人とは違う隣同士
「────君の視界はクソ動画だ」
「なんてこと言うんだテメェ」
結局のところ、あの囲炉裏が途中で音を上げたりなどするはずもなく。視界相乗り訓練は主に断行した休憩を挟みつつ数時間に亘り続いた。
とはいえ実時間と体感時間に差の生じる仮想世界。現実世界の日暮れも遠いであろう頃合いで、修行馬鹿にとっては『まだまだこれから』なのだろうが……。
「……まあ、それでも、いい刺激になった。いくつか気付きも得た。礼を言う」
「そりゃ、なによりだけども」
時に区切りがついたのであれば、効率悪く無為に我武者羅を並べ立てる阿呆ではない。そう示すが如く、囲炉裏は言外に終わりを呈しつつ息を吐いた。
コイツのことだ、言葉の何処にも無意味な強がりは存在していないのだろう。
……つまり、
「まーた差が開くのか。追いかける身にもなれよ無敵馬鹿め」
これを糧にして【無双】が更なる成長を遂げてしまえば、そういうことになるわけで────他人との会話でも度々そう言っているように、まだ俺は【剣ノ女王】や【剣聖】どころか囲炉裏にも追い付けていないと自覚しているのだ。
公での記録とはいえ、一度や二度の勝利や引き分けに一体なんの意味が在ろうか……とまで言うつもりはないが、そんなものを帳消しにして余りあるほど無数の敗北を俺自身が知っているし俺だけは忘れない。百や二百じゃ利かねぇぞと。
如何に俺が特別だろうとも、この仮想世界の特別は俺だけじゃない。
特別であると共に時を重ねた先人たちに、一体いつになれば本当の意味で追い付けるものかと。傍から見ている者や世間が散々に俺を持ち上げてくれているのは知っているが、現実は甘くねぇぞと心中で苦笑いする毎日だ。
だからこそ、つい零れた愚痴に。
「……っは」
背中ばかりを見せ付ける友は、
「君みたいのに追われる身にもなれよ。バグキャラめ」
こっちの台詞だと言わんばかり、頬を歪めて笑んで見せた。
「俺のことを散々に言うが、頑なに認めようとしない君も相当な頑固者だぞ。────なんでもありの汎用戦力比で言えば、もう俺を抜いているだろうに」
然して、その顔に悔しさや負けず嫌いは浮かんでおらず。そんな事実を共に理解しながら、プライド馬鹿が笑むことのできる理由も正しく理解している俺は、
「アレやコレやで上回っても、結果お前自身に勝てなきゃ負けなんだよ。先輩」
「……なら、まだ暫くは勝ち誇らせてやれないな」
素直に憎まれ口を叩き、返す刀で勝ち誇られた。
◇◆◇◆◇
といった具合で、ひとまず本日の修行は締めと相成り。
「────それで? 結局なにがどうなっているんだ、君たちの関係は」
「うーん、奇想天外複雑怪奇……?」
「自分で言ってれば世話はないな」
場所は変わらず訓練所。けれども互いのインベントリから諸々を放り出して『茶』を用意し設けた、野郎二人には十分が過ぎるアフタヌーンティーの場にて。
「まあ、単純な話が『俺の負け』ってことだわ。アイツら全員もう破滅的に可愛いんだ。おそらく各々が二、三回ほど世界を滅ぼしている実績アリと思われる」
「君は何を言っているんだ?」
俺たちは恐ろしいことにチャンバラと同様の恒例になりかけている、男同士の恥に塗れた恋愛ぶっちゃけ苦労共有会に興じ始めていた。誰かに見られたら死。
ま、訓練所は他人の入場不可なプライベート設定中。心配は要らない。
「悪いけど誰がなんと言おうが、惚れちまったという一点に関してだけ俺は俺を本心から擁護するぞ。いや無理だから。誰が抗えるんだよ舐めてんのか」
「君は誰に怒っているんだ?」
「あんなもん全員がルート確定のトゥルーヒロインじゃねぇか。選択肢も何もあるかよ自動的に好感度が際限なく上がってくとか即死トラップの類かよ」
「……とりあえず落ち着け。あとで思い返して死にたくなるのは君だぞ」
ゆえにこそ、遠慮なく。
コレが始まった日には終始しつこいくらい囲炉裏に感謝を向けられたが、正直なとこ俺にとっても胸の内を曝け出せる場は貴重かつ至極ありがたい。
日頃から溜まっているのだ、いろいろと人には言えない葛藤が。
「いいんだよ、お前が相手なら、もうな」
然らば素直に言いつつ微笑んでやれば、イケメンはイケメンが台無しになる勢いで殊更に顔を歪めながら腰の刀へ手をやった。
「…………その心は?」
「どちらかと言えば、お前のが俺よりも総合的には恥ずかしいからかな……」
「縦か横、どっちがいい?」
「久々に聞いたわそれ。冗談だって冗談ハハハ」
なんて、戯れも挟みつつ……いや、この場ではもう戯れが全てだが。
「まあ、なんだ。冗談抜きで覚悟決めてんのはマジだから、こっから先で示す予定の諸々を待って……確かめた後に、罵倒でも何でもしてくれとしか言えんな」
「………………罵倒で、いいのか」
「いいさ別に。欲しいものは絶対に捕まえてみせるから、他には何も要らん」
それはそれとして、言いたいことを言えば胸も空くというもの。たとえ愚かで惨めな自演の慰めでしかなかったとしても、それでまた頑張れるのなら儲けもの。
自分以外に賭すと決めた身、如何様になろうとも惜しくはない────と、
「君は…………君の恋愛は、世間的な常識に照らし合わせれば褒められるものではないんだろうが……なんだろうな。俺も称賛する気にまではなれないんだが」
「うん?」
「ゴルドウも言っていたな。そういう〝男〟がいてもいいと」
「うん」
「それと同じように、肯定する人間もゼロではないと思う」
「そうかな」
「まあ、俺の個人的な感想だ」
「……そうかい」
別に誰かから肯定されたい類の話ではないのだが、そうした言葉を貰って嬉しくないわけじゃない。慰めにしてはいけないと己を戒める必要は在ろうが……。
ありがたく、心の端には保管させていただきつつ。
「で? そっちはどうなんよ。卒業ライブ、もうすぐだろ」
「……あぁ、それは、もう、なんというか」
「なんというか?」
「………………いろいろと、大荒れだ。いろいろと」
「ほほう? その『いろいろ』を是非とも聞かせてもらいたいねぇ?」
今ばかりは、親友との馬鹿話を馬鹿馬鹿しく楽しむとしよう。
大事な時間。




