エントリー
人が多い。
寄り道を繰り返したせいで、エントリー期間終了の間際に到着した会場付近には、露店や賭博場、そして多種多様な人々が既に根を張っていた。
半月に一度の祭典。ロートだけでなく、他の都市や村からも見物客が集まってくるのだ。
人混みを掻き分けてエントリー会場へ向かうと、受付には目を惹くほど綺麗な栗毛の女性が座っていた。
思わず、心臓が跳ねる。
学生の頃は周りを見る余裕なんて欠片もなかった。こんなに綺麗な人が現実に存在しているなんて、僕は知らなかったんだ。
前の人の受付が終わり、一歩前進して戸籍証を差し出して踵を返す。
「君、変わった魔力をしているね」
心臓が、また別の意味で跳ねた。
「なんだか普通の人とは違う……違和感、かな? それを感じるんだけど」
「さぁ……何のことですか?」
絶対に、彼女の顔を直視できない。
引き攣っているであろう表情を悟られないよう、必死に視線を逸らす。
「ハンス君、ね。……少し、顔を見せてもらってもいいかな?」
肩に手が置かれる。
おそらく、この人は勘づいている。
こんなところで、僕の努力は、僕の人生は終わってしまうのか……?
最悪の事態を想定し、必死に逃走経路を模索しようとしたその時。
肩の重みが、ふっと消えた。
「こいつはシャイなんだ。それに女経験も皆無。お前が相手だと、イジメみたいなもんだろ?」
「レオさん!?」
レオ師匠だった。その声を聞いた瞬間、全身の力が抜けるほどの安堵が押し寄せる。
「レオさんのお知り合いなんですか?」
「俺の弟子だ」
「へぇ……レオさんの弟子っていうと、もっとヤンチャそうな子だった記憶があるんですけど」
「ティアラ。お前、言っていいことと悪いことがあるだろ」
「あ、ごめんなさい……レオさんを不快にさせるつもりはなくて……」
「はぁ。お前に悪気がないのは知っているが……もう少し考えてから発言しろ」
「はい……ごめんなさい……」
結局、その後の手続きはすべて師匠が代行してくれた。
受付を離れ、僕は震える声で師匠に尋ねる。
「師匠……色々聞きたいことがあるんですが、いいですか?」
「ああ、構わんぞ」
「まず、あの人は誰なんですか?」
「ティアラ・ローズ。グレッド剣術団の団長だ」
強い人だとは思ったが、想定以上の大物だった事実に驚愕する。
「なんでそんな凄い人が、受付なんてやってるんですか」
「……若い子を見るのが好きなんだとよ」
そんな理由なのか。
僕は気を取り直して、一番の懸念をぶつけた。
「二つ目ですが……魔力が特殊だと言われました。何か、勘づかれてませんか?」
「んー。あいつは感覚こそ鋭いが、少しアホでな。あまり気にしなくていい」
「……最後に。僕の前に、弟子がいたんですか?」
師匠の表情が、一瞬だけ険しくなった。
「力に溺れすぎた馬鹿野郎がいたな。黒魔術師だとバレて、処刑された」
「えっ!? ……じゃあ、レオ師匠の弟子が全員黒魔術師なんじゃないかって、ティアラさんに疑われませんか?」
「そこだけは、俺も懸念していてな……。よし、決めた。ハンス、この大会では『二級以上の魔術使用』を禁ずる」
「え……っ!?」
「まあ、頑張ってこい!」
そう言って、師匠は僕の背中を叩いた。
三級までの魔術じゃ、勝てるわけがない。
そんなこと、言えるはずもなかった。
僕の、そして師匠の命を守るための制約なのだ。
だけど――これじゃあ、初戦で無様に敗退することが決まったようなものだ。
トラウマを克服したくてここに来たのに。
また、あの嘲笑と蔑みの視線に晒されることになる。
恐怖で逃げ出したくなる。けれど、ここで逃げれば、それこそティアラに怪しまれるかもしれない。
……やっぱり、魔術適性なんて、なければよかったんだ。




