表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/20

賭博場

「――えー、ただいまより対戦組み合わせの発表を行います。賭博関係者の方々にも配慮し、発表後一時間は試合を行いません。ご了承をお願いします」


アナウンスが流れ、僕らの手元に対戦組み合わせ表が配られた。


「……マジかぁ……」


僕の初戦の相手は、ヴィクトール・ド・ヴァランティーヌ。


彼の実力のすべてを知っているわけではない。けれど、僕が全力で挑んだとしても「勝てる」と断言できる相手じゃない。ましてや三級魔術までしか使えないとなれば、お手上げ状態だ。


「勝てる気がしないなぁ……」


「まあ、アイツも自分の予選グループで優勝できなかったってことだろ? お前なら勝てるって」


僕の相手を確認したらしいウルグに、背中をバシッと叩かれた。


「いっつ……。それより、ウルグの相手は誰だったの?」


「知らん、無名の選手だ。だがウィルってやつの件もある。油断する気はないぞ」


真面目な顔をしたウルグを見て、僕も気を引き締める。


あの頃とは違う。僕には実力があるんだ。もしかしたらヴィクトールだって、思っていたより強くないのかもしれない。


そう自分を慰めていると、ウルグに手を引かれた。


「せっかくだ。賭博場に行こうぜ。お互いに賭けて、小遣い増やそうぜ!」


「えっ、でも僕、負けるかもだよ?」


「お前は負けない。俺が保証してやるよ」


ウルグの強い言葉。それは自信になると同時に、重圧となって僕の肩にのしかかった。


賭博場は、むせ返るような熱気に包まれていた。


掲示板には、すでに僕とヴィクトールの試合のオッズが出ていた。


「九対一……」


もちろん、僕が「一」の方だ。


「最高だな!」


ウルグが興奮気味に支配人のところへ行き、全財産――金貨五枚と銀貨七枚を、迷わず僕の方へ賭けた。


「あんたギャンブラーだな。好きだぜ、そういうおとこは」


支配人がニヤリと笑い、ウルグの名を帳簿に記載する。


「ちょっと、ウルグ! 全額でしょそれ。負けたらどうするの!」


「言ったろ。俺はお前が負けるなんて思ってない。……それにしても、これ当たれば金貨五十枚に膨れ上がるんだろ? 何買おうかなぁ」


皮算用を始めたウルグを横目に、僕の顔は真っ白に染まっていく。


負けたら、あの苦労して稼いだ大金がパーになってしまう。


(……いや、何弱腰になってるんだ、僕。最初から負ける気なんてなかったし、ただ負けられなくなっただけだ!)


ヴィクトールに、あの天才に勝って魔術団に入れば、エリートコースは確実だ。


「僕で儲けるんだから、少しくらい還元してよね」


「ばっちこい。なんでも奢ってやるよ!」


ケラケラと笑うウルグ。続いて彼の試合のオッズも出たようだが、五対五。実力が拮抗していると見られているらしい。


僕はウルグの方に全額を賭け返した。


「実際やられると、結構プレッシャーかかるなこれ……」


珍しく弱音を吐くウルグだったが、すぐにその顔が引き締まった。


「――勝つぞ、俺も!」

僕を安心させるためか自分を鼓舞するためか意思表明をしてから賭博場を出てガイヤを探す。


「流石に人多いし広すぎるしあいつは後でにしようぜ。あと20分くらいで試合始まるし選手控え室行っとけよ」

しばらくガイヤを探してうろちょろしていたが全く見つからずにウルグからそう告げられた。


「そうするよ、じゃあまた」


「おう、お前の勇姿しっかり見とくからな」


そう言うとウルグは僕に背を向け選手用の観戦席の方に足を動かした。


一人になると、先ほどまでの余裕は消え去り、恐怖が心を埋め尽くした。心臓がドクドクとうるさくて、周りの音が聞こえない。


本選は、予選とは規模が違う。


全試合場での同時進行ではなく、中央のステージで一試合ずつ行われる。この会場にいる数千の視線が、僕とヴィクトールただ二人を捉えるのだ。


(落ち着け。焦るな。僕だって、強くなったんだ……!)


「――では、ハンス選手とヴィクトール選手。試合場までお出てください」


どこか気まずそうな顔をしたヴィクトールと目が合う。


その目は、試合に対する不安ではない。「勝ってしまって申し訳ないな」という、無意識の傲慢さが透けて見えた。


それを理解してしまった途端に不覚にも怒りが芽生えた。


師匠からは二級以上の魔術を禁じられていた。けれど、…僕はその禁を破ることを決意した。


バレれば僕は処刑、師匠もどうなるか分からない。ティアラだって目を光らせて見ているだろうし、賢くないのは分かっている。


けれど、それ以上にウルグの期待に応えたい。そして、ヴィクトールに教えたいんだ。


僕はもう、いじめられていたあの頃の僕じゃないって。


「全力でやろうよ、ヴィクトール」


手を差し出す。


「あぁ、僕の考えてる事分かっちゃった?侮辱するつもりはなかったんだが、許してほしい」


握手を交わしながら、ヴィクトールが気まずそうに笑った。


この男に、絶対に勝つ。


心の中で静かな闘志を燃やした。


「――では、試合初め!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ