第15話 技術は通じますが、意味は変わりませんわ
西方街道、さらに奥。
荒れた地形が続く中、空気の質が再び変わり始めていた。
「……来ますね」
ノエルが低く言う。
「はい」
リリィも頷く。
「さっきより強い……」
気配は複数。
しかも統制が取れている。
「まあ」
セリアは穏やかに周囲を見渡す。
「少し多いですわね」
その一言で、全員の感覚がずれる。
少し、ではない。
明らかに異常な数だ。
◇
地面が揺れる。
次の瞬間。
森の奥から、魔物の群れが一斉に現れた。
獣型。
昆虫型。
混成。
数は二十以上。
しかもすべてが強化個体。
「……これは」
レオネルが息を呑む。
「意図的だな」
「はい」
カイルが即座に答える。
その目は、すでに状況を分析している。
「誘導されてる」
「統制あり」
「指揮個体がいるはずだ」
短く、正確に。
「上だ」
視線を森の奥へ向ける。
「……なるほど」
レオネルが頷く。
同じ結論。
だが。
「では、どうする」
「分断して――」
言いかける。
戦術はある。
勝てない相手ではない。
だが。
「まあ」
セリアが一歩前に出る。
「まとめてでよろしいですわね」
その一言で。
戦術が無意味になる。
◇
「……待て」
カイルが手を上げる。
止める。
「少し試させろ」
セリアが足を止める。
「?」
「こいつら、普通じゃない」
短く言う。
「術式で制御されてる」
「まあ」
セリアは興味深そうに見る。
「でしたら、壊せばよろしいのでは?」
「それをやる」
カイルは一歩前に出る。
指先に、淡い光が集まる。
複雑な術式。
精密な制御。
空間に干渉する技術。
「……なるほど」
レオネルが目を細める。
「高度だな」
「ああ」
カイルは短く答える。
「これは、俺の領域だ」
魔物の動きが一瞬だけ鈍る。
干渉。
成功している。
「今だ」
レオネルが動く。
剣を振るい、一体を仕留める。
連携。
成立している。
「……やるじゃねえか」
カイルが小さく笑う。
だが。
「遅いですわね」
セリアの一言で。
空気が変わる。
◇
次の瞬間。
すべてが終わった。
振る。
それだけ。
二十を超える魔物が、同時に崩れ落ちる。
術式も。
干渉も。
連携も。
すべて無視して。
「……」
沈黙。
風だけが通り過ぎる。
「これで大丈夫ですわ」
セリアは穏やかに言う。
「指揮個体は――」
カイルが言いかける。
だが。
「消えておりますわ」
セリアが先に答える。
「まとめてですもの」
その言葉に。
カイルは苦笑した。
「……そうかよ」
理解する。
自分の技術は、確かに通じている。
だが。
意味がない。
この存在の前では。
◇
「……興味深いな」
レオネルが静かに言う。
「何がですの?」
「差だ」
短く答える。
「我々は、対処している」
「君は、終わらせている」
セリアは少し考える。
「同じではありませんの?」
「違う」
即答だった。
「決定的に」
◇
「まあ」
セリアは微笑む。
「でも、皆様がいらっしゃると楽しいですわ」
その一言で。
空気が緩む。
緊張が消える。
戦闘の余韻が、日常に戻る。
「……厄介だな」
カイルが小さく呟く。
「何がですの?」
「いや」
首を振る。
「何でもない」
だが、内心は違う。
理解している。
この令嬢は。
戦闘でも。
技術でもない。
「……環境を変える」
ぽつりと呟く。
それが結論だった。
◇
そして。
その戦闘の結果は。
すでに、どこかで観測されている。
森の奥。
さらにその先。
「……確認」
低い声。
「制御個体、全滅」
「干渉、無意味」
一瞬の沈黙。
「……計画を修正する」
静かに。
確実に。
次の段階へと進んでいく。




