#2
世界暦1821年。
戦争が終結してから九年が経過した世界は少しずつ平和を取り戻していた。
世界地図で見ると大陸のほぼ中央に位置する小さな村、イシュタル村。
四方を巨大な森に囲まれ、人口が少ないがとても平和な村である。
太陽が真上に昇った頃、村で唯一の学校では昼休みを迎えていた。
「やっぱ、伝説の勇者ってカッコイイよなぁ。オレもいつか勇者になって世界を救いてぇ!」
カーキー色のツンツン髪に蒼い瞳を輝かせた少年、ルイス・トンプソンは狭い教室内にある四席の机の内、二席をくっつけ、その上に上って言った。
「ルイス、冗談はあんたの顔だけにしときなさいよ」
すると深い溜め息と共にキツイ一言がルイスに浴びせられた。
ルイスが斜め向かいの席に座って昼食をとっているツインテールの少女、イヴリン・ゴートを睨み付ける。
「何だよ、イヴ。オレが勇者になれないってのかよ?」
「そういうこと」
「何ではっきり言い切れるんだよ・・・」
「あんた本当にわかんないの?」
イヴリンが更に深い溜め息を吐きながら隣の席に座っているプラチナブロンドに蒼い瞳の少女、リア・クリストファーを見た。
おとぎ話に出てくるお姫さまのように整った顔立ちのリアの表情は何故か曇っていた。
ルイスはわけがわからないと言った具合でリアとイヴリンの顔を交互に見ていた。
しばらくの沈黙が流れ、最初に口を開いたのは三人の内の誰でもなく、性別と髪型と性格以外すべてがイヴリンと同じ少年、イヴァン・ゴートだった。
「ようするに戦争が終結した今では救うものが何もない。だから、ルイスが勇者になるけとはありえないって、姉さんは言いたいんだよ」
「・・・・」
ルイスは今まで教室の片隅で静かに昼食をとっていたイヴァンの発言にムッとした表情を浮かべたまま黙り込んでしまった。
「イヴァン、そんなにはっきり言わなくても・・・」
「リア、こういうのははっきり言った方が本人のためになるのよ!さすが双子の弟、私の言いたいことわかってる」
姉に誉められ、イヴァンが少し顔を赤らめる。
「んなのやってみないとわかんねぇだろ!」
「あんたはそんなに戦争がおきてほしいの?」
「んなこと言ってねぇだろ」
「言ってる」
「言ってねぇ!」
二人は今にも掴み合いのケンカをしそうな勢いで言い合いを始めた。
「二人ともケンカは止めてください。もうすぐ午後の授業が始まりますから!」
リアが二人に必死に言い掛けるが、ケンカは止まる気配を見せない。
一方、イヴァンは関わらないように教室の隅に座っていた。
そして、ちょうどその時、教室のドアが開いた。
「さ、午後の授業始めるぞ!ん、どうした?」
現われたのは数ヵ月前に赴任してきた若い教師のアーヴィン・リッジリーだった。
「アーヴィン先生、この二人のケンカを止めてください!」
リアが必死に訴えかけるとアーヴィンは髪を一掻きし、ルイスとイヴリンのもとへ歩いて行く。
「ケンカはいけないなぁ。この村には君たち四人しか子供がいないんだから、仲良くさいとな」
「先生、別にケンカなんかしてない。十五歳にもなって夢みたいなことばっかり言うルイスに現実を教えただけ!」
「勝手なことばっか言うなよな」
アーヴィンが優しい口調でルイスに聞いた。
「ルイス、また勇者の話かい?」
ルイスは何も答えない。
「いいかい、九年前の戦争ではたくさんの人たちが亡くなったんだ。今でこそ平和なこの村も多くの被害を受けている。誰ももう一度戦争が起きてほしいと思っている人はいない。勇者に憧れる気持ちはわかるけど、君の夢はかなわないことなんだよ」
どこか寂しげな表情を浮かべながらアーヴィンが言う。
「・・・・」
リアは何も言わずにルイスを見る。
「なんだよ、どいつもこいつもオレの夢を否定して!オレだって戦争起きて欲しいなんて思ってな・・・」
ルイスの言葉は途中で止まった。
なぜなら、脳裏にオレンジ色の炎に包まれたイシュタル村の映像が浮かんだからである。
「どうしたんですか、ルイス?」
リアがそう言った時だった。
雷のような轟音と地震のような揺れが襲った。
数秒後、音と震動が止み、ルイスは真っ先に教室の窓から外を見た。
「何だよ、これは・・・」
ルイスの目に映ったのは、オレンジ色の炎に包まれたイシュタル村だった・・・・




