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Nichts――無  作者: イプシロン
Ⅰ シレーヌ
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#1 メッセージ――係数

 循環する機械的で不気味な空調音が船内に反響していた。

「ネライダ、地球からの通信電(メッセージ)はなにかある? α(アルファ)β(ベータ)に着信はあって?」

 シレーヌが訊いた。

 《リヒト・スヴィエート号》の統括人工知能(ジェネリックAI)が、

「α、βとも着信ありです。内容は口頭でお伝えしますか、それともモニターに?」

「内容によるわね。αは事務的だろうからモニターに、βは音声で。添付映像(アタッチ・イメージ)があるなら再生して」

「かしこまりました」

 ネライダが返答するやいなや、三次元映像に男が映し出された。

 その声に反応したのか、すでに綻んでいた彼女の表情に柔らかみが増した。

「やあシレーヌ、調子はどうだね? こちらは長年の心労から、ほら、こんなに白髪が増えたよ。それに体調も万全とはいえない。さすがにあの頃と同じというわけにはいかないよ」

発着場(ゲート)で別れてから、もう随分になるのね」

 彼女の表情が一瞬、揺らいだ。だが、モニターごしに交わされている二人の瞳には、いい知れぬ安堵に似たものが宿っていた。

「それでシレーヌ、計画どおり、目標は達成されたのかな? もちろん君のことだ、抜かりはないと確信している。それに、僕の開発したネライダのサポートは万全なはずだ。ただ残念なのは、目標が達成されたという報告がこちらに届くには、まだまだ時間がかかりそうな点だね。――大丈夫、僕は信じているよ」

「ネライダ、現在の速度をトリプルチェックして報告。計器に表示しつつ通信データに変換して。それに観測データの添付を忘れないでね。――残念ながら、今回はわたしの映像はなしと伝言を。ルフトに見せてあげたいけど、作業油まみれだからね。28歳の誕生日はあの人と――」

 シレーヌの呟きにネライダの合成音声がかぶさる。

「船長、通信回路に多少の問題が生じているようです」

「またなの? 機器の修理は完璧だったのでは?」 

 ネライダは申し訳なさそうな声で、

「何しろこの速度ですから。宇宙塵の影響もありますし、Ω級(オメガ・クラス)の中性子星からの宇宙線の影響も免れていないので……」

「それで、影響レベルは?」

Θ(シータ)±0.7程度です」

「ならば、問題はなしね。船内は正常、船外に若干の不具合ありというところ?」

 シレーヌの唇が慣れた呆れを弾き飛ばしていた。

「そのとおりです」

「では、あとは船外自動修復機(ドロイド)にお任せね。ほかに問題は? 動力系、環境系、資源系とも正常ね?」

「問題ありません」

「なら私は、ドロイド製造機の修理で汚れた服を着替えてくるわ。何もないだろうけど、何かあったら腕輪通信機(リストコム)で呼び出して」

 そういうと、シレーヌは自室へと姿を消した。

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