第8話 選ばれた子
静かな畳間に、鈴の音が響いた。
四歳の智子は、その部屋の中央に立っていた。白い衣を着て、小さな手に神楽鈴を持っている。細い柄の先では、いくつもの小さな鈴が輪になって揺れていた。
教えられた通りに、身体を動かす。
白い漆喰の壁に設けられた小さな窓には、細い木格子がはめられていた。智子の背丈では、窓の向こうを覗くことはできない。
見えるのは、格子の隙間から覗く青空と、庭の木々の枝葉だけだった。春の穏やかな日差しが差し込み、風に揺れる葉の影が畳の上で揺れていた。
踊りに合わせ、鈴が鳴る。
そのときだった。
格子の向こうから子どもたちの笑い声が聞こえた。ひとつではない。何人もの子どもが中庭を走り回っているらしい。
声がいくつも重なって賑やかだった。ときおり、子どもたちを呼ぶような少し高い女性の声も聞こえる。
智子は窓の方へ目を向けたまま、舞を続けた。
私と、あの人たちは違う世界の人なんだ。
あそこには行けないんだな。
そんなことを、ぼんやりと思った。
「もう一度」
すぐそばから静かで澄んだ女性の声がした。
智子は立ち位置を整え、初めから舞った。
足を静かに運び、手首を返す。神楽鈴を小さく振るたび鈴の音が響き、白い袖がふわりと揺れた。
やがて舞が終わる。神楽鈴を下ろし、少し乱れた息を整えた。
「そう。上手ね」
穏やかな声が降ってきた。
「あなたも、私みたいな立派な巫女様になれるわ」
智子は何も言わず、ただ窓の外を眺めていた。
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