第三十一話 元勇者は芸を求める件について(仮)
馬車に揺られること、しばらくして、俺たちは目的の場所である聖騎士の施設とやらの場所に来た。
外見は、特に珍しいものではなく、街の中にあるただの大きな建物にしか見えない。
とはいえ、敷地面積は大きいみたいであり、一見すると、学園よりも大きいかもしれないと思われるほどだった。
この施設は王都の北西にある。
学園が中心街にあるので、少し郊外にあるわけだが、それでも町並みはそれなりに賑やかになっているようだった。
――聖騎士がお金を落としていってくれるのかねー?
とはいえ、施設の周りには夜になるとより栄えるのだろうな。というような雰囲気が見られる場所もあった。
少し意外に思う。
貴族が多い聖騎士はどちらかといえば、このような低俗なものは嫌うものだと思っていたからだ。
施設には門番が居たが、ユージンが少し会話をしただけで、俺たちを快く受けいれてくれた。
それには、こちらとしても好感を持てた。
ユージンは慣れた足取りで、施設の中を進む。それに俺たちは黙って付いていった。
しばらくして、施設の中央に位置する場所にあると思われる。大きな建物の前でユージンが立ち止まった。
「ここが道場だよ」
「これは道場って言うよりも、競技場並じゃないのか?」
「まあ、元々はこの施設のあった場所は、昔の学園だったんだよ」
「昔のってことは、今俺たちがいる学園の学園か?」
「そうだ。聖錬学園が中央に移ったのは、二十年前の話だからね。それよりも前はここがそうだったんだ。一部がそうだった。という表現のほうが正しいかもしれないけど」
――一部?
気になる言い方だな。
「とりあえず行こうか。ちょっと面白いことが起きるよ」
「面白いこと?」
おいおい、いいのか、そんなにハードル挙げて。そういうので苦労するのは、言った本人だからな。
この施設に入る前に、すでにユリスは目を覚ましていた。
ユリスは先ほどまでの興奮と同じように、期待に胸を膨らませている顔をしているが、先ほどのような暴走をするような気配はない。
魔力の乱れもなく、どちらかといえば、より安定しているように感じられた。
――なんとか、今のところは大丈夫そうだな。
とはいえ、目的の人物であるマリンダなる女性が現れるとどうなるかわからない。
どうして、俺がそんなことを気にしないといけないのはわからないが、一応、ユリスが俺たちの隠れ蓑なのだから、彼女が大きな失敗を起こすところを見過ごすことはできない。
――一応、それなりに気を張って置きますかね。
ちなみに、シャルは一緒ではない。
そのとき、俺たちにものすごい殺気が襲ってきた。
正確には、先ほどから漏れ出る殺気というものはあった、見られていることはわかっていたのだが、それを隠すことをしなくなったようである。
――これが、面白いことか?
ユージンはそのまま真っ直ぐ進む。
その殺気はユージン以外の俺たち三人にだけ向けられていた。
俺の目の前に、一人の屈強な男が一瞬にして現れる。
そして、俺に向けて溢れんばかりの殺気を浴びせた後、違う人物が俺の背後を取る。
――おお、これは中々。
自然と上がる口角を意識しながら、俺は相手の手刀を軽く身を捻ってかわす。相手の気のゆれによって、動揺が伝わってきた。
俺の前で殺気を放ってきた人物は、それを見てから一歩遅れて行動をする。
目の前に迫る、通常の数十倍にも感じる拳を、俺は軽く払いながら、相手の突っ込んできている運動量を利用して、そのまま相手を一回転させて床にたたきつけた。
くはっ!
という声を出して、大男は胸を跳ねさせる。
――もう一人は、と。
瞬間、地面の土が盛り上がってくる。
――あの一瞬で下にもぐったのか。
このまま相手を踏みつけてももちろんいいわけだが、それだと芸がない。
できれば、相手の攻撃を受けきった末に、勝利を飾りたいものだ。
俺は盛り上がる地面からあえて動かずに、相手の攻撃が来るのを待った。
新芽が出るかのように盛り上がった土は一瞬にして、はじけ飛び、中から魔力でなによりも切れ味の良い手刀が俺の目をくりぬかんと突撃してくる。
首を横に少し傾けて、その手刀を避ける。俺の左耳の横を綺麗な空気を裂く音とともに、相手の左腕が流れていく。
そのまま、俺は左腕を広げ、土の中から出てくる相手の首に巻きつける。
そして、地面に向かってうつ伏せで倒れこむように相手を押さえつける。
相手の頚動脈は完全に俺の手中に入った。
後は、締め上げるだけである。
そのまま数秒して、相手の意識は途絶えた。腕がだらりと落ちた。
――うん、いい感じだな。
俺は立ち上がり、ミアたちを見た。
別に心配をしていたわけではない。
ミアは俺の安心したとおり、軽くとはいかないものの、傷を負うことなく一人の人物はすでに倒し、残りの一人と向き合っていた。
――まあ、見た感じ大丈夫だろうな。
心配があるとすれば、それはユリスである。
流石にミアも、ユリスを守りながら相手をすることはできなく、ユリスが二人の人物に挟まれていた。
思えば、ユリスが戦っているところを俺は見たことがない。
魔法や、魔術と言ったものに関して言えば、素質があるのは授業で見ることができたが、実践となるとまた話しは別だろう。
俺はユリスの戦いに集中する。
――暴走の可能性もあるからな。
ユリスの後方に居る人物が、ユリスに向かっていく。ユリスはそれに気が付き、後方に防御結界を張った。
その瞬間、に前方に居た人間が、鋭い踏み込みで正拳突きを放ってくる。
俺は一瞬、身体に力が入った。
だが、手助けは無用だった。
一瞬、無防備に見えたのは、ユリスが仕掛けた罠であり、突撃した男がユリスに近づくと、魔法陣が発動しその男の身体を拘束した。
かなりの高級魔法で拘束された男は身動きが取れなくなる。
だが、次の瞬間、その拘束をもう一方の男の助けで解く。
状況はまた二対一という構図になる。
ユリスは二人が同一方向に立ったタイミングで、今度は魔術式を組み始める。
一瞬で組みあがった魔術式から出てきたのは、動きをプログラムされた二体のブロンズ騎士である。
「行け!!」
と、ユリスが指示をすると、二体のブロンズ騎士は、相手に向かって突撃をする。
そのまま、二体二の攻防が始まった。
とはいえ、ブロンズ騎士の動きはじきに読まれてくる。
もうブロンズ騎士がやれるというタイミング。つまり、相手がブロンズ騎士を倒そうというタイミングで、また魔法陣が発動した。内容は先ほどの拘束系と同じであるが、今度は二人同時に捕らえる。
――倒す瞬間の一瞬の隙を狙っていたってことか。
だけど、不十分だ。
捕らえられた二人は、一瞬で姿を消した。
――変わり身ってことか。
ユリスは歯軋りをした。
ミアを見ると、ミアはそろそろ決着が着くか、という感じであった。
互いの剣がぶつかりあう。といってもミアは鞘をつけたままであるし、相手は木刀だ。
ちょうど、最後の鍔迫り合いか、ということをしていると、大きな声が聞こえてきた。
「よろしい!! 合格だ!!」




