第二十話 元勇者は部活申請をする件について(仮)
「え、何これ?」
翌日、俺はクラス分けの発表会場に来ていた。
シャルがまた布団にもぐりこんできていたので、今日はそんなシャルをそんなに布団が好きならと縛り付けて出てきた。つまり一人である。
聖錬学園のクラスはA~Gまでであり、一クラス二十人から二五人ほどの人数である。
そして、Aクラスが一番優秀であろう人たちの集まりで、クラスが下がっていくほどに能力値が低くなる。
俺は多分、自分はあれだけの騒ぎを起こしたんだから、適正に能力を判断されてAクラスか、逆に嫌われてユリスとかの力でGクラスにでもされると思っていた。
しかし、どっこい見てみてびっくり、そのどちらのクラスにも俺の名前はなかった。いや、正確にはA~Gの中に俺の名前はなかった。そして、それはシャルも同様だった。
もしかして、もう退学とか……? まあ、それならそれでいいんだけど。
『ええっと、ヒカルー。今からすぐに学長室に来てちょうだい! 超特急でね!』
そんなささやかな期待を持っていると、構内放送でシャルの陽気な声がした気がした。そして俺の名前が呼ばれた気もした。
気のせいかな?
まさかこんなところで、俺が呼ばれる意味もシャルが放送をする意味もわからない。
どうやら、俺はあの元魔王と一緒に居すぎたために耳までおかしくなってきたらしい。いやいや待て待てこれだと、俺がシャルの声を聞きたがっているみたいじゃないか。そんなことは決してない。そう決して……。
俺はそこで辺りを見渡す。多分シャルがそろそろ来るころだろう。
―ん?
そこで俺は自分が回りから注目されているのに気がついた。周りにいるのは新入隊生だ。つまり、昨日の出来事を知っている人物が大半。ということは、俺を今注目している理由は――。
―まあ、あの放送ですよね。いや、わかってましたよ? でもさ、ちょっと現実逃避をしたい気分だったんだよ。
俺は、周りの人間に不器用な笑顔を向けた。それを見て俺の周りから人がいなくなる。
俺のモテない理由32の内の一つ、テンパルと笑顔が不気味になるを発動してしまった。
「はあ」
俺は一息吐いて、場所のわからない学長室へと向けて駆けた。とりあえず大衆の目から逃れたい一身だった。
バタン!
学長室のドアが勢いよく開け放たれる。
それをしたのはもちろん俺だ。
そして、軽く息を切らしている。
「あら、結構遅かったのね」
俺が部屋に入ると、シャルがそ知らぬ顔でいやがった。こいつマジいっぺん絞めとくか?
「遅かったわね。じゃねえよ。場所しらねえっつうの!」
「でも、私は見つけられるでしょ?」
「気を張るのはいやなんだよ。面倒だから」
そう。別にシャルの魔力を感知すれば簡単なことだ。
だが、そんなことをすれば、学園にいるほかの特殊な人間に俺のことがばれてしまう可能性があるし、何よりもシャルがそれをさせようとしていることが癪だった。
俺は、部屋にいるほかの人物に目を向けられているのを感じる。
学長室は大きな部屋だった。両脇にびっしりと本がつめられている本棚があり、その中には魔術や魔法関連のものばかりがあった。
そしてドアと対面をするところに大きな窓があり、その前に重厚な椅子と上品そうな机がある。そこにシルバー学長が座っていた。彼は俺を微笑んでいる。
―まったく、変な趣味だよな。やっぱりシャルと気が合うだろうな。
俺はシルバー学長の雰囲気からそう思った。彼の素性からだ。
そして、部屋の中心に当たる位置に、背の低い机と、それを囲むようにしてソファーが置いてある。そのソファーにユリスとミアの二人が座っていた。
ちなみにシャルは本棚から本を取り出しているところだった。
「では、揃ったことだし、本題といこうか」
シルバー学長のその言葉で、三人は学長の前まで歩いていく。
俺は一瞬遅れて、それに倣った。
「ヒカル君、君を呼んだのは他でもないんだ」
なんだよ。他でもないって、俺何もしらんいうねん!
「君と、そちらのシャル嬢には、ユリス君の従者としてKクラスに入ってもらおうと思ってね」
「は?! 何それ?」
俺は失礼ながら、学長に対してため口を使ってしまう。
「Kクラス、それは私たち高級貴族しか入ることができないクラスのことよ。私たちが庶民と同じ教育を受けるわけにはいかないからね」
ユリスが俺の隣から、ぶっきらぼうに言ってきた。
「そんなところに、何で俺とシャルが入れるんですか? 俺たちはただの田舎者ですよ?」
「高級貴族はね。そのクラスに自分の従者を三人まで入れることができるんだよ。といっても、授業中は立ちっぱなしだし、常にご主人様の手伝いをしないといけないからクラスメイトというわけではないんだけどね」
「はあ――」
俺はそこで、高速に頭を回転させる。
こんな状況になっている理由を考えるためにだ。そして一瞬で俺の脳が答えを導き出した。
それは昨日、俺が帰った後に何かが起こったのだろう。いや、取引でもしたのかもしれない。
しかし、すべてはシャルが行ったことに違いないのは明らかだった。
おそらく、ユリスに自分と俺を従者としてKクラスとやらに入れるように脅したか、何かしたのだろう。
そして、それをシルバー学長に対して承諾させた。
二人は似たもの同士だから、気が合ってシルバー学長も快く承諾でもしたのだろうな。
「私は、別にミアだけでもよかったんだけど、昨日のあなたを見て、あなたとシャルは惜しい人材だと思ったのよ。だから学長にお願いしたわけ」
なるほど、シャルはユリス主導でこの話を進めたというわけか。
俺はユリスの「感謝しなさいよね」という言葉は無視して、学長に向き直る。
「ありがたい話ですが、丁重にお断りします」
「「え?!」」
俺の言葉にユリスとシャルが驚きの声を上げた。
いやうん。ユリスはわかるけど、シャルがどうして驚きを見せたのか俺にはさっぱりだ。俺が快く承諾するとどこで思ったというのか……。頭沸いてやがる。
「あの、別に俺はGクラスでもいいんで、勘弁してくれませんかね。俺はそんな貴族様たちの花園になんか足を踏み入れてもいい人間じゃないんで」
「うーん」
俺の言葉に対するシルバー学長の反応はよろしくない。
そのとき、俺の袖が勢いよく引かれて、俺の耳元にシャルの唇があわやくっつくところまで来る。
「どうして断ろうとするのよ?」
どうして俺が断らないと思った?
「いや、貴族と一緒とかいやだし、しかも高級貴族だぞ? なお嫌だわ」
「ここで人脈作りを行うのよ! これで勇者への階段をまた上がることができるのよ?」
いや、だから勇者になりたくないし。
「勇者はな。そんな既得権益とは相容れないから、人気があるんだよ」
「そんなの表面上だけじゃない!」
おいおい、いきなりそんなブラックボックス開けるなよ。怖いな。
確かに、勇者を目指す者の中には権力者に媚を売って、成りあがろうとするやつもいる。
だが、そんなのは二流だ。
勇者なら、地道に魔物から市民を守る道を選ぶべきである。
まあ俺はそんなのはもう御免だけど。
「ヒカル君、残念ながらそれはできないんだ」
シルバー学長が腕を前で組みながら言ってきた。
俺はシャルから耳を離す。
「どうしてですか? 俺みたいなやつをそんな花園に入れるほうが困難な気がしますけど?」
「それはユリス君の従者という登録をすれば簡単なんだよ。本人もそれを承諾しているからね」
登録される本人は承諾していないんですけどね!
「それに最大の理由は君の力の強大さだ」
「え?」
「君の力がすでに並の聖騎士を超えていることはすでに学園での周知の事実となっている。新入隊生の中ではさらに周知だ。つまりだね。君はA~Gのどのクラスに入っても浮いてしまうんだよ」
俺はその言葉を聞いてシャルを見た。
―こいつやりやがった!
おかしいとは思っていたんだ。いくら人間の世界で暮らすのに慣れていないといっても貴族に対していくらなんでも態度が悪いと、そしてけんか腰なのもだ。俺はそれを貴族に取り入るための布石なのだと先ほどまで思っていたが、違ったようだ。
要は俺に力を出させて、俺の居場所を限定するために行ったこと……。
つまりは、俺に自分が敷いたレールを歩かせるための布石だったというわけだ。
ユリスとのパイプを作ったのも、それでKクラスに入ることになったもの大きなことではない。大切なのは俺がシャルの思い描いている勇者道に組み込むことだったんだ。
―考えが甘かったぜ……。
こんなことなら、すぐにでも畑を取り戻すことを考えるべきだった。畑を人質に取られては、俺はある意味シャルの操り人形だ。
しかし、畑は移し変えるなんてことが容易にできるものではない。
一時は別に、他で畑ができればいいとさえ思ったこともあったが、離れて気が付くさらなる愛おしさ。もう俺はあの畑以外の場所で農業をする気にはなれなかった。
シャルは俺に対して微笑む。
俺はそれに怒りの形相を返してやった。
とりあえず。これからのことを考えるのは後だ。どうにかして、Kクラス編入を免れないと……。
「でも、それならKクラスでも同じじゃないですか? こんなことを言うとあれですが、いくら高級貴族といっても、俺は彼らが俺レベルとは思えないですけどね」
「うむ。確かにそうだ。魔力や干渉力というのは血筋に大きく影響する。だから貴族が貴族としてその地位を保てているわけだが、おそらくこの学園では君は三年すべてを合わせてもトップレベルだろうね」
「なら、どこに行っても一緒でしょう? それなら、俺は俺と同じ庶民がたくさんいるであろうGクラスがいいです。そのほうが安心して学園に通える」
少し希望が見えてきた。
俺の言葉に理屈は通っているはずだ。
「いや、これはね、君だけの問題ではないんだよ」
「え? それはいったいどういう――」
「庶民出身で、しかも田舎者である君が、あの高級貴族であうオリビア家の従者、しかもかなりの手練れを圧倒したとあっては駄目なんだ。高級貴族の面目が丸潰れだよ」
その言葉で、ユリスとミアの表情が曇った。
「つまり、俺をそのオリビア家の手のかかったもの。もしくはあの勝負自体が何かの催しであったかのようなことを表に対して証明する必要があるってことですか?」
「まあ、簡単に言うとそうだね。気分を害さないでくれよ。世界とはそういうものなんだ。秩序を崩すイレギュラーはできるだけ排除したい」
―はああああああああ…………。
俺は王都に来てからの、何回目の大きなため息を心の中でした。
まったく、その秩序とは誰のための秩序だというのか。大多数を救うものではなく。少数の権力者にだけ向けられた正義。そんなものに何の価値がるというのか。
まったく。どこの世界も根底は一緒だな。
「だから、残念ながら君に拒否権はないよ」
「ここで、俺が暴れてもですか?」
俺は、全身に緊張をめぐらす。
「君と私がやれば、かなりの被害が出そうだな」
シルバー学長は表情を崩さないが、隙のない反応をした。
―流石に、この状況じゃ不利かな。相手が相手だし。
「はあー」
俺は体を脱力させた。
「一つ条件を出しても?」
「いいだろう。何だね?」
「一つは、寮の部屋をもう一つ貸してください。できれば、女子寮のほうに、今俺とシャルは同じ部屋なんですよ。それは勘弁願いたい」
「わかった。いいだろう。それで後は何かな?」
そこで、俺は口角を上げる。
「部活ってやつを作らして欲しいんですよ。名前は自然ふれあい部。つまり農業をする部活です」
後もう一話くらいは、今日中に更新したいです!!
お読みいただきありがとうございます!




