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魔眷のミナト  作者: 少佐
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旅立ち

その村は、世界の果てみたいに静かだった。


朝露に濡れた草を踏みしめながら、俺はいつもの丘に向かっていた。

木剣を振る音だけが、やけに大きく響く。


ミナト「……はぁっ!」


振る。振る。振る。


何百回、何千回。数えるのはとっくにやめた。

それでも、剣を振るしかなかった。


――俺には、魔力がない。剣術と力で強くなるしかない。


魔力が無ければ人並みの攻撃ができない。

火を灯すことも、風を操ることもできない。

冒険者としては、最低ランクにすら届かない。


それでも。


「強くなる……絶対に」


呟いたその言葉は、誰に聞かせるでもなく、ただ空に消えた。



村の外れ、小さな家の前。

彼女は、いつも通りそこにいた。


アイリ「遅いよ」


腕を組んで、少しだけ不機嫌そうに俺を見る。


「悪い、ちょっと鍛錬してて」


「また? 本当に好きだよね、剣」


呆れたように笑うその顔に、胸が少しだけ締め付けられる。


幼なじみ。ずっと一緒に育ってきた、大切な人。


――今日、言わなきゃいけない。


「なあ」


「ん?」


「俺さ」


 喉が、やけに渇く。


「……お前のこと、ずっと――」


 言いかけて、息を飲む。


 逃げるな。ここで言わなきゃ、一生後悔する。


「好きだ」


 言った。


 風が、少しだけ強く吹いた気がした。


 彼女は、驚いたように目を見開いて、しばらく何も言わなかった。


 やがて、ゆっくりと視線を逸らす。


「……そっか」


 短い返事。


 それだけで、全部わかってしまいそうになる。


 でも――


「私ね」


 彼女は、小さく息を吐いてから言った。


「私のお父さんみたいな人がいいの」


 その言葉に、胸がざわつく。


「どんな相手でも守れて、どんな絶望でも諦めない人」


「……ああ」


 知ってる。


 あの人達は、村の誇りだった。

 伝説みたいに語られる、Sランクの冒険者。


「だから――」


 彼女は、まっすぐ俺を見た。


「ミナト...強くなって」


「…………」


「私のお父さんと同じ場所に立てるくらいに」


 静かな声だった。


 でも、その言葉は、剣よりも深く刺さった。


「そしたら、そのとき……」


 少しだけ、頬を赤くして。


「ちゃんと、答える」


 ◇


 その日の夜。


 俺は、村を出ることを決めた。


 荷物なんてほとんどない。

 剣と、少しの食料。それだけで十分だった。


 家の前で、最後に振り返る。


 小さな村。何もない場所。


 でも――全部があった場所。


「……行ってくる」


 誰に言うでもなく、そう呟く。


 足を踏み出す。


 その一歩が、やけに重い。


 でも、止まるわけにはいかない。


 ――強くなる。


 あの人達に並ぶために。


 アイリの言葉に、応えるために。


 

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