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完璧淑女の公爵令嬢、普通に卒業しただけなのに“あの令嬢”扱いされ、気づけば“星剣”と呼ばれていました  作者: 翡翠


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第32話 常識は持っているはずなのですが



 アストレア公爵邸の庭園は、今日も静かだった。


 古竜がいることを除けば。


「……なあ」


 カイルが空を見ながら言う。


「何だ」


 レオネルが短く返す。


「いつからだと思う」


「何がだ」


「常識を」


 一拍。


「どこに忘れてきたのかって話だ」


 沈黙が落ちる。


 リリィが少し遠くを見る。


「……最初から、ですかね……」


 弱々しい結論。


「いや」


 ノエルが静かに首を振る。


「所作は完璧です」


「礼儀、判断、対話能力、いずれも問題ありません」


「……そうだな」


 レオネルも頷く。


「欠落しているようには見えない」


「だろ?」


 カイルが言う。


「なのに」


 一拍。


「結果だけがおかしい」


 それが問題だった。


「……矛盾してますね」


 リリィが呟く。


「常識を持っているのに、常識外の行動を取る……」


「違うな」


 カイルが小さく笑う。


「常識を“持っている”」


「だが」


「“使っていない”」


「……ああ」


 レオネルが納得する。


「それだ」


「……では」


 ノエルが続ける。


「なぜ使わないのか」


 答えが必要な問い。


 だが。


 誰も答えられない。


「……必要ないから、か」


 カイルが呟く。


「それだと説明がつく」


「……」


 全員が黙る。


 それが最も納得できるからだ。


 常識とは、社会で生きるための制約。


 だが。


 制約を受けない存在ならば。


「……不要になるな」


 レオネルが静かに言う。


「はい」


 ノエルが頷く。


「完全に」


 その結論に、誰も反論しない。


「……じゃあさ」


 リリィが小さく言う。


「私たちは、なんで使ってるんですか?」


 沈黙。


 思考が止まる。


「……それは」


 レオネルが言葉を探す。


「……必要だからだ」


 それしか言えない。


「でも」


 リリィは続ける。


「セリア様は必要ないんですよね?」


「……ああ」


「……ずるいです……」


 本音だった。


「まあ」


 その時、声が入る。


 全員が振り返る。


 母だった。


「難しく考えすぎではなくて?」


 穏やかに微笑んでいる。


「……どこがだ」


 カイルが聞く。


「だって」


 母は楽しそうに言う。


「セリアは昔からああでしたもの」


 それだけだった。


「……昔から?」


 レオネルが聞き返す。


「ええ」


 当然のように頷く。


「小さい頃から、あの子は自分の思った通りにしていただけですわ」


「……止めなかったのか」


「どうして?」


 本気で分からない顔だった。


「だって、間違っていませんもの」


 沈黙。


 空気が止まる。


「……基準が違う」


 カイルが小さく呟く。


「はい」


 ノエルが即答する。


「根本的に」


「……なるほどな」


 レオネルが小さく息を吐く。


「常識を忘れたわけではない」


 一拍。


「最初から、別の基準で生きている」


 それが結論だった。


「まあ」


 母が微笑む。


「難しいことは分かりませんけれど」


「セリアはセリアですもの」


 それ以上でも、それ以下でもない。


「……」


 全員が黙る。


 それ以上の説明が、存在しないからだ。


「お待たせいたしました」


 その時、セリアが戻ってくる。


「少しお花を見ておりましたの」


 いつも通りの微笑み。


 いつも通りの声。


 ただ。


 背後に古竜がいる。


「……なあ」


 カイルが小さく言う。


「何だ」


「もういいだろ」


 一拍。


「考えるのやめようぜ」


「……ああ」


 レオネルは頷く。


「それが正解だ」


 リリィも、ノエルも、同じ方向を見る。


 少し遠くを。


 理解しようとして、途中でやめた者の目だった。


「何のお話をしていらしたの?」


 セリアが尋ねる。


「何でもない」


 レオネルが答える。


「そうですの?」


「何でもない」


 繰り返す。


「まあ」


 セリアは微笑む。


「でしたら、よろしいですわ」


 それで終わる。


 それ以上、掘り下げない。


 その姿勢が。


 最も異常だった。

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