プロローグ 砂の王と女神
長編初投稿です。
よろしくお願いします。
広大な砂漠のほど近い場所にある農場で、農夫と羊飼いの男が他愛のない話をしていた。
「あのほら吹き、今度は『俺は海の向こうにある世界へ行く』って騒ぎ出したらしいぞ」
「またそんな夢みたいなこと言って、畑のひとつでも耕せばいいのにな」
その時、羊飼いは足元に違和感を覚え「ん?」と声を漏らして下を覗くと、皮でできた靴がボロボロになり、足の指がでていることに気付く。
羊飼いが「なんだよこれ、どうしちまったんだ」と言うと、その不格好な姿をみて農夫は笑い飛ばした。
そんなに笑うなと言いながら、金も無いのに新しい靴を買わなきゃいけないと思っていると、異常な光景が目に入った。
農夫の靴もまたボロボロになっており、指が出ていた。
だが、羊飼いは他のことに目が奪われ、それを指摘することもできない。
様子のおかしい羊飼いをみて「なんだ?」と言いながら、農夫は思わずその視線の先をおって驚愕する。
カサカサと音を立てながら、雑草が砂漠に飲み込まれるようにみるみるうちに枯れ、砂になっていった。
ふたりは農場の西側にある広大な砂漠に顔を向けてしまう。
地平線付近で距離感がおかしくなりそうなほど巨大な砂嵐が舞っていた。
「あ、あれは……」
この日、人類はまた恐怖に包まれることになる。
かつて世界を震撼させた六魔王の一柱、【砂の王】復活の報は瞬く間に広まった。
***
――どれだけの時間が経ったのか、わからない。
既に身体は朽ち果て、砂塵と塩になっている。
どうして未だに意識が消えないのか、消えてくれないのか。
それほどまでに罪深いことだったのか。
死にたい、死なせてくれ、殺せるものなら殺してくれ。
何千、何万と叫んだその望みは、叶えられるはずもない。
***
広大な砂漠の中心地には、数百年もの間、勇者と聖女が封印した魔王が眠っていた。
史上最高と評される二人によって施された結界だったが、それももう限界を迎えている。
いくつものひび割れを起こし、その隙間からは魔王の魔力が漏れ出始めていた。
結界が完全に崩れ落ちようとしたその時、天から一筋の光が射し、白銀の衣装をまとった美しい女性が降りてきた。
女神が降臨した。
女神は砂塵と塩になった砂の王に聖水を注ぎ、手をそこにかざすと、辺りが光に包まれた。
聖水と砂の王の残骸は混ざり合い、蠢き、やがて人の形に成っていく。
ドクン、ドクン……。
低く重い鼓動音が響いた。
メキメキという不快な音ともにソレがゆっくりと立ち上がる。
ソレは手指の動きを確認すると、静かにそれを見ていた女神を睨みつけ、躊躇なく殴りつけた。
その衝撃は凄まじく、広大な砂漠の砂という砂がすべて空に舞い上がるほどだった。
***
勢いそのまま殴ってみたが、やはり何かで防がれた。
どうやらこいつが結界か何かで周囲を覆っているらしく、おかげで余計に砂がこっちまでやってきたじゃねぇか。
「おい、どういうつもりだ? さっさと殺せよ」
そう言ってやるが、推定【女神】は涼しい顔で何も答えない。
黙ってこちらを見るその顔は、嫌な思い出が蘇りそうでやめてもらいたい。
「何故肉体を与えた? 何故封印から出した? 何故、俺を死なせない!!!?」
推定女神は「封印は崩壊寸前でした」とだけ答える。
「質問にちゃんと答えろよ。俺はもう生きるのが……」
そう言いかけて、ぐっと飲み込む。
睨みつけるだけ睨みつけ、言葉を待った。
「私の巫女を救って助けて欲しい」
「は?」
「彼女なら、あなたの呪いを解くことができるかもしれません」
「……は?」
言っている意味がわからず、理解に時間がかかる。
呪いを解くことができる? つまり、死ぬことができるってことか?
「どういうことだ? 説明しろ!!」
そう詰め寄ったところ、推定女神は少しだけ説明した。
「こことは異なる世界に私の巫女が囚われています。彼女を解放し、彼女の手助けをしていただきます。そうすれば、あなたを蝕む呪いも解けましょう」
「……それで、どうすればいいんだ?」
「私が導きます。その世界に住む人々の声に耳を傾け、正しく歩みなさい」
女神らしい説教じみた物言いに苛立ちがない訳じゃないが、他に何がある?
呪いを解くことができる”かもしれない”だと?
ふざけやがって、あれだけの力をみせておきながら、足元をみやがる。
「【アザール】。それがあなたの新しい名です。あなたの権能が、あなたの心まで涸らすことのないよう、願っています」
その言葉を最後に視界は真っ白な光に包まれ、目が慣れて視力が戻るとそこは銀世界だった。
次回 第1話「極寒の地に落とされた元魔王」




