと考えたからだ。


 そんなオーズは生気の無い顔で牢獄の中にいた。昔見た姿とはかなりかけ離れているその姿が、牢獄内での生活の過酷さを物語っている様子だった。



バルドル(兄上)を探しにここまで来ました。バルドル(兄上)はこの牢獄に捕らわれておりませんか?」


「それなら一番奥の牢にいる筈だ」


「一番奥ですね、ありがとうございます。ところでオーズ殿はどうして牢に繋がれているのです?フレイヤ殿はオーズ殿の奥方ではございませんか」


「フレイヤは乱心したのだ。そして、グルヴェイグに身体を乗っ取られてしまった。それに気付いた者やフレイヤに近しい者達は皆籠絡され家畜のように成り果ててしまった。更には「アースガルズ」から連れて来られた神族(ガディア)もこの前見掛けた。あぁ、もうお終いだ。オーディン様に見付かれば生命はあるまい」


「お、オーズ殿、グルヴェイグと申されたか?何故、グルヴェイグがここに?それもフレイヤ殿の中に?グルヴェイグは主に拠って封印された筈ではなかったのですか?!」


「全ては「ロキ」が(はか)った事だ」


 オーズの生気を失った瞳は、より一層絶望に囚われていった。思い出すだけで身体が震え、心が凍りつくのを必死に止めようと、身体をその手で(さす)っているかのようだった。



「「ロキ」は封印されていたグルヴェイグを解き放ち、フレイヤを手篭めにしてその体内に無理やり宿したようなのだ。それに因ってフレイヤは徐々に犯され、壊されていった。私が気付いた時にはもう、フレイヤは……」


「オーズ殿、さぞかしお辛かったでしょう。心中お察しします。でも大丈夫です、今、助けます。非才と共にここから逃げましょう」


 ヘルモーズは項垂れるオーズを見ていられなかった。だから牢の鍵を開けるべく自身の剣を抜いた。ヘルモーズは剣が得意ではないが、それは敵が()()()()であり、動かなければ造作ないくらいに使う事は出来る。

 だから、素人というワケではない。



「私の事は良い、捨て置け。ヘルモーズは先にバルドルを助けてやれ。それにな、フレイヤの亭主たる私が、変わり果てた妻を放って逃げ出す事など出来よう筈もない」


「分かり申した。ですがオーズ殿、お気を強く持って下さい。バルドル(兄上)を救った後で必ずやお助けに上がります」


 こうしてヘルモーズは、オーズが話していた一番奥の牢獄へと向かった。だが奥の牢獄の前に立ったヘルモーズは驚愕したのである。

 そこには虚ろな目をして座り込み、力無く嗚咽(おえつ)と乾いた笑いを交互を漏らしているだけの、弱々しいバルドルの姿があったからだった。



バルドル(兄上)、しっかりして下さい!」

「あからさまにフレイヤ殿に何かされたのは間違いがないな。だが、先程までに見た家畜にはなっていない。これなら助けようはあるかもしれない」


ガキんッ


 ヘルモーズは剣を振るった。鈍い音を立てて牢獄の鍵は破壊されていき、鎖に繋がれているバルドルを無事に解放する事には成功していた。

 だが、当のバルドルはヘルモーズに気付く事無く、ただ力無く笑っているだけだった。


 ヘルモーズはバルドルに肩を貸し強引に立たせると、牢獄を出るべく来た道を戻る事にしたのである。

 そして、常にその名を呼び掛けていた。




「生命を()らせて貰うが文句は言うなよ。この力を使うのは久し振りで加減が出来ないんだ」


ざっざっざっ


 サリエルはヘイムダルにただ近付いて行く。翼は折り畳み、剣は鞘に納めていた。それは完全なる丸越しであり、生命知らずと(そし)られても可笑しくない姿である。

 一方のヘイムダルは「()」を担いだまま、サリエルを見ているだけだ。


 ヘイムダルへと歩を進め、あと数歩まで近付いた時にサリエルの額に眼が開かれていく。

 それは望んで手に入れた力では無く、押し付けられた力であり、自身(サリエル)に罪を(なす)り付けるべく、陥れようとする悪意に拠って埋め込まれた力だ。


 それはかつて闘った少女に拠って、堕天した「魔性性(ましょうせい)」が打ち砕かれた際にも、額に残ったままになっていた魔眼だ。サリエルは大天使(アークエンジェル)としての「神聖性(しんせいせい)」を取り戻した後で、額に残った魔眼の制御の特訓を行っていった。


 それは想像を絶する程の苦痛を伴った。その為にサリエルの身体は引き裂かれ髪は抜け落ち、瞳の色が変わる程の心痛に因って疲弊し、()り切れていったのである。だが、サリエルは自分が殺めた神族(ガディア)に誓いを立て、その苦難を遂に乗り越えたのだった。

 その結果、魔眼の発動や効力を自分の意思1つで操れるようになったのである。



 サリエルの魔眼はヘイムダルを視た。ヘイムダルは操られていると言っても「アースガルズ」に於ける有力な神族(ガディア)の一柱である。拠って、生半可な力で倒せる程に()()()()

 だからこそサリエルの魔眼である「邪視(じゃし)の魔眼」は、効力を操れるようになっても尚、ヘイムダルをその魔眼の力に拠って殺める以外の道を示せなかった。



 因ってヘイムダルは邪視の魔眼に見初(みそ)められる事になった。見初められたヘイムダルは魔眼にその生命を奪われ、その場に力無く倒れ伏してその生涯を終えた。

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