Reckless Adventurer ν
『あれは今から20年、30年、否、もっと前の事であったかもしれません』
『当時はまだハンターの制度も曖昧で、今みたいに報酬も確定されていなかった時分の話しで御座います』
『とあるところに1人のハンターがおりました。その者は勇猛で計算高く野心を持ちながらも人の涙に弱い。そんな弱く強いヒト種の良い部分と悪い部分を兼ね備えたハンターで御座いました』
『そのハンターは「公安」と「ギルド」の両方に所属し、2つの組織はその強さ故にそれを黙認致しておりました』
『ですが、出る杭は打たれると申します。そして過ぎたる功名は人を狂わせるもので御座います。そのハンターが狂わなくても周りの者達は妬み、誹り、蔑み、それだけでは飽き足らず、終には生命まで狙い出したので御座います』
『そのハンターは同僚から、仲間から、そして、上司からも生命を狙われる事になったので御座いました』
『生命を狙った者達は、直接襲っても、寝込みを襲っても、それこそ悪手を使っても返り討ちに遭い、そのハンターの前には屍の山が築かれていきました』
『そのハンターには野心という名の夢が、その計算高さの先には未来を見据えておりましたが、その夢も、未来も、保身に奔る者達には目障りだったので御座いましょう』
『どうやっても、どう足掻いても、死に至らしめる事の叶わなかった者達は考えたので御座います。どうすれば、その夢を、その未来を啄む事が出来るのかを』
『そして、1匹の龍種に白羽の矢を立てたので御座います。それは古龍種と呼ばれる1匹の龍で御座いました。その龍種に彼のハンターを狙わせたので御座います』
『彼の古龍種は惑わされ、操られ、ハンターと対峙致します。ですが、その牙も爪もそして最大の火力を誇る息吹ですらも、そのハンターを仕留める事は叶わず、そのハンターに因って返り討ちに遭ったので御座いました』
『ハンターはその古龍種が操られている事を知り、涙を流しながらも討伐した様に御座います』
『ハンターを仕留める事が叶わなかった者達は、「次は自分の番」だと考える様になり、更に強力な力を持つ者、更に強大な権力を持つ者を探し出しては、次々にハンターに対して敵対する様に仕向けていきました』
『ハンターはその事を知りながらも、心を痛めながらも、時に涙を流しながらも、夢と未来を掴む為に必死に闘ったので御座います。その勇姿に、その心意気に彼の周りには新たに人が集まり、そのハンターにも心を許せる仲間が出来ていったので御座います』
『ハンターの夢を叶える為に、ハンターの未来を守る為に、心を打たれた者達が徐々に集まっていき、その歯車は加速していくので御座いました』
『然しながら時は流れある時、ハンターは当初から敵対していた者達が全て躯になり果て、いなくなっている事に気付いたので御座います』
『そして、それは夢と未来を実現する事が難しくなった事を意味しておりました』
『結果として夢と未来を実現する為には何よりも他の者と協力、共存する事が1番だと考える様になり、彼のハンターは自らが闘う事を辞めたので御座います』
『彼のハンターの勇姿に心を打たれた者達は、彼のハンターの夢と未来を実現させようと集まった者達は、その姿に絶望致しました』
『絶望は嘲りに変わり、絶望は恨みに変わり、そして、絶望はハンターの死を望む結果と相成りました』
『かつて信頼を寄せた者達から生命を狙われ、人を信じる喜びも、人を信じる楽しみも全てが狂ってしまったので御座います』
『それでもハンターは剣を取る事を拒みました。かつての仲間の剣が、爪が、牙が、自身の身体に突き刺さっても剣を取る事を拒んだので御座いました』
『人々は、そのハンターから興味を失いました。夢と未来を失ったハンターに興味を抱かなくなり、結果として生命を狙う事を止めたので御座います』
『そのハンターは剣を失い、戦う術を失い、友と仲間と、夢と未来を全て失ったので御座います』
『しかしある時、1つの陳情がハンターの元に届きました』
『その陳情をハンターにした者は、そのハンターが闘う術を、剣を、友を、仲間を、総てを失った事を知らずにただただ「窮状から助かりたい」その一心でハンターの元を訪れたので御座います』
『ですが、ハンターはその陳情を拒みました。既に自身の剣は無いと、闘う術は無くなったと、仲間も友もいなくなったのだと、夢も希望も未来も既に無いのだと。だから頼まれても救う事は出来ないのだと』
『ですが、拒まれても拒まれても、その者はハンターに陳情したので御座います』
『何故そこまで拒まれながらも熱心に頼むのかがハンターには分かりませんでした。何故ならば彼のハンターはとうに心を凍てつかせていたからで御座いました』
『ハンターの前に転がる躯が増えれば増える程、嘲りが、蔑みが、恨みが、憎しみが増えれば増える程、友を失えば失う程に彼のハンターは心を閉ざし、熱意も情熱も無くなっていったので御座います』
『ですが、闘う術が無いと分かって居ても、闘う力も気力も残って無いと分かっていても、そして、人が信用に足る者では無いと分かっていても、彼のハンターに縋り付き、泣き叫び救いを求めたので御座います』
『彼のハンターでなくても方法はあるのではないか?そう提案しても、受け入れる事はせず、最終的にその者は彼のハンターの為に涙を流したので御座います』
『彼のハンターは、涙を見ていられませんでした。仲間を、恋人を、親を、兄弟を、その為に闘って欲しいと願う涙には何1つ動かなかった心が、自分の為に流された涙には心が、凍てついていた心が震え、奮ったので御座います』
『その結果、ハンターは立ち上がりました。自分の為に流してくれた涙に報いようとしたので御座います』
『陳情を受け取ると、その手に、脚に、身体に、武器を持てるだけ持ち、その涙に報いる為に敵の元に向かったので御座います』
『その闘いは嘗ての面影も無い程の有様で御座いました。無様で醜く、勇猛さは微塵も無く、ですが諦める事は決して致しませんでした』
『泥に塗れても尚、先に進もうとする、その姿に人々は次第に心を打たれ、ハンターと共に歩もうとする者が現れ始めたので御座います』
『ハンターは苦難の末に、その敵を倒す事が叶いました。ですが、その後ろには既に、付いてきている者は誰1人として、いなかったので御座います』
『ハンターは悩みました』
『ハンターは苦しみました』
『また、「自分のせいで大勢の人が亡くなってしまった」と』
『ハンターは心に深い傷を負いました。ですが、心に深い傷を負いながらも、2度と折れる事は無かったので御座います』
『そして、彼のハンターは新たな夢を叶える為に立ち上がり、仕組みを徐々に変えて行ったので御座います』
爺の語りは憂いを帯びていた。その表情、話し方、言葉の端々に宿る切なさ。
少女もクリスも爺の語りを黙って聞いていた。気付けばその話しに引き込まれてすらいた。
『この刀には、そんなハンターの思いが、願いが、そして過去が詰まっておいでです』
『旦那様は先程、お嬢様が仰っておられたように、もう既にこの世にはおられません』
『ですが、お嬢様はそんな旦那様の御意志を、過去を知らずともちゃんと受け継ぎ、立派なハンターになられたと思っております。ですから、その涙をお拭きになって下さい』
爺はそう言うと1枚のハンカチを渡した。真っ白く汚れの無いハンカチはクリスの涙を満足そうに吸い上げていた。
既に太陽は頂点を超え西の空に傾きつつある。窓から入る日差しは部屋を明るく照らしている。
その暖かい日差しに少女は目を向けて1人で今は亡き父親の事を思い出していた。
少女は自室に籠もり必死に書類を書いていた。勿論の事だが自身が引き受けた依頼の「ケンカの仲裁」及び昨晩の「闇取引の告発」に関わる詳細についてである。
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それは昼過ぎの事。捕縛した3人の身柄と共に送られてきた、魔獣の亡き骸の対処に困った公安の職員が少女に連絡を寄こしてきたのだ。
その為に少女は爺の話しを聞いた後で、まったりとしていた所を返上し、大急ぎで報告書を書かなくてはならなくなった。そしてちょうど忙しくその報告書を書いている途中で、着信が入ってきていた。
「はーい、もしもーし。忙しいから緊急じゃなければ後に……」
「ちょっとアンタ!一体どうなっているんだいッ!!」
忙しさのあまり誰から掛かってきた着信かは確かめず話し始めた、その話しを途中でぶった斬ったのはマムだった。心当たりは無いが相当にご立腹な様子と言える。
少女は正直なところお怒りモードのマムの声にビビっていた。然しながら少女にはマムをご立腹にさせている心当たりが無い。
「えッ?マム?え、えっと何の事?」
「「何の事?」じゃないだろアンタ!あたしゃ朝は着信で起こされてその後の報告はな~んにも無い」
「それにドクから連絡が来てまだ報告書が上がって来てないから魔獣の処理が出来ないだの、イグスタ市の保護施設からは龍人族はどうなっただの、後、司法からは罪状が分からない犯罪者の対処に困っているだの言われても、あたしゃ困るわッ!」
「そ~ん~な~の~知るかあぁぁぁあ!!!!がっしゃーん。ふーっふーっふーっ』
マムは早口で捲し立て息継ぎも殆どせずに怒声を紡いでいた。更にはマムの後ろか前に何かが飛んでいった気もするが、その点も踏まえるとやはり相当にご立腹だと言えよう。
そんなマムの荒ぶりに少女は一言「ゴメンナサイ」と言うのが関の山だった。さすがに「どーどーどー」とは言えなかった。
ホウ・レン・ソウはいついかなる時も大事という事を、改めて理解させられた少女だったと言える。
だけども「てへっ」とかは敢えて言わない。
「さてと、スッキリした所で、報告書はどうすんだい?」
「うぇぁ!うん、それなんだけど………」
マムの話し方は元に戻っていた。少女は事情を説明する為に、たった今纏めている報告書の内容を手短にマムに話していった。
「分かった。報告書は後日で構わないから、今はその内容に沿った形でこっちで適当に対処しておく」
「素材の取り分はアンタからドクにちゃんと伝えておかないとアンタの分は余り物だけになるから早くなさいな。それじゃあね」
「あ、あのねマム。ちょっといいかしら?」
「ん?神妙な声だけど何かあったのかい?」
「えっと、その、凄く言い辛いんだけど…炎龍ディオルギアについて何か依頼が上がっているかしら?」
「炎龍うぅぅぅぅぅぅぅ?」
深刻そうな少女の声に多少なりとも心配になったマムは、切ろうとしていた通話を切れなくなり少女から突拍子もない単語を聞かされた。
そのせいでマムの声は裏返りその奇声は公安に響きわたったという。
炎龍ディオルギアは通常の「龍種」ではなく、「古龍種」という生態系の枠組みに組み込まれている、強力な名持ちの龍種の一体である。
そもそも龍種は強力な魔獣に違いないが、「古龍種」は、その個体1つで国が滅ぶとも言われている「動く天災」そのものと言える。
拠って依頼として発生した場合は、数百名からのハンターを束にして当てても勝算が五分五分と言われている程の強敵とされる。
それら「古龍種」の中でも「五大龍」と呼ばれる一角に「炎龍ディオルギア」が入るのである。
分類上の「古龍種」は上から最上位、上位、中位、下位となり「五大龍」は中位として扱われる。
また過去から現在に至るまでの間に最上位と上位の古龍種はその存在こそ確認されてはいるが、人間界に被害を齎した経緯が1度も無い事から討伐対象にされた事は一度もない。
然しながらもしも仮に討伐対象となったとしても、狩れる実力を持つハンターがいないというのもまた事実である。
ちなみに下位の古龍種は「動く天災」と呼ばれ、炎龍ディオルギアが当て嵌まる中位の古龍種は「さざめく災禍」と呼ばれる。
「今のところ、炎龍ディオルギアについてのクエストは上がって来てないが、その話しは本当に信用に足るモノなのかい?」
「うん、多分だけど、おそらく間違いないと思う」
「アンタねぇ、あたしゃ思うんだが、「多分」やら「おそらく」やら、「思う」やらじゃ、信憑性ないって言ってるようなモンだよ?」
「あはははは。うん、ごもっともです」
最低でも「動く天災」と称される古龍種が、国内で発生すればそれこそ大事になる。早めに対処しなければその被害は甚大となり、そうなった場合はそれこそ国の滅亡或いはそうならなくても近隣諸国の格好の餌食にされるだろう。
拠って国を上げて早急な対処が必要になる。
従ってこの神奈川国に於いて国家元首であるマムにそんな大事の話しがあるならば、入ってきていないのは可怪しいという結論に繋がる。
「国内で話しが上がっていないなら恐らく、発生しているのは、周辺国家の山梨国か静岡国だと思うわ。だからマム!要請が来たら教えて欲しいの!!」
「そもそもその龍人族の村がどこの国に所属しているか分かればどこの国から依頼が上がるか分かるんじゃないのかい?」
「それもそうなんだけど、その、なんて言えばいいのかな?」
「なんだいなんだい、シャキっと話しなさいな!」
「クリスの話しに拠ればどこの国とも関わっていないみたいなの。だから正確な村の位置は地図には記載されていないのよ」
「獣人種特別なんたらってヤツかい?全く難儀なモンだねぇ」
これが通話だった事からマムがどんな表情をしているか少女には分からないが、恐らくは苦々しい表情を作っていそうな事だけは理解出来た。
それくらい今回の件は、色々な方面に対して根が深いと言える。
「だけどそれならば、こっちとして出来る事が少ないのは、分かっているだろう?くれぐれも情に流されて勝手な事をしてくれるんじゃないよ!」
「だけどもし近隣諸国から要請が来れば、いの1番にアンタに知らせてやるよ。あたしゃ忙しいんだそろそろ切るよ!」
つーつーつー
「あ、マム!切られちゃった。でもま、いっか。近々公安に行くからその時でも」
ハンターへの依頼は原則として、その国内のみで完結させなければならない。
何故ならば自国の情報を、他国に漏らしたくは無いからである。
自国内で発生した依頼を他国に知られれば自国内の実情を他国に知らしめる事になる。それに因って戦力が少ないと知られれば、その事を好機として侵略戦争が起き兼ねない。
これは偏に過去からの教訓である。
そしてまたそれと同様に素材の流出も国としては避けたいと言える。
魔獣の分布には偏りがあり、それは国によって素材の需要と供給が異なる事を意味している。ハンターが依頼により狩った魔獣の素材は武防具や弾薬の原料となり、それらは国内での消費に限らず他国へと輸出され国益となっている。
更には魔獣の核とも言える魔結晶と、魔獣の素材を用いて魔導工学に拠って作成される「魔道具」も、国によって作れる内容が異なる事から国益の一翼を同様に担っている。
それ故に、その国特有の素材の流出は国益の低下にも繋がるし、資源を巡って侵略戦争の引き金にもなり得ると言える。
だが稀に国内戦力だけでは討伐出来ない古龍種討伐や、大暴走と呼ばれる魔獣達に因る大移動などの依頼は、国益と政治さらには国内の被害状況などから鑑みられた結果に於いて、他国へ「要請」という形で出回る事がある。
その場合は国外の依頼でも受ける事が出来る事になりその結果、依頼を完結出来れば達成報酬として国内では手に入らない魔獣の素材も得られる事がある。
然しながら自国内で完結出来ない案件であるという事は即ち、当然の事ながら難易度が跳ね上がっているという事であり、完結するのが非常に難しい案件とも言える。
クリスの村を襲った古龍種は炎龍ディオルギアである。
それはクリスの口から齎されその話しを聞いた少女は最初言葉が出て来なかった。
相手が古龍種である事から地域的な要因に因っては未だに被害状況が国に上がっていない可能性がある。
出現箇所が人口の多い都市部であれば被害状況は直ぐに報告されるが、山間部などの人口の少ない地域や、被害に因り既に壊滅してしまった地域などからは情報が上がり難いのは当然である。そして今回は限り無く前者ではないだろう。
だからこそ、その事を考えるとマムには少なくとも近日中(今日か明日)には話しを通そうと決心していた。
そんな折に掛かってきた通話だった事から、事前に触りだけでも話せた事は僥倖だったと言える。
然しながらそうなるようにワザワザ仕向けたのは余談であるし、自分の今後の為にもマムにだけは知られたくない少女である。
少女はこれでいてかなり計算高いのだ。
さて今回のクリスの陳情(まだ正確に依頼として認定されていない事から、正式には「陳情」となる)に於いて、重要になるのが龍人族の村の位置である。
龍人族の村は先程マムが話していた「獣人種特別なんたら」即ち「獣人種特別保護協定」(通称・BPA)に従って、自衛する事を望んだ為に認識阻害の結界を周辺に掛けているらしかった。
結果として国からは国民としては認められていない事になるが、国からの恩恵を受けていないのであれば国民として認められなくても問題ないとの判断だろう。
然しながらその事が龍人族の村の正確な位置情報を分からなくしていた。拠って正確な位置こそ掴めていなかったが、その場所は大体「北緯35度24分東経138度54分」で示されるエリアと予想出来たのである。
そこは「三国山」と呼ばれる「神奈川国」「静岡国」「山梨国」の3つの国の国境だ。
それ故に国益や政治が絡む非常にシビアでデリケートで、センシティブな大問題な場所と言えた。
少女はマムとの通話を終えた後で報告書から少しのあいだ解放された事もあって、気晴らしがてら階下に降りていった。
少女が1階に降りると広間から何やら声が聞こえたので向かう事にした。そこには昨夜保護した2人がいたのであった。
『ちゃんと寝れたかしら?あと、身体に異常は無い?』
『っ!?』 / 『きゃっ!!』
『あ、ごめん、驚かせちゃった?』
声を掛けられた2人は一瞬だけ身体をビクっとさせたが、少女を確認すると直ぐに笑顔になっていった。
『昨夜は助けて頂いて、ありがとうございました。サラは猫人族で名前はサラって言います』
『昨夜は暴れてしまってその、ごめんなさい。レミは兎人族よ。あと、助けてくれてありがと』
『ねぇ、サラちゃんとレミちゃん。そう呼んでいいかしら?』
『はい、構いません』 / 『べ、別にそれでもいいよ』
『ありがと、2人とも。ところで2人が暮らしていた場所はどこにあるの?あと、帰れるなら帰りたいかしら?』
密猟に関わった犯罪者は捕まればその国の法で裁かれる。国外から来た者であったとしても対象となる国に送還などされない。
それが今の国家間でのやり取りに於ける犯罪者への対応だった。何故ならば国が乱立し割拠しているからである。
もしも送還される事になっているとすれば、その犯罪者と無関係な国を通過する必要性が出てくる可能性もあるのでそれは必ずしも認められないからと言える。
然しながら密猟の被害者は違う。無理やり住んでいた場所から、来たくもない土地へと連れて来られたのである。
拠って「保護されたから、その国で暮らせ」と言われるのは、どう考えても可怪しいし納得も出来無いだろう。それにむしろそれを言ってしまえば、国の言い分が密猟の加害者と同じになる。
それ故に国家間の取り決めとしては、「最大限元の生活に戻す」というのが方針とされている。
だがそれは同時に大きな問題を抱えていた。複数の国境を越えて連れて来られた場合は、元の居住地へと戻る為に通過する全ての国の許可が必要になるのだから。
密猟に遭った際にわざわざ身分証明書など持っているハズもなく、通過させるだけだと言ってもその国は、それに伴う無用なリスクを背負わなければならない事になる。
更に付け加えるならば獣人種の抱えるシビアな問題もある。龍人族の村のように、BPAに基づき外界との接触を拒む集落もあるからだ。
その事から被害者本人が帰る事を希望しても、集落から拒否される可能性が無いとは言えない。
一方でBPAに頼らず、外界との接触を拒んでいない/出来ない獣人種達は、密猟の被害に遭った集落を捨て同じ国内で集落の場所を変える事もある。
それ故に被害者が申告した場所には既に誰も住んでいないといった事案が、過去に於いて発生しており国家間に於ける問題が起きるくらいトラブルが絶えないと言える。
そんな裏事情も踏まえた上で少女は2人に問いを投げていた。まだあどけなさが残る2人には、非常に残酷な問いだったが国家間のトラブルは一個人にはどうしても手に負えない為に仕方ないとも言える。
サラとレミは会話の中で「出来るなら帰りたい」と少女に話した。当然の事ながら2人の年齢はまだ若く、家族の元から離れさせるには酷な年齢だから分からないワケではない。
だがその一方で前にも同様の密猟被害が集落で起こった際には、その集落を捨てて新天地に引っ越した経験があるとも話していた。
だから「もし帰れたとしても家族はおらず、誰1人として知り合いはいないかもしれない」とも話していた事から少女は何も返す言葉が無かった。
とは言っても少女は2人を保護した手前、何も手を打たないワケにはいかなかったと言える。だからこそ2人にとっての最善を尽くそうと決めていた。
少女は真剣な顔で2人に最善と思える提案を示していく。サラとレミは少女から出された提案に凄く驚いていたが、大いに悩んだ末に納得しその提案を受け入れたのであった。




