第十四話 元勇者は無駄なことをしていた件について(仮)
婚約者騒動は、俺の大活躍によって、見事収まった。
といっても、あの戦いを見て誰もが納得するわけもないので、まあ軽く催眠的なものを使用したのは、俺だけが知る事実というやつだ。
今思うと、最初から盛大の催眠を使えば何もかも丸く収まったとは思うのだが、催眠系の魔法にもそれなりにいろいろと条件とか制限がるので、ちょうどよかったのかなとは思う。
流れとしは、俺と、52人の人間との戦いは熾烈を極めて、俺も数々の傷を負いながら戦いを進めた。
そして、その戦いは数時間にも及ぶ戦いとなり、俺はなんとか最後の一人となった。
高級貴族どもはそれを見て、俺の勇士に感動して、最終的には結果を受け入れることになり、さらにオリビア家に対しての評価もそれにより上がった。
見事オリビア家は、その地位を保つことに成功したという展開だ。
もちろん、俺が戦った連中の記憶も改ざん済みだ。
だが、一人だけ、ユージンだけは、記憶を改ざんする前に帰ってしまったので、彼だけは元の記憶を持っている。
――まあ、あいつなら大丈夫かな。
というわけで、俺はすぐに我が畑に足を向けた。
「おお、ちゃんとやってたみたいだな」
畑にたどり着くと、そこには綺麗な畝ができあがっていた。
俺はその畝を作った人物を探す。
すると、木漏れ日が差す大木の下で一人眠っている人物を発見した。
その人物に俺は近づく。
そして、頭を軽く叩いてやる。
「おい! 何休憩してるんだよ!」
すると、相手は、小さく薄めを開けて俺を確認する。
「後、五分……」
「俺はお前のおかんか!」
もう一度頭を叩く。
「え、あれ? ヒカルじゃない」
「おう、さぼってるみたいだな、シャル」
「ち、違うわよ! これは休憩よ。ほら畑を見なさいよ! ちゃんとできているでしょう? 私は昨日から今日までずっと働く通しだったんだから、労いの言葉の一つくらいかけれくれてもいいじゃない!」
「ああ、はいはい。がんばりましたね」
「心が篭ってない!!」
「シャルさん最高―」
「うきいいいいー!!」
「あ、サルが出た」
「もう、怒ったわよ!」
シャルが立ち上がり、俺を睨む。
「こうなったら――」
「いいのか?」
「何がよ……」
シャルが眉をひそめる。
「プリン、もう買ってやらないぞ?」
「そ、それは卑怯よ!」
シャルの無駄遣いに業を煮やした俺は、こいつから全財産を奪った。
だから、俺はシャルに欲しいものがあれば、俺の言うことを一つ聞くこと条件に買ってやることにした。
今回はプリンと引き換えに、俺の居ない間の畑仕事をさせたわけだ。
――元魔王が、プリンほしさに、元勇者の言いなりとは、世も末だな。
なにはともあれ、一件落着である。
◇◆◇◆
「あ、ありえん!!」
中継を見ていた一人の貴族が言う。
「何か仕掛けがあるはずだ!!」
「そうだ! でなければ、あんな一瞬で……!!」
「魔力だ。魔力は使っていないのか?」
各家の高級貴族の代表者が言う。
彼らは、貴族の長ではなく、各家の当主からこの場を任された一族の中で地位が高い人物たちではある。
だが、彼らは現役の聖騎士という立場ではなく、どちらかというと管理職という立場であり、戦闘力があるわけではない。つまり、ヒカルの戦いを評価するだけの目を持っていなかった。
一方、ヒカルの戦いをしっかりと評価できる人間は、この場に五人。
彼が魔力を使用していないか、しているかを判断するためにガイルより頼まれ、この場に参上した聖騎士のバロンの称号を持つパル・オードリア。
そして、オリビア家の第一執事として、その力はオリビア家の中でも屈指の力を持つ。カサッド・サーコイル。
婚約者を用意した高級貴族の中でも、この催しに関しての相手の不正を許さないための人物、聖騎士はすでに引退したが、現役時代は最強の矛という異名のあった、現在の皇帝の弟であるカストロ・ローマン。(彼は引退をしてからは基本的にお金で次第である程度融通が利く人物となっていた)
オリビア家が当主、ガイル・オリビア。
そして、学園の教師である私、ワーン・カナリアだ。
私を含めた五人は、言葉を失っていた。
最後の魔術師の攻撃、あれは一国を滅ぼすことができるほどの威力を持つ神撃。
まず最初に驚いたのは、それをたった十二人の魔術師が発動したことだ。魔術師の中でも高位の人間を集めたとしても軽く100人ほどの魔術師が集まって初めて行える業なのだ。
といっても、彼らの神撃の威力は、本物の十分の一ほどだった。流石に百パーセントを実現することはできなかったのは、すぐにわかった。
それでも、その威力は通常の攻撃からは考えられない威力だ。
おそらくエンペラー級の人間でも、無傷で凌ぐことは厳しい。
それなのに、目の前の中継で流れていたヒカルという男は、その攻撃を空間ごと動かし、空へと解き放ち、この街を救った。
驚くべきことはさらにある。
それを、魔力なしで行ったことだ。
しかし、ここで注視すべきところは、魔力なしで空間を動かしたことではなく、空間を動かしたという一点だ。
そんなこと、魔力があったとしても、できるようなことではない。
たが、それを私は一度だけ見たことがあった。
この国のエンペラーの称号を持つ人物。
現皇帝の息子であり、ドルー王国始まって以来、史上最強の人物との評価を受けている人物。ネリ・マリオネット。
彼もこの学園を出ている。
私は彼を教えたことがあるが、彼の固有魔法が、空間を操るものだった。
――彼と同等か、それ以上の力だというのか……?
――もしも、あのヒカルという男が魔力も使用すればどうなるんだ!?
息が詰まる。
身体全身に恐怖が襲ってきた。
各家の高級貴族の代表からの怒号が飛び交う。
だが、審判役を任せられた人間たちは、その後、何も言うことができないでした。
「ときにかく!! やつは何かしらの不正を行ったに違いない!!」
「そうだ! でなければこんな結果ありえない!!」
「今回のこれはとんだ茶番だ! オリビア家の策略に違いない!」
「こんなことをして、ただで済むと思っているのか? こうなったら、議会で即刻高級貴族としての資格の剥奪を、審議するべきだ!」
「そうだ! オリビア家は、不正を働いた!!」
そのとき、一瞬にして、その場の声が止む。
私はゆっくりと後ろを振り向いた。
そこには、先ほどまで中継に映っていた男が居た。
「おいおい、せっかく俺ががんばってここまでやったって言うのにさあ。そんな結末はないでしょ」
ヒカルという男は微笑んだ。
普通なら、ここで、代表者からの罵声か、彼らを守護している人間からの拘束が彼に行われる展開である。
だけど、誰も一歩すら、一言すら発することができない。
理由は簡単だった。
――彼から発せられる限りない魔力、その恐怖により、その場の誰もが死を悟ったからだ。
「オリビア家以外の人は、誰ですか?」
ヒカルという男は、オリビア家当主である、ガイルさんに、それを聞いた。
ガイルさんが、それに答えると、ヒカルという男は、私を含め数人を指差していく。
「ちょっと、力出しすぎちゃったんで、軽く改ざんさせてもらいますね」
そうにっこり微笑むとい、ヒカルという男は、詠唱なしに魔方陣を出現させる。
そして、それが私を含め、オリビア家以外の人間を包み込んだ。
「な、何だこれは?」
「あああ、死にたくない!!」
「金、金なら用意する!!」
保身を考えるものだけが、声を上げる。
一方、私を含めた実力者は、すべてを受け入れた。
「今思うと最初からこうしておけばよかったんだけど、まあちょっと楽しませてもらいたいなって感じだったから、ってことで」
彼がそう言った瞬間、私の意識は途切れた。




