第六十四話 元勇者は漸く長いプロローグを脱する件について(仮)
「なんだよお前らー。戻ってきたのか?」
「シャルちゃんこれ食べな!」
「シャルちゃん綺麗になったわね!」
「シャルちゃん、今日はうちに泊まっていきなさい」
「シャルちゃんは将来立派になるよー」
――あれ? 俺に対する言葉がないぞ?
戻ってきました故郷と呼ばれる場所である小さな村。
ここに直接戻ってくるのは、久しぶりになる。それこそ、聖騎士の養成所に出るとき以来ではないか?
――畑には戻って来てるけどな。
「それよりも、突然戻って来てどうしたんだよ?」
村の一人が聞いて来る。
「ちょっと用事があってね。村長は今どこに居る?」
「村長ならさっき出て行ったぞ。多分裏山じゃないかな。たけのこでも採りにいったんだろう」
「そう。わかった」
適当に村人との談笑を終わらせる。
村を歩いて数分。
俺はとりあえず、無人となった自分の家に戻ってきた。
中に入り、適当にリビングを片付けて、椅子に腰掛けた。
「随分汚くなってるわねー」
「そりゃそうだろ。誰も住んでなけりゃ」
「誰かに住まわせたらいいのにー」
「馬鹿いえ、将来帰ってくる場所だぞ。誰にもやらん」
――俺はここでスローライフに身をゆだねるんだ!
「とりあえず。座れよシャル。今から大事な話しをするから」
「とうとう、勇者となることを決めたのね」
「なわけあるか」
「それなら、もしかしてプロポーズ?」
「意味がわからん。早く座れ」
シャルは「ちぇー」と言って、空いた席に座る。
「お前にはまだ詳しい話しをしていなかったからな。これから協力するなら、説明が必要だろう」
「この世界のこと?」
「ああ」
――流石にシャルとしても気になることがあるみたいだな。
「まずはこの国についてだ。俺の見立てじゃ、この国自体が世界をかたどって創られている」
「どういうこと?」
「聖騎士の階級に使われている名称。意味がわかるか?」
「ナイトとか、男爵とかって言うやつ?」
「それだ。ここの世界じゃ、貴族は、普通の貴族か、高級貴族、それか古参の貴族というように位分けされていたわけだが、俺たちが元いた世界じゃ、そういう位わけじゃなかったろう?」
シャルは少し眉をひそめた後、
「暗いわけ?」
「そうういう意味じゃない」
――こいつ、どうやって魔王務めてたんだ?
それについて非常に気になるところであるが、今は気にしないでおこう。
「偉さとかを、どうやって表現していたのか、ってことだ。つまり、ナイトや男爵ってのは、俺たちの前世では、貴族の高下を決めるための爵位だったんだよ。それがこの世界じゃ聖騎士の位になっていた。始めは、そういう世界もあるんだなくらいに思っていたけど、皇帝の称号を持つやつが、この国の本物の王だった。つまりはそういうことだ」
「そういうこと?」
――うーん。これは俺が悪いかなー?
「そのだな。聖騎士の称号としての名前が、俺たちの前世での貴族の爵位だった。そして、爵位にはそれに応じた土地が与えられる。つまり、聖騎士ってのが、この国、世界じゃ最も重要な地位だってことだな。ここまではいいか?」
「つまり、聖騎士半端ないってことね?」
「そ、そうだ」
――半端ねえ! ってか?
「それを踏まえて、俺たちが戦った勇者たちを思い出してみる。今更だけど、おかしいと思わないか?」
「なにが?」
「勇者と魔王が同じ国にいたってことがさ。確かに、二人で協力して世界を変えようとしたってのは分からないでもない。だけど、それならもっとちゃんとしたやり方があったはずだ。そして、今回倒したやつは、元勇者だと来ている。そして、極めつけは、俺たちのいた世界から魔女がこちらの世界に来ている点だ。これを総合すると、あることが考えられる」
――とても、胸糞が悪いことがな……。
「あること?」
シャルは首をかしげる。
「まったく分からないんだけど」
「つまりだな。勇者と魔王を倒した後に、この国のトップである元勇者が出張ってきた。考えても見ろ。この世界には国が一つしかないわけじゃないだろ? それなのにそんなに一つの国に勇者が居てたまるか」
シャルのことは無視して続ける。
「要は、ここで最初に帰結するわけだ。この国は世界をかたちどっている。つまり、あいつらはこの国――世界での勇者だったってわけだ。そして、まるで俺たちを試すかのように前に現れた。試練のようにな。これを偶然で片付けるほど、俺は夢見てこれまで生きてきていない」
「つまり?」
「俺たちは、誰かの手の上でコロコロと転がされてたってわけだよ。この世界には、国という形をした世界がたくさんある。そして、それぞれの国で、そのトップを決める戦いが行われていたってことだ。簡単に言えば、誰がその世界を支配するのか、誰もがその戦いに巻き込まれていた」
――どの国にも勇者だの魔王だのが蔓延っているってわけだ。そしてそいつらは、まるでプログラムをされたみたいに、その国に転生してきた者を襲う。
「だれがそんなことを?」
「わかるだろ? 俺たちは誰の指示でこの世界に来たんだよ?」
「それって……まさか?」
「その、まさかだ」
「…………………………」
しばらくの沈黙が二人の間に流れる。
――流石に、びっくりしたか?
俺は、ゆっくりと口を開く。
「擬似的な異世界戦争。それが狙いだ。俺たちと同じ立場の人間が、各国に居るわけだ」
「でも」
と、シャルが疑問を呈する。
「どうして、わざわざ私たちに、勇者とかを差し向ける必要があったわけ?」
「参加券の代わりだろうな。そいつらと戦う中で、この国の生態、世界の実体に気が付くことができるかどうか。ってのが最初の参加条件ってわけだ。魔女が転生してきたことがその証拠。ヒントだってわけだ。自分たち以外にも、この世界に転生者が居るかもしれないって言うな」
「ゲームみたいね」
「ゲームなんだろうな。主催者が居るわけだから」
「狙いはなになの?」
「知らん。そんなこと。だけど、これは長い長いプロローグに過ぎないってことだろうよ。今からが、本番ってわけだ」
「ってことは、他の国には、私みたいな人が?」
「ごまんと居るわけだ。言ったろ? 俺たちは手の上で転がされているって、つまりただの駒だよ」
「どうしてそんなことを?」
「だから知らん」
――こいつ本当に話し聞いてるかな?
「ってことで、それを今から確かめに行くわけだ。いや、もうあちらから来てくれたかな?」
言って、見上げると天井が光りだす。
そして、声が届いてきた。
『よくぞ気が付いた。100の世界を踏みし者よ。貴様の言う通りだ。この世界は、タダ一人の支配者を決めるための世界である』
――神様お出ましか。
「そのただ一人の勝者って言うのは、なんのために決めるわけなんだよ?」
シャルは、驚いているようで、口をあんぐりと開けていた。
――まあ、分からないでもない反応だな。
俺としても、光から来る異常なまでの圧力で、額から汗が出始めている。
『決まっている。唯一神を決めるための戦いだ』
「この世界に残っている三つの過去の大戦は?」
『これまでの唯一神を決める戦いの記録である』
――なるほどねえー。
「その唯一神を決める戦いが必要だってことは、唯一神は今はいない状況なのか?」
『そうだ』
「死んだ?」
『違う』
「なら、どうしていない?」
『それは貴様たちが必要な情報ではない』
「なら、お前達はどういう立ち位置なんだよ? 唯一神の部下か? でも、唯一神は居ないんだろう?」
『我らは、神であり、神ではない存在。言うなれば自然という存在であり、世界と言う存在でもある。我は、唯一神を選定する立場にある』
「監督者的な立場ってことか。それで? こうして俺たちの前に現れて、おれたちはどうすればいいんだ? お前はなにを伝えたいんだよ?」
――ここは、余裕があるフリ。
『貴様が参加する意思があるのか、それを問いに来た。参加の意思がなければ、この世界からは消えてもらう』
「消えた後は?」
『どこかで、再度転生するだけだ。しかし、今度はすべてが零からとなる』
つまり、本当の意味で生まれ変わるってことか。記憶もなにも引き継がれない。
『さあ、どうする? 100の世界を経た末に、貴様は神になる意思があるか?』
「………………」
まったく、勝手に色々とやってくるものだな。
断る選択肢など、俺には用意されていないも同然だ。
「唯一神ってのには興味はないけど、スーパースローライフに、それが必要ならやるしかないだろう」
『参加するということで良いのだな。しかし、貴様はまだ参加条件を満たしていない。今回は、貴様が国――世界を手に入れる前だが、そちらからアプローチをしてきたため出てきた。本来ならば、まずは国のトップとなる必要がある。それをクリアしてから、貴様は正式に唯一神への道を歩むことができる』
――これからもアプローチすれば出てきてくれるのかな?
ってまあ、そんな優しいやつなら、こんなことしないか。
「つまり、トップに立てってことか」
『そういうことだ。そして、その後はおのずと分かることになるだろう。では、貴様の健闘と繁栄を望む』
言って、神というより、自然とか世界とか名乗ったやつは消えた。




