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ウルグvsヴィクトール

「――それでは、準決勝に勝ち上がった四名の紹介に移りたいと思います!」


ヴィクトールとの会話が終わった直後、会場にアナウンスが響き渡った。


「アイビス魔術学園一年、洗練された水魔術を操るヴィクトール・ド・ヴァランティーヌ選手!

同じく一年、堅実な岩魔術の使い手、ウルグ・グラス選手!

アイビス剣術学園三年、炎と流麗な剣技を併せ持つモノ・パイロ選手!

そして、我流の水魔術で敵を翻弄するアリス・ハイネス選手!」


(……ウィルがいない?)


読み上げられた名の中に、あの実力者・ウィルの名がないことに気づく。


「そろそろ僕は控え室に戻るよ」


そう言い残して去ろうとするヴィクトールの袖を、僕は咄嗟に掴んだ。


「ウィルって選手は、誰が倒したの……?」


「確か、棄権していたはずだ。あのチンピラが、それで不戦勝を手にしていたのを覚えているよ」


「棄権」という言葉が、いまいちピンとこない。


あれほどの強さを誇りながら、なぜ戦わずして退いたのか。風のウィルにとって岩のウルグは相性が悪いと考えたからだろうか。

疑問は尽きないが、今は結論が出るはずもなかった。


「……もういいかい? なら、僕は行くよ」


「あ、うん。ごめん、引き止めちゃって」


「気にしないでくれ」


ヴィクトールは足早に治療室を後にした。


思い返せば、僕の傷もほぼ完治している。ここに居続ける理由もない。


僕は試合を見届けるため、観客席へと向かった。


会場は、凄まじい熱気に包まれていた。座る場所どころか、立ち見ができそうな隙間すら人で埋まり、通路を歩くことさえままならない。


「おっ、ハンスじゃん」


喧騒の向こうから声がした。誰が呼んでいるのか分からない。


「返事くらいしろよな」


直後、目の前の人だかりが、何かに押し出されるように僕の方へ崩れてきた。


慌てて後退りする。

尻餅をつく者、慌てて避難する者……視界を塞いでいた人波が割れると、見覚えのある顔がニカッと笑っていた。


「いい場所が空いた。こっち来いよ」


ガイヤが力尽くで人混みを押し分け、この小騒動を起こした犯人だと判明した。


「えっと、あんまりこういうことはしない方がいいんじゃ……?」


「気にすんなって。本来立ち見禁止なのに、こうして陣取ってる奴らが悪いんだからよ」


「えぇ……」


ガイヤと親しげに話しているせいで、周囲の冷ややかな視線が僕にまで突き刺さる。

だが、試合を見たいのは事実だ。僕はモヤモヤしたものを抱えつつ、ガイヤが確保?している場所へと、人混みをかき分けついて行った。


「ここ、よく見えるだろ」


「……立ち見禁止って、自覚してるんだよね?」


「他の奴らもやってるんだ。別にいいだろ?」


結局立ち見じゃないか。


そんなやり取りをしている間に、対戦相手の二人が姿を現した。


距離はあるが、その佇まいだけで誰かはすぐに分かった。


「ヴィクトールとウルグかな……」


「あいつ、負けたなぁー」


ガイヤが指す「あいつ」とは、間違いなくウルグのことだろう。僕も同じ意見だ。ウルグに勝ち目があるとは思えない。


「けど、あいつは入賞者だしワンチャン、魔術団か剣術団からの推薦が来るかもじゃね」


「えっ!? じゃあウルグは、そのままどっちかに就職するかもってこと? いいなあ……」


「お前だって強いじゃん。対戦相手が悪すぎただけだって。夏、頑張れよ」


ガイヤが景気よく背中を叩いて励ましてくれる。


「……うん」


少しだけ胸が熱くなるのを感じながら、僕は試合場に視線を注いだ。


試合開始の合図とともに、ヴィクトールの傍らから奔流が放たれた。


ウルグが即座に岩壁で進路を絞り込むが、ヴィクトールは止まらない。水圧を纏って突進し、正面から岩を粉砕した。


ウルグが円錐状に尖らせた岩を連射するも、水がそれを優しく包み込むように勢いを殺し、次々と地面に落としていく。


ウルグが再び岩をチャージし始めると、両者の間に巨大な水の壁が立ちはだかった。


ウルグは円錐岩を二つ、三つと増やしてヴィクトールが飛び出さないよう牽制する。

対するヴィクトールは、自身の足元に水の膜を張り巡らせ始めた。


その水膜を凝視すると、水壁の方向へ向かって激しく波立っている。かなりの速度で循環している、鋭い水流だ。


ウルグが三連射の岩を放つと同時に水壁が消滅し、それまでヴィクトールの足元にしかなかった水膜が、一瞬にして試合場全体を覆い尽くした。


ウルグの放った岩はすべて叩き落とされる。


ヴィクトールは悠然と、ウルグの方へと歩き出した。


危機を察したウルグが距離を取ろうと走り出した瞬間、会場全体に広がっていた水膜が、一斉に「氷」へと変貌した。


「……お前以外の相手で、初めて氷を使いやがったぞ、あの野郎」


「え? 僕以外には使ってなかったの?」


ガイヤは深く頷きながら、試合の顛末を見届けようと目を凝らした。


ウルグは氷に足を取られ、うつ伏せのまま滑走していた。このままでは場外負けが確定する。


彼は場外ライン際に岩を生成し、激突の衝撃で身体を止めようとした。だが、岩に触れるよりも早く、激しい水流がウルグの背を押し、さらなる加速を与えた。


このまま岩にぶつかれば、気絶は免れない。


――その一瞬の後、ウルグの身体は生成された岩を貫通し、そのまま場外へと弾き飛ばされた。


激突の直前、彼は「岩石化」を使わされたのだろう。そうしなければ、大怪我を負った上で負けるという最悪の結果になっていたはずだ。苦渋の選択だった。


「やっぱりか……」


自分のことではないのに、悔しそうに顔を歪めるガイヤを見て、僕の胸中も複雑になった。


ウルグには勝ってほしかった。けれど、あの事情を聞いてしまった以上、ヴィクトールを応援したい気持ちも、確かにあったから。


「打ち上げ行こうぜ! お前ら頑張ったんだ。今日は俺が奢ってやるよ」


悔しさはどこへやら、いつものヘラヘラとした表情に戻ったガイヤが僕の背中を叩き、再び人混みを押し分けて進んでいく。


「え、ちょっと……!」


(ヴィクトールの決勝戦、見たかったんだけど……)


心残りを感じつつも、僕はウルグと合流するためにガイヤの背中を追った。

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