フワライドウノカンパネラ ν 挿絵付
少女達は「アースガルズ」への道を進んでいた。少女は空を駆けて先行し、そして空を行けないスサノオとヘルモーズを徒歩で向かう事にしたのだ。
雷神の鎚はスサノオが担ぎ、「ウトガルザ」で集めた食料等の物資はヘルモーズか担いでいる。
一行が「アースガルズ」へ向かう前にヘルモーズは、先の道中で見た事を2人に話していた。
・道中でバルドルの軍勢を発見出来なかった事
・発見出来なかったので、怪しいとは思いながらもそのまま「アースガルズ」まで行った事
・「アースガルズ」に到着した際、既に「アースガルズ」は崩壊していた事
・「アースガルズ」周辺には巨人族や魔獣が跋扈しており、そして問答無用で襲われた事
それらの情報に拠り転移で一足飛びに向かうよりも、バルドル達の行方を探る意味も踏まえて地を行く事にしたのである。
まぁ、少女は空からだが。
少女達が「ウトガルザ」を発って2日後の昼前の事だった。「そこ」で少女は何か「違和感」のようなモノを感じ取っていた。
それはハンターとしての勘とも言えるし、野生の勘とも言い変えられるような些細なコトだった。
すちゃッ
「ん?どうした?上から見ていて何かあったのか?」
「うん……。何か、違和感があるのよねぇ。何か気付かないこの森を見ていて」
「どーいう事だぁ?ヘルモーズ、違和感なんてあるか?」
スサノオはどうやら違和感を感じなかった様子だ。そして急に話しを振られたヘルモーズも分からない様子で首を横に振って返していた。
「上から見てて思ったんだけど、この森だけ若過ぎると言うか、成長が可怪しい気がするのよ。何かを意図的に隠した……みたいな?」
「「森が若い?」」
「えぇ、この一角だけ木の成長がおかしいって言うか……あぁ、なんか説明するのが難しいわね」
少女はそう言の葉を紡ぐと木に対して手を伸ばし、その幹に触れる。だが触ったその感触が変なコトなど一切なかった。
「ねぇヘルモーズさん、ドラウプニルってどんな力を持ってるの?」
「ドラウプニルは光に拠って魔を祓う力がありますが、そもそもそこまで邪悪な存在は「神界」にはおりませんので、大体は目くらましくらいにしかなりませんよ?」
「そっかぁ、魔を祓う力……。そう言えばドラウプニルってさ、真神征鎚と一緒に作られたって前に読んだ気がするけど、他にもあと1つあったわよね?」
「グリンブルスティですね」
「グリンッ?なんだそりゃ、首を捻りそうな名前だな」
「そのグリンブルスティは確か……」
「フレイ殿の騎獣です。乗らない時は身に着けておく事が出来ます」
「そりゃ便利だな。オレサマもそんな便利な騎獣なら欲しいモンだぜ」
「スサノオ、確かそれってイノシシだからスセリビメさまに嫌われるわよ?」
「けっ!あんなヤツに付いてったバカ娘なんざ知ったこっちゃねぇな。むしろそれで娘婿の野郎に嫌がらせが出来るってんなら、喜んで欲しいくらいだ。なぁヘルモーズ、とっ捕まってるヤツら助けたらそのグリングリンをオレサマにくんねぇか?」
「い、いやぁ、グリンブルスティはこの国の至宝の1つなので流石にそれはちょっと……」
話しはかなり逸れていた。自己中を地で行くスサノオに対して、周りへの気遣いを怠らないヘルモーズのコンビは見ていてなかなか楽しい少女だったが、今が気を抜けない時である事に変わりはない。
なので、そんな漫才を見ながらも少女は思考回路をフル回転させ、それらの至宝から足取りを追えないか方法を思案していた。
そして、1つの策を思い付いたのだった。
「それなら、ヘルモーズさんが持ってるドラウプニルと、スサノオが担いでいる真神征鎚で、グリンブルスティを探せると思うの」
「と、ところで、ずっと気になっていたのですがなんで貴女様はミョルニルの真名をずっと言っているのですか?」
「えっ?そんなコト全然意識してなかったんだけど?」
「はぁ……それならばいいです。ミョルニルは“ミョルニル”と発音しないと危険な至宝ですぞ?真名を無闇矢鱈に口にして概念能力が発動したら生命を奪われ兼ねませんからな」
「それって全然、良くないじゃん」
「なので、名前は慎重に発言してもらいたいと思ったのですぞ」
「うっ。ま、まぁところで話しを元に戻すわね。バルドル達が率いていた軍勢が消えた理由なんだけど、あれだけの軍勢が何かしらの戦闘をしたのであれば、必ず痕跡が残るわ」
「それに帰ったとしたなら足跡が片道だけってのも可怪しいしな」
「ええ、スサノオの言う通りね。でも、今に至るまでその両方の痕跡は無い。そして、ここにある怪しい違和感」
「おいおい、何をする気だ?」
少女は徐ろに森を見ながら両手を高らかと上げていった。そしてそれに拠って、「何かをおっ始める」と感じたスサノオは声を上げた格好になっていた。
「我が手に集え音の羽よ。右手に集え慈悲の鐘よ。左手に集え利得の鏡よ。二つの羽よ合わさり混じりて智慧の音を授けよ」
「三筋の力よ、元は一つの正しき力よ、汝の行方、此処に示さん」
「へぇ、こりゃ凄げぇ。概念能力の模倣ってヤツか」
少女の手に宿る力はヘルモーズの持つドラウプニルと、スサノオの担ぐミョルニルへと魔力の流れを齎し、残る1つの行方に向けて彷徨う力は力場を構築し円環を重ねていく。
「魔術回廊・智慧之泉!」
「へっ、やっぱりな。オモイカネ・タカムスビの概念能力の模倣か。オレサマのオヤジとは別口の神族だが、そんなモンまで使えるたぁ恐れ入るぜ」
少女が使った概念魔術は万象の知恵そのものであった。僅かな痕跡を鍵として、残されたモノから全てを導き出す知恵を司る神族の概念を模倣した魔術だ。
拠って、概念魔術の発動に拠って創られた円環は集まり寄り添い一点集中し、力場をこじ開けていく。
その場所はやはり、少女が先程違和感を感じた場所で違いはなかった。
ぎゅおぉぉぉぉぉぉぉ
「さっ行くわよッ!付いて来て」
「お、おいおい、ちょっと待てよ。ほら、ヘルモーズもボサっとしてんな」
少女はこじ開けたワームホールの中へ、そそくさと侵入っていってしまった。スサノオは開かれたワームホールに感心しながらも少女の事を追い掛け、ヘルモーズも置いてかれまいと急いでその中へと飛び込む形となったのだった。
開いたワームホールは3人を飲み込むと、余韻も残さず消えていき全員が揃って「神界」から姿を消したのである。
ワームホールを抜けた先に広がる世界は、明らかに今までに行った事のない世界だった。拠ってあからさまに「神界」と違う事は一目瞭然と言える。
大地にはしっかりとした地面はあるが、まるでマシュマロの上を歩いているように身体がフワフワとして感触が掴み辛い。それは今までに体感した事のない感覚であり、身体が凄く軽くなったような感触に囚われてもいたのだった。
要するに重力が小さい世界と言い変えられるかもしれない。だがそれが分かったところで、ここがどこなのかはサッパリ分からないのもまた、事実でしかなかった。
しかし、一面キレイな花が咲き乱れて暖かな陽射しが降り注いでいるので、少なくとも「冥界」や「魔界」の一部でない事は確かだろう。
「こ、ここは一体どこなのです?」
「なぁ、おめぇには、ここがどこだか分かるのか?」
「さぁ?アタシにそんなコトが分かるワケないじゃない。まっ、少なくともアタシが今までに行った事があるどの世界とも違うってコトしか分からないわね」
「だから、「人間界」「魔界」「神界」「冥界」以外の世界ってコトになるかしら?」
「おめぇ、どんだけ違う世界に行きまくってんだよ」
「それ以外の世界となると……想像も付きませんね。いや、待てよ……」
「ところでよ、この良く分からない世界から戻る手段はあんのかよ?消えちまったヤツら見付けても「神界」に帰れなかったらそれはそれで、そこんトコはどうなんだ?」
「て、テキトーに探せば手掛かりくらい、ある……うん、あるハズよッ!」
流石に今まで異世界を渡り歩いた事のある少女と違い、見ず知らずの世界に来てしまった2人は明らかに動揺してると言える。よってその動揺は少女の肩を掴み揺さぶる事で解消されると思っていた様子だ。
然しながら少女としては動揺をしていないだけでしかない。
だからこそスサノオに対する返答は視線を逸らした上に曖昧であって、信頼性に欠けるものであったのは言わなくても伝わるだろう。
「まぁでもね、グリンブルスティが、このフワフワした世界にあるのは確かってコトよッ!それだけは保証してあげるわ」
少女は話しながらもスサノオに視線を送っていた。そして視線を受け取ったスサノオもまたそれを理解していたのだ。
シャっ
「な、なんですか、一体?」
「そんなコト、言わなくても分かんだろうがッ!敵さんのお出迎えってヤツだ」
スサノオは少女が言わんとしている事を理解した上で掴んでいた少女の肩を押した。小さい重力の為に押された少女との間の距離はみるみる内に広がり、その2人の間を刃が通り過ぎていったのである。
「ちっ、2人仲良く斬り裂かれればいいものを」
「あ、貴方はッ?!一体何をしているのか分かっているのですか、フレイ殿!」
「ヘルモーズ、分かっているさ。やつがれは「アルフヘイム」に押し入って来た賊を討たんとしているのだからな」
「フレイ殿、一体如何が為されたと言うのだッ」
「アルフヘイム?でもま、いいわ。フレイさん、教えてもらえる?バルドル達は、「アースガルズ」の軍勢はどうしたの?」
「明らかにバルドルに従軍していた時と違う」と思いながらも、情報を聞き出そうと紡ぐ少女に対して、フレイは盛大に殺気を放っていた。しかし残念なのは、そんなフレイを未だ信じている様子で、殺気にも気付かないヘルモーズだ。
もしも安易にフレイに近付こうとすれば人質になる恐れや、そのまま斬り伏せられる可能性も高いと言わざるを得ず、警戒を解くなんてもっての外と言う以外何と言えるだろう。
「フレイ殿、皆がいなくなった間に「アースガルズ」は大変な事になっているのですぞッ!」
「えぇ全て知っているよ、ヘルモーズ。この度の件は「ロキ」が仕組んだ事なのだから」
フレイのその一言で空気が変わった。ヘルモーズは怯えや怒りを露わにしながら後退り、フレイと距離を取ろうとしている。
だが一方で、フレイの口角は上がり美男子の顔が歪んでいく。
「裏切ったのですか?我等が主神を!「アースガルズ」の皆をッ!」
「いやなぁに、「アースガルズ」が滅ぶのは明白だろう?だからやつがれは後々の為に「軍勢」を隠しただけさ。そんなに怒るなよ、ヘルモーズ。だがな、そっちの2人は違う」
「そっちの女は「ロキ」を滅ぼし、その結果「アースガルズ」に「神々の黄昏」を招く結果を生み出した張本人だ。そして、そっちの男はミョルニルを奪った張本人だったな?それに肩に担いでいるのが何よりの証拠じゃないかッ」
「このミョルニルは「ウトガルザ」から取り戻した物です。それを我等が主神に返しに行くとち――――ッ?!」
ヘルモーズの弁解を途中で切ったのはスサノオだった。そして途中で言葉を切るハメになったヘルモーズは「何故?」とでも言いたそうな顔をスサノオに向けていた。
「そんくらいでもういいぜ、ヘルモーズ。元より、コイツからは変な「風」が臭ってやがる。操られてやがんのか、それとも言ってるコトが本心なのかは知ったこっちゃねぇが、話し合いで解決出来る状況じゃねぇだろ、こりゃあよッ!」
「それにな手っ取り早く解決するにゃ、拳で語るのが一番だろッ!だからコイツはおめぇが持ってろヘルモーズ。大事なモンなら落とすなよッ」
スサノオは担いでいたミョルニルをヘルモーズに投げると、自分は単騎でフレイに向かって特攻して行ったのだった。その様子を見ていた少女は何やら呆れた顔をしていた。
「はぁ……。相変わらずの戦闘狂ね」
スサノオは拳を握り、フレイ目掛けて拳を放つ。だがその「拳」はフレイに当たる事はなく、見えない壁のような物に阻まれたのだ。
「ぐッ。なにクソこのヤロウッ!」
「どぉうわああぁぁぁぁッりゃあッ。おりゃりゃりゃりゃりゃあッ」
ダダダダダダダダダダダダッ
「フッ無駄な事を」
ぴしッ / つつーーー
スサノオは見えない壁に阻まれたが諦める事なく、先ずその壁に拳で語る。それは連打と言う語り口で次々に見舞われた語種であり、フレイはその様子を嘲笑を湛えながら見ていた。
しかし、ガラスにヒビが入るような音が聞こえた後で、フレイの頬から一筋の赤い血が流れていくと、その嘲笑は驚愕へと変わっていく事しか出来なかったのだった。
「な、何だと?!ミョルニルの攻撃にも耐え得る壁を越えて、やつがれの美しい顔に傷……を?」
ぱりぃぃいいいぃぃぃん
「へっ、大した事はなかったな。じゃあ、これは遊び足りねぇ駄賃だ。受け取っとけ!おらよッ」
どごっ
「ぐはぁッ」
どさぁッ
「まだまだ終わらねぇぜ、美男子!そのツラ、見るも無惨に変形させてやんぜ」
フレイはスサノオの鉄拳を浴び吹き飛ばされていった。そして、そのままスサノオは一足飛びでマウントを取ると、フレイの顔に対してその顔が変形する程の拳を浴びせていったのである。
「あらら、色男が台無しねぇ」
「あわわわわ、さ、流石にやり過ぎなのでは?おろおろ」
「ッ?!何か……来る。ナニ?この凄っごくイヤな感じ」
「ねぇ、オイタはそれくらいにして、その人をいい加減に返して欲しいなのですわ」
そこにどこからともなく現れたのはフレイヤだった。フレイヤはその輝くばかりの美貌を湛えた顔に、妖艶な笑みを浮かべスサノオを見詰めていた。
「残念ながらオレサマにゃ、そんなチンケな術は効かねぇぞ」
「へぇ?わちきの魅力が分からないなんて、なんて無粋な人なのですわ」
「でもそれなら仕方ないのですわ」
フレイヤは凄く残念そうにボヤくと、そのバストラインが丸わかりな薄衣をワザと肌蹴させ、そのたわわに実った豊満な胸元から1つの首飾りを取り出したのである。
「魅惑光環、わちきの美しさを讃えさせるのですわ!」
「なッ、なん……だ……コ…………レ」
フレイヤの装飾から放たれた光はスサノオを包み込み、直ぐにスサノオはフレイに馬乗りのまま微動だにしなくなった。拠ってそれが「完全なる魅了」の力に因りフレイヤの傀儡と成り果てた瞬間と言えるだろう。
「さぁ、お兄様を離すのですわ」
「ははっ美しき女性」
「え?ス……サノ…………オ?ちょっと、どう言うコト?」
少女は驚きのあまり言葉を失い、ヘルモーズもまた然りだ。あからさまにスサノオは可怪しくなっているコトが一目瞭然でしかなく、そしてスサノオが敵に回るとなると現状で全く歯が立たないコトになり、それは絶望でしかない。
「さて、それでは新しく手に入った、わちきのペットの性能を見させて頂くなのですわ」
「うふふ♡細身のお兄様のカラダも好みなのですけど、逞しい筋肉も捨て難いのですわ♡♡あぁこの硬さ、わちきの胸に貼り付くようなこの逞しさ、腕も胸も足もこんなにカチカチでこれならきっと、わちきのコトを盛大に愉しませてくれるのですわ♡」
「うふふふふふ♡♡とぉっても楽しみ過ぎて今からでも淫らにイッてしまいそうになるのですわ♡あぁんッ♡♡胸をちょっと擦り付けただけでこんなに気持ちいいなんて……はぁはぁはぁっ、あぁん♡♡病み付きになりそうなのですわ。あぁっこっちもカチカチでとってもステキでイイ気持ちなのですわぁ、わちきの太腿を求めるようにこんなに硬くして、これじゃ止まらない止められない、わちきの淫らな声が漏れて、ああぁぁぁぁん♡♡♡いぃッ、イクのですわあぁぁぁッ♡♡♡」
フレイヤは完全に堕ちたスサノオの強靭で屈強な身体に淫らに手を這わせ、白く透き通るような細い腕を蛇のように巻き付かせていく。さらに肌蹴させている上気して桃色に染まった、たわわな双丘をスサノオの立派な胸筋に押し付け上下させて摩擦を愉しむと、次は淫らな息を吐いて柔らかそうな肌触りの太腿をスサノオの頑強な脚と腰に巻き付け、その手をスサノオの身体に回して身体を前後上下に動かしていった。
フレイヤはその淫らな肢体で全身に快感を感じ取り、快楽を貪り淫らな喘ぎ声を上げていたのである。
そして、一通り満足した様子になるとスサノオの耳元でそっと囁いたのだった。
「さぁ、わちきのペット、あの2人を捕まえるのですわ」
少女はスサノオとフレイヤの絡みを見て、何も感じなかったワケではない。そしてこれが普段通り冷静であれば、顔を真っ赤にして耳までそれに応えていた事だろう。だが目の前で2人が絡み、フレイヤが快楽に身悶えている今は最大の好機であり、耳まで真っ赤にしている余裕などなかったのだった。
いや、少なくとも少女には刺激が強過ぎたので多少は色付いていたが、そこは見ないのが花というヤツだ。
まぁそんなコトはどうでもいいが、どうでも良くないのは敵になったスサノオは脅威でしかないと言う事だった。
しかしこのどうしようもない現状の打開策は、少女の頭の中に閃いたのではなく、突如として響いた声に拠って齎されたのであった。
「急いでこっちへおいでー」
こうして少女達はスサノオが動き出したのとほぼ同時に、声に導かれるまま迅速に行動したのである。




