忘れた頃に
【Haru】:わり、ダメだった
【ゆらゆら】:そうか
【Haru】:試してはみたんだけども
【ゆらゆら】:わかった。気にすんな
【Haru】:うぃっす
「────なんだい、ボケっとして」
「いや、珍しく落ち着いた『やり取り』が成立したなって……」
「はぁ?」
「や、こっちの話っス」
夜。今日はソラが泊っていくとのことで、三人娘は今頃ニアの部屋でパジャマパーティの真っ最中。一人寂しい俺は……いや冗談で誘われたのを理性で振り払い「No」と返したのは俺自身だが、ともあれ単身にて仮想世界へ。
したらば、近い内に顔を出すようにと言われていた相手が居たもんで────
「こっちの話、ねぇ……? 随分と色々『話』を抱えていそうだけども?」
「オープンに面白がってる人には話しませーん」
いつもの如くアポなし突撃。いつからか必要に迫られ実装されてしまった通用制限口を顔パスで潜り、顔馴染みの係員さんに『ご婚約おめでとうございます』と口パクで揶揄われつつ、やって来ました殺風景な個人部屋にて。
「ま、諸々ニアから聞いてんだけどね」
「でしょうね。はいはい、知ってた知ってた」
俺は親愛なる専属魔工師殿と駄弁っていた。
挨拶含めアレやコレやと碌に中身のない会話を繋ぐこと暫く。執務椅子と来客椅子それぞれに座り、適当な会話に興じること……かれこれ、三十分ほどだろうか。
ちょいちょい揶揄いつつも、そこまで興味はないのだと思われる。恥ずかしながら世を騒がせている俺の恋愛事情には深くツッコんで来ることなく、駄弁りには付き合ってくれるものの終始カラッとしているのが非常にカグラさんらしい。
そんでもって、その手元。
至極リラックスしているというか自然体のまま。更には俺のことも構いつつ、魔工初心者では到底理解の及ばぬ精密作業をこなす十指は止まらない。
俺のソレともニアのソレとも似つかない輝き。炎を象る術式が極限まで収束され、折り重なるレーザーの如く『仕事』をする様は現代工業を見ているよう。
淡々と、刻々と。
作品に刻まれていく紋様の意味を俺は知らないが……比べるのもおこがましい魔工師の端くれとしてではなく、一人の男として言えることがある。
「かっこいい」
「ぼそっと小学生みたいなの止めな。笑って手元が狂ったらどうするんだい」
わけわかんねぇ文字やら紋様やらに心を引かれぬ男子などいない。
その想いを素直な小学生めいて純真な声音に乗せてみれば、イケメン姐さんはイケメン姐さんにのみ許されるであろうイケメン姐さんの笑みを口端に浮かべた。
なお手元は一切ぶれず。
この様子なら、爆笑したとて意地でも手元だけは狂わせないだろう────と、
「…………………………………………ふー……、────よし」
「お、もしや?」
お喋りと同様、飽きもせず眺め続けていた【遊火人】殿の手が止まる。然らば作業中は欠片も見せなかった疲労および緊張の色を僅かばかり表へ滲ませつつ、カグラさんは再び短く息を吐き出して……卓上から、ソレを取り上げた。
そうして見つめたのは一瞬。その後は躊躇なく、
「……ま、悪くない。持ってきな」
「あざッッッす」
久々に対面して様変わりした〝石ころ〟を乱暴に────それはもう、今日ここ今この瞬間まで蓄積され続けた鬱憤を籠めたかのように、俺へと投げ付けた。
然らば、違わず受け止めた掌には。
「おー……かっこいい」
「そればっかじゃないか」
長らく彼女に預けていた依頼品。以前までは『ちょっと綺麗で不思議な石ころ』といった姿をしていた、貰い物の『残響遺物』こと【外星ヨリ来ル物】。
現西陣営序列二位に納まるトップ魔工師の手により、生まれ変わった容は……。
「サイコロ……?」
「性能や性質には関与しないし、特にアタシがデザインしたわけでもないよ。なんか自然と────勝手にそうなったんだ。気にするだけ無駄さね」
「えぇ……」
言うなれば、様々な色合いにて光を反射する多角面体。その一面一面に刻まれた無数の紋様を追うように、なんとなし面の数を一つ二つと数え…………て……?
「ちなみに」
「……?」
「数えない方がいいよ。無理だから」
「……???」
数えて、みようとしたものの無理だった。
カグラさんの言葉通り。冗談抜きマジで無理、不可能。『記憶』の才能を以ってしても、掌の中に在る多角面体の面数を正しく数えることが叶わない。
「え、なに、どうなってんの?」
「知らないよ。勝手にそうなったんだ」
「カグラさん作そういうの多くない???」
おそらくは、アルカディア的なファンタジーが介在しているのだろう。形状変化……ではなさそう、隠密外套云々に似た認識阻害の類か?
いやまあ、今更この程度の不思議で恐れ慄くまではいかないが……──さて。
といったところでファーストインプレッションはヨシとして、かれこれ三十分ほど前。工房を訪れコレを目にして、真っ先に浮かんだ言葉を漸く……漸く、
口に、させてもらおうか。
「俺の大斧どこいったん?」
「在るだろう。其処に」
然して、させてもらえば即座に返される解答の声。ならばと再び手元に視線を落とせば、在るのは不可思議サイコロが一つのみ────うん、はい。成程。
「What are you saying?」
「良発音やめな。なんか腹立つ」
いやだって、まさしく何を言っているの……片手で容易どころではなく存在感を感じさせない元〝石ころ〟準拠の重みを転がしながら、首を捻る俺に溜息一つ。
「使えばわかる。……使わなくても、理解はできたろう?」
「まあ、うん……まあ、はい。…………ちょ……っと」
紡ぐ言葉には頷くしかないけれども、アルカディア十八番の脳内インストールとて限度がある。そりゃ、わかるさ。触れると同時に伝わって来た諸々を頭の中へ叩き込まれ、コレが一体どういった代物なのかは識ることができたけども……。
「正しく理解できてるのかは、自信ないけど」
「んなこと言って、どうせアンタは本番ぶっつけで使いこなすんだろ?」
「流石に今回は練習必須かなぁ……」
おおよそ、良くて理解度十パーセントといったところ。
これまでの【遊火人】武装と方向性は同じなれど、どこか毛色が違う新武装の拍動を掌に感じながら。期待と不安に苦笑いする俺に対して、
「はぁ………………つッッッッッかれた。寝る。お帰りは、あちら」
「ぁっはい」
カグラさんは変わらずの、平常運転であった。
【────────】制作武器:弐式魔力喚起具現化武装。
お披露目は、まあ近い内に。




