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完璧淑女の公爵令嬢、普通に卒業しただけなのに“あの令嬢”扱いされ、気づけば“星剣”と呼ばれていました  作者: 翡翠


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第40話 こちらに寄せた方がよろしいのですね



 神域は、再び静寂に戻っていた。


 先ほどまでの揺らぎが嘘のように、均一に保たれている。


 だが。


 完全に同じではない。


 わずかな変化。


 基準が、ずれている。


「……戻らぬのか」


 神竜が言う。


「もう少しだけ、よろしいかしら」


 セリアが微笑む。


「……構わん」


 即答だった。


 拒絶がない。


 排除もない。


「……お前は」


 一拍。


「影響を与える存在だ」


「そうですの?」


 セリアは首を傾げる。


「自覚はないな」


「はい」


 素直に頷く。


「よく分かりませんわ」


「……だが」


 神竜が続ける。


「こちらも変わる」


「まあ」


 セリアは小さく笑う。


「その方がよろしいと思いましたのね」


「……」


 神竜が沈黙する。


 そして。


「……均されるのではない」


「寄せられる」


「基準が」


「そうですの?」


「……ああ」


 短い肯定。


「では」


 セリアが言う。


「ご不便ではございませんか?」


「……不便ではない」


「むしろ」


 一拍。


「安定する」


「まあ」


 セリアは微笑む。


「それは良かったですわ」


 神竜がわずかに動く。


 輪郭が揺れる。


 定義が変わる。


「……形を取る」


 低い声。


「はい?」


「地上に適応するための形だ」


 その瞬間。


 神竜の存在が収束する。


 圧が凝縮される。


 規模が縮む。


 形が決まる。


 一人の少女が、そこに立っていた。


 長い髪。


 淡い光を帯びた瞳。


 人の形をしている。


 だが。


 本質は変わらない。


「……これでよい」


 少女が言う。


 声は先ほどと同じ。


 神竜のもの。


「まあ」


 セリアが少しだけ目を丸くする。


「素敵ですわ」


 それだけだった。


「……驚かぬのか」


「はい」


 穏やかに頷く。


「便利ですもの」


 その評価に。


 神竜がわずかに沈黙する。


「……そうか」


「では」


 セリアが続ける。


「地上にいらっしゃいます?」


 一切の迷いがない。


「……可能だ」


「制限はあるが」


「問題ありませんわ」


 即答だった。


 何も考えていない。


 だが、最適な答え。


「では」


 セリアが微笑む。


「ご一緒に参りましょう」


「……同行する」


 神竜が応じる。


 自然に。


 当然のように。


 神域から離れる。


 空へ。


 地上へ。


 王都上空。


 レオネルたちが空を見上げている。


「……戻るな」


「ああ」


 カイルが答える。


 気配で分かる。


 だが。


「……もう一ついるぞ」


 その一言で空気が止まる。


 セリアが降り立つ。


 いつも通りに。


 その隣に。


 見慣れない少女が立っている。


「ただいま戻りました」


 穏やかな声。


「……誰だ」


 レオネルが問う。


「ご一緒していただくことになりましたの」


 セリアが微笑む。


「……」


 全員が沈黙する。


 理解はしている。


 だが、認めたくない。


「……まさか」


 カイルが呟く。


「はい」


 セリアが頷く。


「先ほどの方ですわ」


 それで確定した。


「……」


 リリィが遠い目をする。


「……増えました……」


「……ああ」


 カイルが目を押さえる。


「最悪だな」


「最適化です」


 ノエルが即答する。


「……やめろ」


 カイルが小さく言う。


「では」


 セリアが言う。


「お屋敷に参りましょう」


 完全に日常の流れだった。


 アストレア公爵邸。


 門が開く。


 執事が出迎える。


「お帰りなさいませ、お嬢様」


 完璧な一礼。


 その視線が、少女へ向く。


 わずかに止まる。


 だが。


「……ご来客でいらっしゃいますね」


 即座に修正する。


 完璧だった。


「はい」


 セリアが頷く。


「しばらくご一緒していただきますの」


「承知いたしました」


 それで終わる。


 受け入れられる。


 何もかも。


 当然のように。


「……」


 レオネルが小さく呟く。


「……神竜まで、か」


「……ああ」


 カイルが答える。


「もう全部来るな」


「はい」


 ノエルが頷く。


「いずれ」


 その中心で。


 セリアだけが、いつも通りに微笑んでいる。


 それが。


 すべての基準だった。

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