第五十八話 元勇者は本当の素性を知る件について(仮)
「いいねえ。そうこなくっちゃいけない!」
ネリがうれしそうな笑みを浮かべて、俺に向かって踏み出す。瞬間、彼の姿が霧のように消えたように見える。残像だけが、その場に残った。
彼の動きは、今までこの世界で出会った人物の中でも最も早い。
ネリから俺の首を刈り取ろうとしてくる手刀が飛んできた。
それを、後ろにステップすることにより、避ける。
ネリはその行動を見て、なぜかにやりと笑った。
――ん?
気が付けば、俺の首から軽く血が出ている。
俺は、ネリの手を凝視した。
――なるほどね。
どうやら、ネリは魔力で、手刀の攻撃距離を伸ばしていたらしい。その切っ先が俺の喉を掠めたため、血が出ているというわけだ。
あの高速で動かれた末の攻撃だったために、俺としても見落としてしまったわけだった。
――あれだけの魔力がありながら、小細工も使ってくるのか。
やはり、俺の本能は正しかったらしい。
これは一筋縄では行かないようだ。
「今のをかわされたのは、これで二回目だ。一回目は、俺の一代前の皇帝だな。久しぶりにこれは楽しそうな戦いができそうだなおい」
「お前に楽しさを提供するための、テーマパークじゃないんだよ。残念だけどな」
「ふん」
言って、ネリは天に向かって手を掲げた。
「褒美に、俺の力の一旦を見せてやろう! 天からの断罪の物語は今ここに始まりを告げる。自身の中に宿るすべての力を今、解放せよ!!」
空模様が変わる。
すべての雲が一瞬にしてなくなる。見えるのは青い晴天の空――ではなく、まばゆい光を皇后と放つ太陽だった。
目が潰れるほどの輝きが襲ってくる。
世界が照らせる。
俺はたまらず目を閉じた。この状態でも相手の動きは認識することができるのは、気を感じることができるからだ。
――目隠しの類か?
と思うが、ネリのやつは一歩も動く気配がなかった。
すると、一瞬にしてその輝くが収まるのを、瞼の裏で感じる。
「俺の力は太陽の力だ。わかるか?」
「わからん」
と、目を開けて答えておく。
ウソ、わかるけどな。
「まあ、俺の力のそのすばらしさを、しかと感じるがいいさ!!」
瞬間、先ほどとは違い、視界からネリが消えたかと思うと、俺の身体はくの字に折れ曲がった。そのまま、後ろに吹き飛ばされていく。
腹に激痛が走り、胃液が口から吐き出された。
意識が一瞬で飛ばされそうになる。
ネリの追撃は止まらない。
やつは天に飛び、
「世界の咆哮(Roar of the world)!!」
ネリの手から、彼の手の面積の十倍ほどのビームが俺を襲ってきた。
俺は、体勢を整えて、地面になんとか着地した後、そのビームを横に飛んで避けた。
「曲がれ」
しかし、ネリが言った瞬間に、そのビームは俺に向かってくる。
――追撃型か!
ということは、あの攻撃を避けることはほぼできない。
となると、相殺するだけの攻撃をぶつけるしかない。
――光の反対は闇だよな。
「混沌の闇をその手に刻め! ダーク・レイ!!」
俺は、光のビームに向かって、両手から黒いビームを放つ。
二つの攻撃がぶつかり、衝撃波が周りに波紋を広げた。
その勢いを殺しながら、俺は地面に再度着地した。
「ぐあッ!!」
そのとき、すでに俺の後ろ移動をしていたネリが、俺の背中に熱い焔を纏った足で、鋭い蹴りを放ってきた。
俺は背中を燃やしながら、ボールのように宮殿の正門から続く道を転がっていく。
十度目くらいの地面からのハネから回転し、着地して俺はネリと向き合った。
「あっつ!!」
背中はひりひりとするなんてレベルではなく、もがき苦しむレベルでやけどをしていた。
――いや、そもそも、これを焼けどと称して良いかどうか……。
まったく手も足も出ないとはこのことだろう。
「そんなものなのか? 転生者ってやつは」
ネリが肩を落としながら言った。
「俺の予想に比べて、かなり落ちるぞ。これは」
「そりゃ、申し訳ないですね。それに、そもそもそれはお前が勝手に予想をしただけだろ? まあ、あんたが強くなりすぎたんじゃないっすか?」
それにしても、この強さは異常だ。と思う。
たかだか、一国の皇帝として生まれたから、手に入れることができるものではない。
それとも、俺を試すために、与えられた力なのか?
いや、俺の理解が正しければ、俺と同じ状況になっている、もしくはなったやつが他の国に居るはずだ。流石に、そこまでは神もしないだろう。
「ははは。それはあり得るな。俺が強くなりすぎたわけか。まあ、俺はこの世界で一番強いと自負しているからな」
「そりゃ、すばらしいことで、自信を持つことは大切だって、俺のなくなった父も言っていましたよ」
「ふーん。そうかい」
ネリがこちらに少し近寄ってくるだけで、熱気を感じる。彼の周りは、彼の身体から発せられる熱によって、ドロドロと溶けて行っていた。
――おいおい、街を破壊してるぞ。
というか、敵の侵入を許したことのないという宮殿の正門の二本柱が、すでに、一本、吹き飛ばされていた。
ありゃ、俺がぶつかった影響だな。
――いや、待てよ。
「一つ、聞いても?」
「なんだ?」
「その力が、あんたの全力か?」
「いや、この上にはまだ三段階上の力がある。だが、それは使えない」
「どうして?」
「この国をすべて焼き尽くしてしまうからだ。俺の力の根源は太陽だ。全力を出せば、俺の身体は太陽と化してしまう」
「ほー。そりゃすごい」
――ってことは、全力を出したことがないと、言っているに等しいってことか。
つまり、こいつの発言が本当かもわからないってことだ。
俺の質問は続く。
「冥土の見上げに、まだ聞いてもらってもいいですか?」
「言ってみろ」
俺は弱者を演じる。
人は優越感には抗えない生き物だ。
「あんたは、俺たちが倒した勇者と魔王のことを知っていたわけだろう?」
「ああ、知っていた。だが、それがどうした?」
「どうして、強者と戦いたいはずのあんたが、その二人と戦わなかったんだ? あの二人なら、あんたと良い勝負が出来たんじゃないかと俺は思うんだけどな」
少なくとも、ネリのこの力がユニーク・アビリティの類であるのなら、あの勇者に奪われたことになる。
「お前に負けた連中だ。事実はそうではなかったということだろう。なにせ、お前はこうして俺相手に防戦一方なわけだからな」
ネリはため息を漏らしていった。
どうやら、俺のふがいなさに、本気で苛立っているようだ。
「だが、まあ、理由を答えてやろう。それは、俺があいつら二人の生みの親だからだ」
「つまり、あんたは勇者と魔王を生み出した。と?」
「そうだ。それだけの力が俺にある」
「ってなると、あんたの容姿は若いけど、年齢は半端ないみたいだな」
「若返りは、得意なんだよ」
「つまり、お前は、あの二人よりも古い人間で、あの二人を生み出したってことでいいんだな?」
「そうだ。それがどうした? 今の戦いに関係があるのか?」
「いや、特にない。ただの疑問の解消だ」
俺は、息を吐き出して、一歩相手に近づく。
「お前の正体がわかったことで、俺もちゃんとやることにする」
「なんだと?」
「とりあえず、お前に本気を出させてやるよ」
俺とナリを中心として、大きな魔法陣が浮かび上がる。
「これは、転移魔法か?」
「そうだ。とりあえず、お前の罪の断罪の旅に出ようじゃねえか」
魔法陣が発光し、そのまま俺たちは別の場所に移動した。




