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完璧淑女の公爵令嬢、普通に卒業しただけなのに“あの令嬢”扱いされ、気づけば“星剣”と呼ばれていました  作者: 翡翠


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第38話 もう少し上の方にもいらっしゃるのですね



 アストレア公爵邸の庭園。


 静かな午後。


 セリアは芝生の上に座り、空を見上げていた。


「セレス」


「……何だ」


 低い声が返る。


「少し気になっておりましたの」


 一拍。


「セレスより強い竜はいらっしゃるのかしら」


 その問いは、あまりにも軽かった。


 だが。


 意味は重い。


「……いる」


 短い答え。


 即答だった。


 周囲の空気が変わる。


 レオネルがわずかに目を細める。


 カイルの視線が止まる。


「……何だと」


「……上位個体が存在するということですか」


 ノエルが静かに確認する。


「……神竜」


 セレスが言う。


 その言葉だけで。


 空気が沈む。


「……神竜」


 リリィが小さく繰り返す。


 理解できない。


 だが。


 ただ事ではないことだけは分かる。


「まあ」


 セリアは小さく頷く。


「いらっしゃるのですね」


 驚きはない。


 当然の確認。


「……会う気か」


 レオネルが低く問う。


「はい」


 即答だった。


 迷いがない。


「……やめておけ」


 カイルが言う。


「理由は」


「分からん」


 正直な答え。


「だが」


 一拍。


「触れていい領域じゃない」


「そうですの?」


 セリアは首を傾げる。


「でも」


 微笑む。


「お会いしてみたいですわ」


 それだけだった。


 誰も止められない。


 止めても意味がない。


「……場所は」


 ノエルが問う。


「神域」


 セレスが答える。


「通常個体は到達不可」


「……」


 沈黙。


 レオネルが静かに息を吐く。


「……行けるのか」


「……可能だ」


 セレスが答える。


「……お前となら」


 その一言で。


 決まる。


「では」


 セリアが立ち上がる。


「参りましょうか」


「……待て」


 レオネルが一歩出る。


「同行は」


「難しいですわね」


 先に答える。


 穏やかに。


「……理由は」


「危ないかもしれませんもの」


 その言葉に、誰も反論できない。


 初めてだった。


 セリアが“危険”という言葉を使ったのは。


「……」


 カイルが黙る。


 ノエルも何も言わない。


 リリィは小さく頷く。


「……分かりました」


 レオネルが言う。


「だが」


 一拍。


「必ず戻れ」


「はい」


 セリアは微笑む。


 約束の重さを理解しているかは分からない。


 だが。


 守るだろうという確信だけはある。


「セレス」


「……行くか」


「はい」


 自然なやり取り。


 日常の延長。


 だが。


 向かう先は、日常ではない。


 セレスがゆっくりと身を浮かせる。


 空気が歪む。


 重力が揺れる。


 空が、遠くなる。


「では、行ってまいります」


 セリアが軽く手を振る。


 そのまま。


 上へ。


 消える。


「……」


 誰も言葉を発しない。


 音もない。


 ただ、空だけが残る。


「……なあ」


 カイルが小さく言う。


「何だ」


 レオネルが答える。


「今、どこ行った」


「……知らん」


 正直な答えだった。


「……神域、か」


 ノエルが呟く。


「はい」


 誰も確認していない。


 だが、全員が理解している。


 もう、地上の話ではない。


「……」


 リリィが遠くを見る。


「……帰ってきますよね?」


「……ああ」


 レオネルが答える。


 根拠はない。


 だが。


 確信だけはある。


「……戻ってくる」


 その言葉が。


 唯一の支えだった。

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