第二十五話 元勇者と元魔王の危機察知能力はやはり優れている件について(仮)
俺とシャルの不安は見事に的中してしまった。
こんなところで危機察知能力が発揮されなくてもいいのだが……。
俺たちは、シルバー学長から頼まれた魔物の拠点制圧の作戦に参加するため、王都の西門の前に集合していた。はっきり言って、まったく参加などしたくはないが、なんと、俺の村の使用されていない土地の所有権を俺に譲渡してくれるということなので、これは参加するしかないではないか!
―へへへ、これで新しく作物を育てることができるぜ。
時刻が正午になろうとしたとき、全員が揃うこととなった。
俺とシャルはユリス所有の高級馬車で向かう。正直、魔物の拠点制圧にこんな高級馬車で行くなんて馬鹿だとしか思えない。普通なら、もっと重厚な馬車や、牛や馬ももっと使い、いろいろな武器を持っていくのがセオリーだ。
しかし、どの連中も自分の権力を示すためか、無駄にでかい馬車をそれぞれ持ってきていた。
近隣諸国の高級貴族学生の連中も同じ様相であり、俺はそれを見て、これなら、うちの国の貴族達と、どんぐりの背比べだから、意外にも国の将来は、大丈夫なのかもしれないと思った。
それほどまでに、馬鹿な連中ばかりだ。
どいつもこいつも、装備は派手なものばかり選んでおり、無駄に重かったり(宝石類が付いているため)、いらんところまで凝っていたり、あほみたいに大きかったりしている。
―これ、本当に大丈夫か?
「おっしゃあああ、お前ら揃ったかああああ!」
そのとき、俺たちの先頭にいる聖騎士の中から、奇声が飛んできた。
―1番心配なのはあの人だよな……。
そう。この部隊を指揮してくれる、英雄レベルの聖騎士隊長、オルバック・オールバッカー。その人物である。
いやいや、確か俺たちが会ったときは、名前をミコライ・オールランドとかって名乗っていたような気がするんだが……。
その疑問に関する俺の記憶の中にある答えはこれだ。
「いやあ、それがね。なんでも彼、名前を変更したいとか言い出してね。あれだから、許可したんだよ。なんか、神からの啓示があったらしいんだ。名前をオールバック風に変えたほうがいいってね」
とはシルバー学長の弁だ。
なんでも、名前の変更は学長の権限でなんとかしたらしい。はあ、腐ってるぜ世の中……。
いやいや、名前ってそんなに簡単に変えちゃ駄目でしょう! なんやねん、 あれだからって! 馬鹿だよね絶対! ってかなんだよ神の啓示って、たまたま俺の心の声が聞こえちゃった感じ? なんか責任感じちゃうよ!
「お前、どんな精神付加施したんだよ……」
「まあ、簡単なものを十個ほどね……」
「その結果があれか?」
「そうね。知能はほぼ鶏レベルになっているはずよ」
「えげつねえな」
鶏レベルの知能で隊長になるって逆にすごくね?
「で、俺との戦いのときにお前が付加しまくった力がそのまま残ってるってことだろ?」
「そうみたいね。まあ、あの人にとったら逆によかったんじゃない?」
「よかったねえ……」
俺は、オルバック隊長を見た。
彼は俺が最初に会ったときとは違い。髪の毛をオールバックではなく、ツンツン頭にしている。一番のトレードマークがなくなってしまっていた。それでは名前を変えた意味がないじゃないか。
そして、そこら中に、ピアスやらネックレスやらを、あしらった格好をしていた。あのときの品性は見事に消し飛んでしまったらしい。
あれが、力を手にいれるための対価だというなら、俺は迷いなく断るだろうな。
そんな彼を見て思うことは一言。
―パンクロックかよ……。
まさかこの世界でそんな単語を使うことがあるとは思わなかった俺である。
「で、お前はどうしてそんな姿なんだ?」
オルバック隊長も、ものすごい格好なのだが、俺の隣にいる人物もまた意味わからん姿だった。
「これは、その……今王都で流行ってる新しいファッションよ!」
「それが?」
「ええ!」
「そのようなファッションは、流行っていませんよ」
「もうミアたん、そこいちいち訂正しなくていいから!」
シャルは今、全身黒ずくめの格好をしており、顔は目しか出ていなくて、全身に無駄にターバンをまいている。まるでどこかの暗殺部隊でも彷彿とさせる格好だった。
「お前熱いだろ?」
「全然!」
まあ、そうしたくなる気持ちもわからなくはない。
おそらくだが、あのオルバックさんはシャルの顔を見たらここぞとばかりに目を輝かすだろう。
多分、どれだけ精神作用の魔法を施そうとも、シャルに対する気持ちは消えなかったに違いない。それは、このシャルの格好からして予想できるものだった。
それに、相手が本当に鶏ほどの知能なら、いきなり交尾なんてこともあるかもしれないからな。まあ、それはそれで面白いんだけど。
「ではあああああ! 今かららああ、出発しまああああああす!」
オルバック隊長の言葉に従いみなが馬車に乗り込み。出発した。
魔物の拠点までは三時間ほどだと聞いている。
どうして昼時に攻めるのかというと、魔物は夜でも目がよく効く。つまり、夜になれば目が不慣れな人間にとっては不利な状況となるからだ。
だから、基本的には魔物を退治するときは夜ではなく陽が昇っている時刻が良いとされている。
「なあ、どうしてあのオルバックさんの言動に誰も触れないんだ?」
俺の今一番の疑問はそこだ。
誰も、彼の言動を見て何も言わないのは逆に気持ち悪い。
「ああ、それね」
ユリスが答えてくれるようだった。
「あの人は、この国の五大英雄貴族の家柄だからよ」
「マジかよ……」
「ええ、だから、誰も彼の言動、行動には何も口を挟まないの。本人に英雄クラスの力があるっていうのも大きいとは思うけれど、でも度が過ぎてるでしょ? 昔から変な人ではあったけど、一ヶ月前くらいに急におかしくなったのよ。なんでも天使からの受命を受けたとか、私は天使を探しているとかって、意味わからないことばかり言い出すようになったらしいわ」
「へ、へえ……」
俺はシャルのほうをチラッとみた。
天使ねえ・・・?
「でも、それなら、誰かがこの計画に立案をしたのか? 流石にあれじゃそんなのできないだろ?」
「いや、一応全部の指揮はあの人が行っているらしいわよ。なんでも、よくわからない勘がものすごく当たるらしいわ。しかも、彼の部隊全員が同じ感じになったらしくてね。でも成績はいいらしいのよ」
―動物の勘ってやつですかね?
「ふーん」
俺はまたシャルを横目でみた。
シャルは鼻息が荒く。肩で息をしていた。
うわあ、絶対熱すぎて思考が回転してないやつだわあ。
俺は、なんとなく軽くシャルの頭を小突いてやった。
まあ、いいか。優秀なら。
「はーい! 到着!!!!!」
「「「とーーーーーたちゃあああああっく!!!」」」
オルバック隊長の掛け声に、部隊の人間が合わせて言った。
そんな人間が四人で残りの一人だけがまともな聖騎士部隊。
そして、その他はロクに戦闘をしたこともない連中が三十人くらいか……。しんど!
俺たちは今、魔物の拠点である洞穴が見える高台へときていた。ここで、準備を整えてから、正面突破するらしい。洞穴の入り口が一つしかない以上そうするしかないわけだが、中で分岐点があればどうするのだろうか?
各々が、馬車の外や中で準備に取り掛かる。
俺は特に何もやることはないので、適当に洞穴の中を見ていた。
―ふーん。そういうね。
千里眼で見ようとしたが、残念ながら結界が張ってあり見ることができない。
つまり、相手は魔眼系の対策もしているということだ。
―厄介だな。
「ヒカルー……」
そのとき、気だるさを纏った声が俺を呼んだ。
俺はその声のするほうへと視界を向けた。
「お前、馬鹿だろ」
「だってえ……」
シャルの顔は明らかに火照っていた。
おそらく軽い熱中症になっている。
「体は人間なんだ。それくらい理解しとけよ」
「だってえ」
「もうわかったから、休んどけって」
「ええ」
「回復系の魔法は使えないのですか?」
そのときミアが尋ねてきた。
「うん? ああ、俺はそういうの得意じゃないんだよ。できるけど、傷は直せても体内系のやつは駄目なんだ。シャルは使えるんだけど、これだと自分に掛けるのは無理そうだな」
「それなら、私が治しましょう」
そう言うとミアは、シャルの額に軽くふれた。指先が軽く光る。
「あ! 元気になった!! ありがとうミアたん!」
「いえ、これぐらいお安い御用です」
ミアにシャルが抱きつく。
「ミアはなんでもできるのよ!」
ユリスがその様子を見ていて、自分の胸を張り出してきた。
うん。まあその豊満なのは認めるけど、どうして、お前が偉ぶっているんだという、突っ込みはその胸に免じて言わないことにしておこう。
「それでは! これから本陣に参る!! みなのしゅう!! 準備はいいかあああああ!!」
もうキャラがよくわからないオルバック隊長の言葉に、みながうなずいた。
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