第二十六話 元勇者と元魔王は力が出せない件について(仮)
「ここかあ」
「緊張するな!」
「馬鹿! そんな間抜けでどうする! 私たちは貴族なんだ。魔物ごとき簡単にあしらうことができるわ!!」
「まあ、魔物なんていつも聖騎士にやられてる連中だからな」
「俺たち貴族の名前を聞いてビビッて逃げだすんじゃないか?」
俺たちの後ろを歩く高級貴族たちはなんとも馬鹿であほで無能な会話をしていた。
洞窟の中は、思ったよりも暗く、それぞれで光魔法か光魔術を使って辺りを照らして進むわけだが、高級貴族は自分でそんな真似はしないので、もちろん従者が辺りを照らすわけだ。
「何か様子がおかしいですね」
ミアが言った。
その言葉には俺も同感だった。
ここの洞窟に入ってから未だに魔物の一体とも遭遇してなければ、入り口からここまでがずっと一本道であったことも何かおかしい。普通の拠点ならば、自分たちの居場所が特定されにくいように、迷路状にしておくのがセオリーである。
魔物は人間とは違い鼻が利くので、道を間違うということはないからだ。
「みなの諸君止まれえ!」
オルバック隊長のその一言で、みなが止まった。
俺たちが歩いている道の先に明かりが見える。
「とうとう本陣突入か?!」
「ふん。まあ簡単に制圧してみせるさ」
「私の炎魔法で魔物なんて焼き尽くしてみせるわ」
貴族どもの緊張感のない会話には俺は耳を貸さないで、集中力を高めた。
―なんか変だな。
シャルもそれを感じているらしく、いつもの感じではなく。真剣な表情をしていた。
俺たちの姿を見てミアとユリスも息を呑んでいる。
「行くぞ……」
俺たちは走り出した前の聖騎士たちに付いていく。
明かりがある場所に着くと、視界がいきなり開けた。
「なんだ……これ?」
そこにあるのは綺麗な草原と、大きな湖があり、どこからともなく光が差し込んでいる。
俺は辺りを見渡した。
―明かりがある原因はあれか。
ここにある鉱物は自ら発光する、発光石だ。
これはとても高価なもので、これを一つでも手に入れることができれば一族が一世代は軽く暮らすことができるほどのものである。
俺はさらに周りを見た。
「行き止まりですかね?」
ミアが言う。
そう。ここには俺たちが来た道以外に道がない。
そして大きく切り開かれた場所の天井も吹きぬけなどになっているわけでもない。
まずいな……。
「わあ、これ綺麗――」
そのとき、馬鹿な高級貴族が発光石に触れようとした。
「馬鹿!」
「え?」
その手をなんとかシャルが止める。
「な、何よ。勝手に腕に触ってるんじゃないわよ!」
シャルの腕を貴族が無理やり振りほどく。
「この石には触らないでください。腕が吹っ飛びますよ」
「は? 何よいきなり。意味わからないわ」
「彼女の言う通りだぜえ!」
オルバック隊長がまたよくわからないキャラでシャルの意見に同意した。
「発光石は、触れると爆発するんだぜえ! だから、採掘するときには慎重に扱わないといけないんだぜえ! いええええええい!」
オルバック隊長のその言葉と同時に地面が鼓動をあげ始めた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!
「な、何だ?!」
―これは?!
グオオオオオオオオオン!!!!
「みんな戻れええええええ!!!!!」
俺はその雄叫びと同時に叫ぶ。
この雄叫びの正体が姿を現す前にこいつらを逃がさないと!
「指図をするな!」
だが、貴族は俺の言葉には従わない。
―くそ、出てきてからじゃ間に合わない!
俺は右腕に空気弾をためる。
そして、それを貴族の群れに広範囲魔法として放ってやった。
貴族の体が宙に浮く。
「うわああああああ」
「なんだこれ?!」
俺は浮かした貴族どもを洞窟の一本道まで戻してやった。
「そこから絶対に出るなよ!!」
俺はすぐに湖を見据える。後ろから貴族からの非難の言葉が聞こえるがすべて無視した。今はそんな余裕はない。
「おい、ユリスたちも下がってろ!」
「いったい何が来るのよ?」
「いいから! 死にたいのか!!」
ユリスとミアは俺の声量で事態の深刻さを理解したのか、走って一本道に戻っていった。
そこから出てこようとする貴族どもをなんとか抑えてくれているようだ。
「おい。シャル! お前今でどれくらい出せる?」
「一割くらいかしら。まあ本気出せば問題ないんだけど、そうはいかないわね。全員死んじゃうし」
「俺もそれくらいだ。どうもここじゃ力が出せないな」
―ここではあまり力を出さないほうがいいな。
チラっと、貴族どもが固まっている場所を見た。
グオオオオオオオオオオオオオン!!!!
俺の前では五人の聖騎士が四方を見ながら構えている。
「湖だ! そこから来るぞ!!」
俺の言葉にオルバックがうなずく。
「みなのもの! 湖を注視しろ!」
どうやら、オルバックは俺のことを信用しているらしい。それにしても……。
―戦闘のときは普通なのかよ。
まあ、戦闘でもあんな変な感じだとやりにくいから、そのほうがいいけどな。
グオオオオオオオオオオオオオオン!!!!
雄叫びが鳴り響き、湖から何かが隆起した。
その何かは、洞窟の上まで急激に上がっていく。
そして、上までその胴が伸びると、そいつは俺たちを見下ろしてきた。
―はは、流石に今の状態じゃ結構きびしいかもな。苦笑いしかでねえわ。
「り、竜だ……」
貴族の一人が、つぶやくようにして言う。
あいつらも本物を見るのは初めてだろう。
眼爛々として、口は俺たちを噛み砕くには十分すぎる牙を持ち、口からは炎を吐く。そして、その表面の鱗は強靭であり、貫くにはその命一つでは到底足りない。やつらの中でも水中を住処にし、其の姿を人が眼にする機会が一番少ない竜……。
―水竜か!!
グオオオオオ!!!
湖からその胴は出きっていない。それほどにこいつの体は大きいというわけだ。
やつは、俺達が逃げられないように領域魔法を、洞窟に発動していた。
つまり、やつを倒さない限り俺たちは逃げることもできないというわけだ。
「かかれええええ!!!」
オルバック隊長の掛け声で、聖騎士の五人が竜に向かっていく。
グオオオオオ!
竜がオルバックに口から炎を吹いて攻撃する。
「はあ!」
それをオルバックが剣一線! 剣撃で振り払った。
―今の俺たちでオルバックと同程度くらいか……。
「シャル、お前は遠隔からの援護を頼んだ」
「わかった! 竜の弱点は?」
「眼か口の中だな」
「正解よ。じゃあいってらっしゃい!」
「はいよ!」
俺は駆け出した。
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