17.朝日
地下室からリディアを抱えたまま出てくると、今まさに突入しようとしている兵と鉢合わせた。
「アレクシス殿下ッ!」
「先に、リディアを頼む」
「軍医、こっちだ!」
やって来た軍医にリディアを渡そうとするが――気を失っているらしいのに、彼女はアレクシスの服から手を離さなかった。
そのまま診察した軍医が言うには、衰弱しているが命に別状はなさそうとのこと。
アレクシスは頷いて。
「……馬車を。このまま帰る」
「は、ただちに」
「アレクシス!」
そこへ、アドリアンが大股で歩いてきた。
「……兄さん」
「お前ね、勝手に飛び出して行くなよ。びっくりするだろう」
「すみません」
「でも……」
彼はリディアを覗き込む。一瞬冷たい表情をしたあと、またいつもの穏やかな表情に戻って。
「うん……良かったね」
「はい」
「アレクシス殿下! 馬車の準備ができました!」
………
……
…
ガラガラと、わずかに急ぐ車輪の音が響いていた。
「ぅ……で、殿下……」
馬車の振動で目が覚めたのか、リディアが呻く。
「痛むか? ここは馬車の中だ」
彼女の顔の左側には、額から目元にかけて腫れあがり、まだらに青あざが広がっていた。
痛々しいそれをどうにかしてあげたくて触れようとするが、アレクシスは寸でのところで留まる。
きっと――触れれば痛む。
そう思うと、指先は行き場を失ってしまう。
アレクシスは代わりに、肩を抱く指先に力を込めた。
「……もう、大丈夫だ」
今確かに、助けたかった人が隣にいる。
「殿、下……」
「ああ」
その声を聞き漏らさないように、顔を近づけた。
浅い呼吸が弱々しく、思わず息を潜める。
「ッほんとうに……、」
「……?」
リディアは、目を閉じたまま泣いていた。
頬を伝って落ちようとした涙を、アレクシスは指先でそっと掬う。
「ほんとうに、殿下ですか……?」
「ああ、そうだ」
リディアは小さなため息とともに俯いた。
震えるほど服を固く握りしめられていた手が緩んでいく。
その手を支えるように、上から握った。
確かに生きている。
それなのに、あまりにも冷たい。
「……すまなかった」
強く――強く抱き寄せる。
馬車の窓から差し込む朝日が、静かに二人を照らしていた。




