メイドの休日:Part.1
〝デート〟といえば。
本人にも他にも白状する予定は今のところないが、いつかの日からか。単語を聞けば自然と連想する記憶は、どこぞの『妖精』との初デートに固定されている。
なんかもう、それくらいの衝撃だったんだ。
待ち合わせ場所で見つけたアホほど可愛い女の子。
人混みの中で、とびきり輝いていた緑色の瞳。求めず人目を欲しいままにしていたキャラメルブロンドの髪。真白な肩を覗かせた空色のブラウスに、膝丈の白いフレアスカート────やはり本人にも中々ぶっちゃける勇気はないが、覚えてる。
そこだけ現実でも『記憶』の才能が発現していたのかと疑うくらい、ハッキリと、詳細に。ふとした時に思い描いてしてしまうほど、彩り強く。
改めて考えれば俺、三人それぞれに何回一目惚れしてんだかわっかんねぇなといった具合。強烈に焼き付いた思い出というのは幾つも挙げられるが……やはり。
なんというか、やはり、そう、女の子。
その三文字でタグ付けされる記憶として最も俺を痛烈に〝ぶん殴った〟記憶というのが、どうしてもソレで固定されてしまって動かないのだった────
ゆえに、重ねて、ふとした時。
ソラやアーシェとの時間にニアとの思い出に浸るとかいう超ド級の失礼をぶちかまさないよう、ゆうて気を付けるも何もないが心のどこかが常に緊張している今日この頃。というか、あの日から今日まで密かに気を張り続けている俺事情。
しかしながら、他の相手に対しては別に気を付ける必要もなく思っており……。
「……………………………………うっわぁ……」
現在時刻、午後二時の手前。
推定、甚だ失礼。
面と向かって本人に聞かれたら、必殺メイドスマイルで撃ち抜かれるというかハチの巣にされるであろう声を無意識に零しながら。俺は晴天が照らす雑踏の中で、まさしく〝デート〟といえばで浮かぶ件の日を避け得ず思い起こしていた。
人混みの中、静かに。しかし確かに秀でた魅力を秘める黒。今日も今日とて厳しさ零点ギリギリを攻める、ただただで大人らしく優美で美しい切れ長の瞳。
普段はバレッタでアップに纏められている色素薄目の黒髪は下ろされ、編まれた一房が何気ない可愛らしさと色気を演出する王道の余所行きストレート。
そんで、普段の服装は攻撃力が高い代わりに防御力が高いからだろうか。
まだ薄っすら肌寒い時分だというのに……謎に、必要以上に『いけないもの』を見ている気にさせられる白い肌が点々と露わになっている本気スタイル。
俺基準、割かし大胆に首元の空いたブラウス。普段のメイドバイタリティを感じさせない嫋やかに華奢な腕を晒す、七分丈のアウターコート。
そして、コートに隠れてしまうような丈のスカートから伸びる真白な美脚。短丈のブーツに吸い込まれる先の先まで、隙など見当たらぬ完全武装。
────つまるところ、お洒落に疎い俺でも理解できるガチ感。
そんでもって、そんなガチお洒落が一ミリも過多になっていない本物感。
ドえらい美人が、雑踏の中。あらゆる人の目を引くままに堂々と立っていた。
おそらく、先日の遊園地よろしくアレに声を掛けられる猛者はいない。話し掛けんなオーラが出ているわけではないが、話し掛けたら死ぬ凄味は出ている。
然らば、はたしてここで俺が回れ右して逃げ出した場合『仕方ねぇわ俺でも逃げる』と共感してくれる男は、世界人口の約何割だろうか────などと、
慄く頭で、恥ずかしながら呆けて突っ立つ俺のことを、
「……────」
お相手が、見つける。
……いや、まあ、正しくは『猶予期間終了』ってな具合だろう。
下手すりゃ向こうから見える位置に姿を持ってくるより先、気配で察知されていたとて不思議には思わない。メイド服を纏っていなくとも彼女は彼女だ。
斯くして、道行く誰もが実態を知らぬ美女が歩む────そして、道が割れる。
モーゼの海割りなどと称すような大袈裟な形ではないが……確かに。その歩みを決して邪魔しないようにと誰もが気を使うが如く、流れができる。
ゆえに、止まることなく目的の位置へと辿り着いた彼女は、周囲の全てなど有象無象とでも言わんばかり。ありとあらゆる視線も意識も注目も意に介さぬまま。
首を傾げ、サラリ流れる髪を揺らして……。
「全くもう、遅いですよ?」
おそらく用意していたのであろう言葉で俺を揶揄うものだから、俺も俺。
「……約束の十分前ですよ?」
用意していた反撃の言葉を、面白みもなく言って返した。
さすれば、彼女────空けた休日にて職務を抜け出し、数多を魅了する一人の女性として雑踏に舞い降りた夏目斎は……さて、その胸中や如何なるや。
「まあ、随分と可愛げがない。────あんまり生意気な顔を見せられると、今日のデート中ずっと〝のぞみ君♡〟と呼びたくなってしまいますがよろしいので」
「調子乗ってましたマジお待たせして申し開きのしようもございません」
今日も今日とて無敵の様相。
刹那で白旗を上げた俺を見て、くすりと満足げに微笑み……。
「ふふ……それでは、エスコート。よろしくお願いしますね?」
至極当然のように。冗談抜きのデートに際して。
取らぬ択の有り得ない手を、差し出した。
初回スチルで不意打ちガッツリ沼らせるやつ。




