理由と魔族とミルフォードとディレイ ν
「家出って、どういう事?」
「その通りの意味なのですわ?」
「えっと確か、アタシが知ってる限りだと、ルミネは元々王都ラシュエで仕事する事になってたわよね?研究所だっけ?」
「えぇ、流石御子様。よく覚えていらっしゃいますわね」
「でしょでしよ?えへへ」
「それで、うーんと、そこに部屋があるって誰かから聞いた気がするけど、そこから家出?でも、それだと家出と言うよりは……」
「夜逃げですわね」
「そう、それ!でも、それってルミネのイメージじゃないのよねぇ」
「わたくしのイメージ?それってどんなイメージなのか気になりますわね」
「だって、ルミネってバリバリ研究してそうじゃない?研究が生きがいですわ~みたいな?」
「わたくしのコトを揶揄っておられるんですの?まぁ、でもそれは認めますわ。そのせいで適齢期を迎えても婚約話しの1つもありませんし」
「えっ!?あ、いや、うん。それじゃあ、どこから家出したのよ?住んでる家から家出したんじゃないなら家出にならないんじゃない?」
少女は飽くまでも、自分が「魔界」にいた時の事しか知らない。
故に、「魔界」がそれから3年経ち状況が変わっていても知る由もない。
少女は既に「魔界」に行く術を持っているが、なかなか纏まった休みが取らしてもらえなかった事から行くに行けず、ずるずると今に至るのだ。
まぁ、ハンターなのでノルマさえ達成していれば休むのは自由なのだが、そうも言ってられないのが現状だった。
だから少女はルミネの現況について全く知らないし、ルミネも当時の知識しか少女が持っていない事を当然理解していた。拠って認識の差異を埋めるべく、身の上に起きた事を切り出していった。
だが、その口調はとても重かった。
ルミネは少女が人間界に去った後で、自身の研究課題の一環だった「極大魔術」を完成させた。
少女が去った後に「魔界」で起きた「騒乱」を治めたルミネの「極大魔術」は、その時にはまだ「完成」していなかった。
その時はただ「制御に成功」しただけであり、それだけでも「騒乱」を収めるコトには成功した。だが一方で、その魔術は重大な欠点を抱えていた。
その欠点は「魔力不足」にあった。
極大魔術を自身のオドのみで行使しようとすると、魔族の膨大なオドを用いても1日に1回が限界だったのだ。だが、オドの回復量次第では行使する事が叶わない時もあった。
それでは戦闘時に役に立たない可能性が芽生えたのだ。
そこでルミネは考えた結果、マナを編む事を選びマナを効率良く扱う為の研究に勤しむ事になる。
四苦八苦しながらも勤しんだ結果、効率良くマナを扱う為のノウハウを構築し自分の「モノ」にする事が出来たのだ。
その努力が実を結んだ事に拠って、極大魔術は完成に至った。
「マナ収集のノウハウの確立」と、「魔法の領域に逼迫する魔術」の完成は魔族にとっての「快挙」であり、ルミネは更にそれの副産物とも言える、「マナ集積装置」すらも創り上げていた。
とは言え、元々マナを扱うのが苦手な魔族にとって画期的な発明ではあったが、己のオドを使い切る程の強力な魔術の行使は、そもそも出来る者が少ない。
だから、画期的ではあったが浸透するには至らなかった。
ちなみに、その装置は少女のデバイスを解析した結果の副産物であり、解析した事で創り出せたと言う事実は、周りには秘密にしているが余談である。
しかしルミネの極大魔術の完成と言う快挙を良くは思わない人物がいたのだ。
それがルミネの父親であるルネサージュ伯爵家当主、アスモデウス・ネロ・ヴァン・ルネサージュ侯爵だった。
ちなみに、「魔界」の貴族は家名と本人それぞれに爵位が与えられるので、家名の持つ貴族位と本人が持つ貴族位が必ずしも一致しないが、これもまた余談だ。
アスモデウスは少女のやらかした一件に因って、自分の権威の失墜を極度に恐れる様になっていた。
その結果、自分の娘が成した快挙に焦燥感を抱き、事ある毎にルミネを王都ラシュエから呼び出したのだ。
王立研究所に於いて、研究中だろうと管理官としての仕事をしていようと呼び出しは掛かった。最初はまぁそれでも良かった。くだらない内容でも大目に見る事は出来た。
だが日増しにエスカレートしていくその呼び出しに、ルミネはついにノイローゼ気味になっていった。
因って何度目かの呼び出しの折に、ルミネは父親であるアスモデウスに対してブチ切れたのだった。
ルネサージュ城を半壊させる程の親子喧嘩の後、ルミネは父親の手に因って囚われ謹慎を申し付けられたのだ。
「だから家出をして参りましたの♡」
「いやいやいや、その♡はいらないんじゃないかな?ってか、囚われたって言うならルミネは罪人になっちゃったワケ?」
「まぁっ!たかだか親子喧嘩ですわよ?お父様が根に持って、わたくしを反省の意味を込めて懲罰房に投獄しただけですわ。そんな事で反省なんかするワケないのにメンツ保護をするのも大変ですわよね?」
「ねぇあのさ、そもそもなんだけどさ、ルミネってキャラ変わったわよね?昔のルミネはもっと可愛らしかったと言うか、健気な感じだったじゃない?」
「そ、そんな事、決してございませんわよ。今も可愛くて健気ですわ、み・こ・さ・ま。おほほはほ」
「はあぁ」
その言動の怪しさに少女は、「何かを企んでるな」と思わざるを得なかった。
少女はルミネを信じているので過去に起こった事は嘘ではなく事実だろうと考えたが、怪しい感じには疑わざるを得なかった。
「何も企んでおりませんわよ?」
「っ?!」
「はぁ、ルミネまた読んだのね?」
「おほほほほ」
「疑いは晴らしておきませんと宜しくないですもの」
「ところでルミネ、その身体は本体なワケがないわよね?魔力製素体を造ったの?」
少女はルミネから先制パンチを貰ったので、それについては一時保留とした。なので次に疑問に思った事を深く考えずに素直にルミネに投げてみた。
だが、少女が質問した内容は少しでも魔術を齧った事がある者なら仰天する程の内容だった。
「この身体は自分の本体そっくりに創った、ヒト種ベースのマテリアル魔力製素体ですわ」
「ですけど、ヒト種ベースですので形態の変化は出来ませんし、体内のオドの総量もだいぶ減っておりますの」
「それに魔眼の力だって制限されてしまいましたわ。はぁ」
「ねぇ、それって本当にルミネの本体そっくりなの?本当に何も盛ってないの?」
「えぇ、正真正銘、わたくしの身体そのものですわよ?本体をお見せ出来ないのが残念ですけど……」
「でも、何をそんなに気にしていらっしゃいますの?」
「えっ?!いやいや、うん、全然気にしてないよ?大丈夫、大丈夫だから、気にしてなんかいないから大丈夫よ!うん、大丈夫!!ほら大丈夫!!!!」
ルミネは素直に少女の質問に応えていた。一方で少女はルミネが色々と盛っているんじゃないかと期待していた。
しかしルミネの解答を信じるならば、それは無いと言う事になる。
だからそれは少しだけ少女を落胆させた挙句、ルミネからの鋭いツッコミに因って挙動不審となった。
「そうしたら、今のルミネの身体は、ヒト種の身体のつくりとなんら変わらないって事になるのね?」
「えぇ、そうですわね。通常のヒト種よりオドが多くて、ちょっとだけ魔眼が使えるくらいですわ」
ルミネは少女からの質問に対してこれまた普通に解答した。だがそうすると解せない事があるので、少女は振り返ると今度は爺に質問を投げていった。
「ねぇ!爺は何で、ルミネが魔族だって解ったの?ルミネはヒト種そのものなんでしょ?」
ルミネの外見に於いて魔族の特徴は全く無い。
下心満載の男性からチヤホヤされそうな身体つきで、整った凄くキレイな顔立ちと言う事を除けば普通のヒト種の人間そのものだ。
それなのに、爺はルミネが魔族である事を一目見ただけで解ってしまった事が少女にとっては疑問だった。
まぁ、それは爺の正体を見破ったルミネも同じと言えば同じなのだが……。
「お嬢様、それは魂の在り方を見たからで御座います。魂が在る者ならば、その者の善し悪しが分かるので御座います」 かちんっ
「ルミネ?どうかした?」
「なんでもありませんわよ?おほほほ」
ルミネは爺の発言にイラっして、「厶っ」とした顔をしていたが、少女が徐ろにルミネの方を振り返ったので、直ぐに表情を元に戻し何事も無かったアピールをしていた。
「それなら、普通の人間にはルミネが魔族だって事は分からないわね」
「お嬢様、恐らくはその通りかと思われます」
「よしッ!決めたッ!」
「御子様?どうされたんですの?何を決められましたの?」
「ねぇ、ルミネ!家出してきたって言ってたけど、これから先の事は何か考えてる?」
「えっ?何も考えておりませんわよ?ただ家出がしたかっただけですもの。それにお父様の顔も見たくありませんし、王都に戻っても連れ戻されてしまいますから」
ルミネの解答が、少女はもの足りない気がしたが概ね想定内だった。
最初、少女はルミネが何かを更に隠していると感じていたが、それは杞憂だったと考え直した。
「それじゃあ、ルミネ、貴女もハンターをやりなさい!」
「御子様と同じようにですの?」
「えぇ、そうよ!だって考えてもみて?アストラル体なら食事は飽くまで嗜好品だったけど、マテリアル体にとって食事は嗜好品じゃなくて、生活必需品よ。そしてそれを買うにもお金が必要なの。お金持ってないでしょ?」
「あぁ、なるほど、お腹のあたりにある不快感や、病でもないのに目眩がするのはそのせいだったのですわね?それに当然人間界で使えるお金は持っておりませんわ」
「えっ?ちょっとルミネ、人間界に来てから何も食べてないの?」
「えぇ、そうですわよ?だって、生活必需品だなんて知りませんでしたもの」
「爺、お願い出来るかしら?」
「お嬢様の言い付けで御座いましたら、致し方ありません。ご用意致します」
そう言うと爺はキッチンへと下がり、軽食を手早く用意している様子だった。
その間にも2人の会話は進んでいく。
「あっ!そうだ!でも、ルミネの家名は人間界で出したらダメよ!」
「えっと、それはどう言う意味ですの?」
ルミネは目を白黒とさせながら、少女に対して言の葉を投げていく。ルミネはまだ20歳だと言っていた。
ならば知らなくて当たり前だ。少女もリアルでは知らないのだから。
それは惑星融合前にテルースで起きた事件の事だ。
魔族が「破壊と混沌を齎す絶対悪」と人間界で教えられる契機になった出来事だ……。
だが、その契機は惑星融合後の今になっても言い伝えられているし、当時の事を知っている人達は今でも魔族を憎んでいるのだ。
「ルミネの家名は人間界だと知ってる人は知っているのよ。だからそれだと直ぐに「魔族」である事がバレてしまうの」
「やはり魔族は人間界では嫌われているんですのね?」
「快く思っていないコトだけは確かよ。だから念の為、家名は出さない方がいいわね」
少女が話した事は決して脅しなどではない、だがルミネを前に「魔族が絶対悪」なんてコトが言えるハズもなかった。
しかし、契機の出来事にルネサージュ家が加担した伝承も文献もないが、「魔族」について調べている研究者は確かにいる。
だから、「魔界」の有力貴族であるルネサージュ家を知ってる可能性は低くない。
「だから、ルミネの家名は隠して、この国に新しく戸籍を作りましょう!」
「どうかしら?ハンターやってみない?」
「わたくしにも出来ますの?」
「アスモデウスさんより武勲を稼げる人が出来無いワケ無いじゃない!」
「ふふふ。そう言えばそうでしたわね。そんなコトもありましたわね」
「分かりましたわ。ハンターやりますわ。お金も稼げますし、人間界のコトも勉強出来ますし、お父様から逃げれますものね。やってみせますわ!」
ルミネは比較対象に出された「アスモデウス」より上という内容に特に気分を良くした様子だった。
「じゃあ、ルミネの名前から決めましょッ!」
「ルミネ的には名前の案が何かある?」
「突然言われても考え付きませんわ。御子様にお願いしますわ。御子様がわたくしの名付け親になって頂けませんこと?」
「名付け親って…、あははは。それじゃ、変な名前は付けられないわね」
少女はルミネの名前を考える為に頭を捻らしていく。そしていくつか候補を出した結果、1つの名前に決定したのだ。
「ケルミネラ・ミルフォード・ブックビレッジ」
人間界でのルミネの名前として少女が考案したのがこの名前だった。
当のルミネもそれで納得した様子で、その名前が人間界に於ける「名前」として神奈川国に戸籍登録される事になる。
ルミネの名前が決まると、少女はルミネと共にセブンティーンで公安へと向かっていった。セブンティーンは低いエグゾーストノートを響かせ、エンジンは熱いビートを刻み大気を震わせながら、公安への道を進んで行く。
少女は公安に着くと、前以って所在確認をした、マムの元へと向かった。
そこでマムにルミネの事を紹介し、神奈川国に於ける戸籍の作成と、ハンター試験の実施を依頼したのだった。
当のマムはルミネを見た際に怪訝そうな顔をしていたが、最終的には「アタシが全責任を負う」と言った少女の言葉に、「分かった」と折れてくれた。
「じゃあ、戸籍を作ったら、下で試験しといで。ウィルには伝えといてやるから」
「あと、ドクんトコに行くのも忘れんじゃないよッ!」
「分かったわ、ありがとマム!じゃ、行ってくるねッ!」
ぱたんっ
「ふぅ、魔族である事を隠した上で、人間界でハンターをしようとはね。だが、アイツに限って騙されているとは思わないが、そうなると魔族の友人までいる事になる」
「それならそれで、なかなかやるね、アイツも」
「まぁ、あたしゃこの国の戦力が増えるコトは大賛成だ。何も問題を起こしてくれなければ…ね」
少女はマムに対して、ルミネの正体を明らかにしないままで交渉をしていた。
一方でマムはルミネの正体に気付いたものの、その事には触れずに少女の反応を試すコトにしたのだった。
そして、その「試し」に対して、少女が「全責任を負う」と言った事からマムは了承したのである。
少女はルミネと共に先ず、B1Fのドクの元に行った。しかし、ルミネは戦闘用の装備品を何1つ持っていないので、ドクは軽くパス出来たが、ドクはその事が心配だった様子だ。
大抵の魔術士は杖の1本でも持ってるからだ。
尚、ドクはルミネの美貌の前に常に目を逸してモジモジしており、少女としては凄く納得がいかなかったが、これは余談である。
そして辿り着いたB2F。いつもながらにそこの自称管理者のウィルと漫才を繰り返すと思いきや、そうはならなかった。
ルミネはB2Fで行われた試験に際し、クリスが行ったものと同じ内容で実技試験に臨んだ。
当初ウィルは装備を何も持たず素手でやって来たルミネに対してそのプログラムは危険だと判断したが、少女に拠って無理やり押し切られたのだった。
しかし終わってみれば、そのタイムはクリスよりも圧倒的に速かった。
そしてウィルも少女もその実技試験の内容に、非常に興奮気味だった。何故なら、ルミネは無詠唱で魔術を行使した挙句に遅延術式まで使ったからだ。
それはウィルにとって最高の餌であり、垂涎ものの極上品だった。
然しながら、ドクとは異なりルミネの美貌やその肢体には興味が無い様子で眉1つ動かす事はなかった。
少女も初めて見る遅延術式に対しては流石に驚き、興奮した様子だった。
遅延術式は、先に魔術の術式を発動させておき、効果を任意のタイミングで発動させる事が出来る「罠」に近い形式の無属性魔術の1種だ。
少女が使える設置型の「存在証明・霹靂爆豪」(※少女対炎龍ディオルギア戦)と同様に思えるが、遅延術式はそれとは全く異なる。
設置型は必ず先に設置しなければならないのに対して、遅延術式はあくまでそのタイミングすら任意なのだ。
先に設置するならば、敵にそこを通らせる必要があるが、通っている最中に設置すれば当てるのは容易だ。
そういった意味では罠を張るより効率が良いと言えるだろう。
ちなみに、通常の霹靂爆豪は設置型ではなく、投げ付けるのみなので、遅延術式と組み合わせる事で、存在証明・霹靂爆豪以上の使い易さ(※ルミネ対スコル戦)になるが、これは飽くまでも余談だ。
更に余談として付け加えると、霹靂爆豪は「対人級」の「戦争級」であり、「金」属性魔術に当て嵌まる。非常に使い勝手と殺傷能力が高い魔術だったりもする。
そして爆発のタイミングは任意なので爆発に拠って煙幕代わり(※ルミネ対スコル戦)にもなるし爆発という現象に関連する効果(※少女対「ソレ」戦)も得られる、非常に優秀な魔術と言えるだろう。
そして、遅延術式の利点は「罠」として使う以外にも利点がある。
一部の種族を除いて体内のオドだけで魔術を行使出来ない種族が多い人間界に於いて、魔術の行使に際してはマナを用いるしか無い。
だからこそ、大体は敵と遭遇してから詠唱を始めるのが定石だ。
その為に魔術士系のジョブのみを持つハンターは後手に回りやすくなる。
戦士系や銃士系のジョブを併せ持っていないとソロで闘うコトさえ難しいだろう。
拠って魔術士は対象と距離を取り中距離戦闘を常に心掛けるか、不意打ちを主体としなければ碌に闘えない事になってしまうのだ。
だがその一方で、遅延術式を用いられる様になれば戦略の幅は大きく広がる事を指し示している。
まぁ流石に無詠唱は常人が出来る物では無いが、遅延術式は一種の魔術であることから使う事は可能なのだ。
故に、その遅延術式を始めて見たウィルと少女は興奮したのだ。
それは当然、ウィルは新たな「研究対象」に。そして少女は「戦術の拡大」に。
「トレーニングルームから出て来たら絶対ウィルの事だからルミネに声を掛けるわね。だからウィルに捕まる前にアタシがルミネをしっかり捕まえとかないとッ!」 / 「あぁ、なんて面白いコなんだ!絶対お近付きになって、色々と研究に付き合って貰わないと」
「へっくち」
そんな2人の心の声を知らないルミネはくしゃみをしていた。




