聖騎士の思い
「……ぉ……ミナ……ミナト!大丈夫か!」
重いまぶたを、こじ開ける。
血が滲む視界の中に、ライトさんの顔があった。
「ライト……さん……」
喉が焼けるように乾いている。
「勝ち……ました……」
「よくやった。」
肩を支えられる。
「すぐにセレナーデのとこに連れていく」
意識が、落ちた。
◇
目を覚ましたとき、天井は白かった。
「……ここは」
「あら、起きたのね」
柔らかい声。
横を見ると、ひとりの女性が立っていた。
「ここはギルドの病室よ」
「……腕が」
触れる。折れていたはずの左腕。
痛みが、ない。
「私の治癒魔法のおかげ……と言いたいところだけど」
肩をすくめる。
「ほとんど、あなた自身の回復力ね」
「……どれくらい寝てたんですか」
「二日」
ありえない。
「骨が折れてたのよ。普通なら一週間はかかるわ」
じっと見られる。
「あなた……何者?」
「俺は……」
脳裏に、よぎる。
――黒い猫。
何度も、何度も。
瀕死だったのに、目が覚めたあの森。自分だけの特殊な能力なのか...
「お、起きてたか」
通りすがりのライトが顔を出す。
「もう動けるのかよ。化け物だな」
「はは……」
乾いた笑いが出る。
「……あの、俺」
「……卑怯な手、使いました」
視線を落とす。
あのとき。ナイフは、敵ではなく―― 子供の近くへ投げた。
「仕方ねぇよ」
ライトはあっさり言う。
「あれはミナトが正面から勝てる相手じゃねぇ」
それでも、と続けようとして――やめた。
「……あの人たちは」
「全員捕縛した」
簡潔な答え。
「ギルドで仕事回す。ガキは保護だ」
少しだけ、間を置く。
「まともに生きられるようにはしてやる」
その言葉に、少しだけ胸が軽くなる。
「……聖騎士の人は」
沈黙。
ミナトは、顔を伏せた。
膝に額を押しつける。
「生きてるわ」
セレナーデの声。
「まだ療養中だけど……あなたに会いたいって」
顔を上げる。
「……本当ですか」
「ええ」
ミナトは聖騎士の居場所を教えてもらい飛び出していった。横ではケタケタと笑うライトさんをセレナーデさんが叩いていた。
◇
「……来たか」
「もう大丈夫なんですか」
「ああ。お前ほどじゃないがな」
わずかに笑う。
疲れた顔だ。
「……ウィンブルクは、どこも同じだと思っていた」
天井を見る。
「どこも、腐っていると」
目を閉じる。
「だが……違った」
ゆっくりと、ミナトを見る。
「助けられたよ」
その言葉に、ミナトは何も返せない。
「俺の名はガイアード」
「元聖騎士だ」
自嘲気味に笑う。
「……不名誉な肩書きだがな」
◇
豪族と聖騎士。
金と力で押さえつけられる民。
スラム。
奴隷。
逃げ場のない世界。
「……だから、連れ出した」
静かに言う。
「守れる分だけでも、守ろうと思った」
◇
食堂へ向かう足取りは、重かった。
中に入ると――
「ああ、来たか」
鍛冶屋のおじさんロリポップがいた。
「どうだった」
腕を組み、こちらを見る。
「聖騎士は」
全部、知っている目だった。
「……強かったです」
短く答える。
「実力じゃ、全然届かない」
少しだけ、言葉を選ぶ。
「だろうな」
ロリポップはあっさり言う。
「だからこその――これだ」
ぽい、と投げられる。
受け取る。
布越しでも分かる、あの感覚。
魔剣。
「貸しといてやる」
「最後の依頼だ」
目が、わずかに細くなる。
「終わったら、好きにしろ」
――ドンッ!!
銅鑼の重い音が響く。
空気が、一変する。
ざわめきが、消え
高台に立つ男。
ギルド長――ゼルグラード。
「ギルドの連中、よく聞け」
低く、響く声。
「力を貸せ」
一瞬の静寂。
そして――
「東ウィンブルク、聖ナルディウス教へレイドを行う」
ざわめきが爆発する。
「目標は――」
わずかに、間を置く。
その一言。
「敵の殲滅だ」




