正義の盗賊
最後の依頼書。
内容は、単純だった。
鉱石および魔物素材の奪還。
ならびに、盗賊の捕縛。
指定された場所は、中都市の外れ。
森を抜けた先。
◇
「……っ」
ミナトの口から血がこぼれる。
膝が地面に沈む。
佇む男。
刃こぼれした剣でなければ、もう死んでいた。
油断じゃない。
――格上だ。
勝てないと心底震える。
的確な間合い。
無駄のない動き。
その背後。
子供が、膝を抱えて震えている。
守るように、男は立っていた。
何度も致命の一撃が迫る。
当てるための斬撃では、皮一枚しか裂けない。
しかし、重撃を入れるにはその隙が命取りになる。
ライトさんが戻るまで。耐えられるか...
◇
時は遡り1時間程前
「この依頼、恐らくだが...今のミナトより強い相手がいる。」
「推測だが、東ウィンブルクで指名手配されている元聖騎士だ。さらに、最強パーティーの一員だった男だ」
「……俺では、勝てませんか」
「勝算がないわけではない」
短く言い切る。
「そいつはスラムの連中を連れて逃げてきてる。つまり――守るものがある」
「……人質、ですね」
「そうだ。だが殺すな。あくまで捕縛だ。俺は周りを抑える。終わり次第、お前に合流する」
◇
森を抜けた先
粗末な拠点。
「話した通りだ。聖騎士は任せる」
「わかりました。」
短く頷き。
二人は、動いた。
◇
――現在
片膝をつくミナトの前に聖騎士は立っていた。
「あんた聖騎士なんだろ。何で盗賊なんか...」
血を拭い、睨む。
「盗賊、か。貴様には何もわからんだろう。」
軽く振り上げた大剣から放たれる重い薙ぎ払い。
空気ごと、押し潰すような圧。
ミナトが振り上げた剣に火花が散り、押し負ける。
「俺は民を守るために戦っていた」
足元が砕ける。
後方へ、弾かれる。
着地と同時に、聖騎士が大剣を地面へ突き刺した。
「グランドスパイク」
地面が、唸る。隆起し迫る。
巨大な土の棘が、一直線に突き上がる。
吹き飛ばされ転がる。
ミナトは体勢を立て直すも左の腕に力が入らない。折れている。
「守るためだと……?」
低く、吐き捨てる声。
怒りが滲む。
「だったら、なんでこんなことしてんだよ!」
聖騎士は、間を置かない。
「ストーンランス」
大剣が半円を描く。
次々と丸太のようなサイズの槍状の岩が作り上げられる。
地面から、岩がせり上がり、無数に丸太のような槍が生成される。
轟音と共に放たれる。
「貴様の知っている世界と一緒にするな!!」
「力があっても、金があっても何も救えない」
大剣を握りしめる。
力が、こもる。
「狂った世界で生きてきたんだ!!」
岩槍が降り注ぐ。
「常識も!!正義も!!」
「全部ッ!!通じない場所で!!」
巨大な岩槍が振り下ろされる一撃。
ミナトは横へ走り、岩槍を避ける。突き刺さった岩槍で聖騎士の視界から消える。
その瞬間ミナトは聖騎士へナイフを投げた。
ナイフは、聖騎士の横をかすめ。
そのまま、背後へ飛んだ。
ピクリと、反応する。
ほんの僅かに。
視線が動く。
「貴様っっ!」
聖騎士は大剣を、再び地面へ突き刺した。
「アースウォール」
背後に、巨大な岩壁が生成される。
守るための、反射。
その“守り”の選択。
――そこが、隙。
(……今だ)
ミナトは、踏み込む。
岩の槍を、すり抜けるように回避し。
一気に、間合いを詰める。
「だからって!!奪っていい理由にはならないだろ!!」
聖騎士の懐。
死角。
渾身の一撃。
「オラァァァ!」
雄叫びと共に確かな手応えが、刃に伝わった。
勝った。立っていたのはミナトだった。
聖騎士は、血を吹きながら崩れ落ちた。
地に叩きつけられる音が、やけに重く響く。
―――勝った。
はず、なのに。
胸の奥に、妙な違和感が残る。
真正面から打ち倒したわけじゃない。卑怯な手を使い。
それでも。
格上だった。
だからこそ――
この勝利は、掴み取ったものだ。
上等だ、と。
そう思うしかなかった。
「……はぁ……っ、はぁ……っ」
血の混じった呼吸が、喉を焼く。
肺が痛い。
視界が、滲む。
足に力が入らない。
そのまま、ミナトは地面に崩れ落ちた。




