第二話 元魔女は、酒のみな件について(仮)
「えっと・・・」
俺は幼女の姿をまじましと見る。
―駄目だな。かなり頑丈にしてる。
幼女のステータスは、魔眼を持ってしても視ることはできそうになかった。
これは、相手が魔眼関連に対しての耐性を整えているからだ。
「もしかして、あなた・・・」
俺が、どうしたものかと思っていると、幼女の口からびっくりするほど低い声が聞こえてきた。
そして、それを聞いたことで、俺は確信を得る。
「私のことをだまそうとしていますか?」
俺は、その迫力に、情けないながら、身構える。
「えっと、急にどうしたのかな? そんなことあるはずないじゃないか」
「本当ですか?」
依然として相手の声は低い。それはまるで三十台ほどの女性のような、酒やけのした喉から聞こえてくる音みたいな・・・。
****
「勇者おめえ、もっと女遊びしたほうがいいぜえ」
「や、やめてくださいよお」
「なんだ、なんだ? お姉さんに欲情でもしちゃった?」
魔王の拠点を一つ落とした俺達は、その祝杯のため、近くの城で盛大なパーティーを行っていた。
そこで、俺は酒癖の悪い魔女の一人に捕まったわけだ。
「そ、そんなわけないじゃないですか」
「だよなあー、あの天下の勇者様がこんなおばさんに欲情するわけがないよなあ? こんなに体を寄せられても、胸を押し付けられても大丈夫だよなあ?」
魔女は、俺に体をこれでもかというくらい近づけてくる。
「も、もちろんですよ。僕は心に決めた人以外に、そんなやましい気持ちは持ちません!」
―嘘だ。
このときの俺は、それはもう、酒臭い魔女に対して、それはもう、ものすごい感情の乱れがあった。
だが、俺は勇者、俺は勇者だと、心の中に言い聞かせて、なんとか理性を保っていたわけだ。
流石に、その時点で100の世界を体験している俺だ。鋼の理性が、欲望を最大の圧力で押さえつける。1000MPaくらいで押さえつける。
「ふーん。そう、残念。今日はあなたで満足しようと思っていたけど駄目だったみたね」
そういうと、俺から、魔女は離れていった。
―耐えた・・・。耐えたぞ・・・。
心の中では、そう自分に言い聞かすが、本心ではただただ、こっちだって残念だ! と思っていた。
地の涙を流しながら耐えていたことは誰にもわかるまい。
ああ、俺が、こんな勇者でなくて、魔法使いとかみたいなチャラ男として、転生できていたらどれほどよかったことか。
―ええい! こうなったら、一気飲みだ!!
そうして、やけになり酒をがぶがぶ飲んでいた俺に村娘が一言・・・。
「ダサ・・・」
その言葉を俺はおぼろげになる意識の中で聞いたんだ!
つまり、村娘の本当の気持ち的には、俺のことを、あの勇者様のことを、そういう風に思っていたってことだろ?
―だから!
俺は絶対に勇者なんて者には、今後絶対にならない!
****
―間違いない。
相手はあの魔女だ。
どうやって、この世界に入ってきたのかは知らないが、魔女はそれこそ、黒魔術なんてお手の物だからな。何かしてこっちの世界にやってきたんだろう。
―まさか、こいつも転生したなんてことはないよな?
そんなことだったとしたら、もうカオスだ。自殺もんだ。
「とりあえず。占いの館まで送るよ。ね?」
まあ、いい。
直近の問題としては、相手が転生したのか黒魔術でやって来たのかなんてことではなく、どうして、俺を探しているのかということだ。
相手が、口にした名前。
それは、俺が前の世界で名乗っていた名前だ。恥ずかしいから、もう口にもしたくない名前だが、それをまさか、こんなところに来てまで聞くとは夢にも思っていなかった。
―やっぱり黒歴史は消去しないといけないな。
「私がこの世界の人間ではないことをどうして知っているのですか?」
なんとか、相手の凄みを押さえて、案内役になった俺の後ろを歩いていた魔女が言う。
―そういえば、そんなこと言ってしまったっけか?
しまった。
相手が、まさかあの魔女だなんて、そりゃ微塵も思ってなかったから、あんな軽薄なことをやってしまったわけだ。
―ここは、なんとかごまかさないとな。
「それは、あれだよ。この国の人間じゃないよね? って意味だよ。そんな格好をしている人間は見たことがないからね」
俺はぎこちない笑みを浮かべる。
どれだけがんばってもこれが限界だった。
「へえ、そうなんですか・・・」
しかし、相手の反応からして、俺の言動は残念ながら良くはなかったみたいだ。
幼女の周りに禍々しい魔力が集まっていく。
―おいおいおい! いきなり全力ですか?!
一応、人気のない路地に入っておいて、よかった。あんな瘴気に近い魔力なんて、一般人ならあてられただけで、一発で精神崩壊だ。
「いやいや、どうしたのかな? そんなに張り切っちゃって」
「私の存在は誰にもばれるわけにはいかない」
「へえ・・・」
―いったいどういうことだ?
「だから、俺を抹殺するって?」
ここまで来ては、一々軟弱な振りなどしてられない。
「あんたは危険だ。私のことを一発で見破って見せた。あんたこそ何者だい?」
幼女は、その姿からは想像ができない話し方をする。
まったく、そういうところはこだわって欲しかったところだ。もっと可愛らしさを追求してくれれば、こっちだって、いろいろとやりようはあるのに、キャラ付けはちゃんとしてもらはないとな。
「俺か? 俺はな・・・」
そこで、俺は思考のフル回転を行う。
ここで、もう俺の正体をばらしてしまおうか?
そうすれば一件落着な気がする。
そのその、相手の探している人物が俺なわけだからな。
いや、それはどうだ?
一々、こんな世界までやってきて、俺を探しているとは、少し常軌を逸している部分がある。
とすればだ。
これは、個人の判断ではないと考えるのが普通じゃないか?
何か、元の世界で俺を必要とする。または、俺を抹殺する必要が出てきた。
だから、俺の魂の痕跡を探し、こんな世界に転移してきた可能性がある。
そもそも、そこまでの力が前の世界のやつらにあったのかは甚だ疑問ではあるが、こうして、目の前にかつての知人が居るわけだから、認めざる終えないだろう。
―ふむ。どうしたものか・・・。
「答えないのかい?」
「そうだな。俺は、お前の探し人の知人だ」
俺が高速の思考の末に導き出した答えはそれだった。
俺との関連付けをした人物にしてしまえば、相手も俺を無碍にはできない。それにより、目的を聞き出すことができるかもしれない。
「知人だって?」
「ああ」
「ス――」
「ああああああ、そう! そいつの知人!」
―危ない危ない、すぐに名前なんか出すなよ・・・。びっくりするだろ。
本当に心臓の悪いやつだ。
「へえ? それは本当なのかい? でも信じられないね。あの勇者の知人が、あんたみたいな冴えない男だなんて」
―似たようなセリフを聞いたことがある気がする。・・・ああ、初対面のときのユリスのセリフか、クソ! そんなに俺は冴えないのか?
「まあ、あれだ。あれだよ。あいつも人格者だから? 俺みたいなのと付き合ってくれてるんだろうさ」
「そんなのは知ってるわよ」
「へ?」
「だから、あいつが、人格者で、かっこよくて、強くて、美しくて、誰からも好かれるような人物だってことくらい私のほうが知ってるっていってるの!」
・・・・・・・・・・・・・・ん?
「えっと、もう一回言って?」
「だからあ!」
幼女は、顔を真っ赤にして、続ける。
「あいつが、人格者で、かっこよくて、強くて、美しくて、最強で、かっこよくて、うん、かっこよくて、最高で、誰からも好かれるような人物だってことくらい私のほうが知ってるっていってるの!」
「おおおおおおおお!!!!」
つい、雄叫びを上げてしまう。
「他には?」
「他!?」
「うん、他にはどんなところがある?」
「そうね。なんていうか、存在そのものが、素敵よね。彼がいるだけですべてが輝くっていうか。うん、とりあえず最高だわ」
「おふっ!」
俺は、膝から崩れ落ちた。
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