幕間
依頼を終えて、長旅を終えて。そして最早なんというか第二の家族めいてきている仲間たちへ、遅ればせの報告を終えて────その翌日、昼。
「おや、今日は一人かい」
「ご存じの通り」
俺は一人。わざとらしい言葉と揶揄うような表情を以って出迎えたシェフを適当にあしらいつつ、静かなプライベートレストランの席に納まった。
「ご注文は?」
「おまかせー」
呼ばずとも待ち構えていた時点で俺の来店は予測済み。そして外出届……というほどの制度は存在しないが、単純に『今日は昼食いらない』程度の連絡を他二人からは受け取っているはず。……なので、文字通り。
「はい、お待たせ」
「……三十秒で『お待たせ』も何もなくない? 『ご注文は?』の意味は?」
「はは、俺たちも心が通じて来たね」
「やめてくれ。ぞっとする」
『今日は一人かい?』ではなく、ニュアンスとしては『今日は一人かい(笑)』となる至極わざとらしい弄りの挨拶に面白反応を返してやる義理などない。
然らば、腹を空かせて来るタイミングまで予期されていたのだろう。比喩なく秒で提供された和洋折衷ランチプレートを前に「いただきます」と手を合わせ……。
「どうだい、調子は」
「こっちの台詞っすわ」
俺が箸を取るのを他所に。自分用の皿を持って席の向かいに腰を下ろした千歳和晴が、それこそ通じ合う友人同士が距離感で雑に話題を振ってきた。
んで、俺も俺とて遠慮ナシ。雑に返しつつ黒っぽいミニハンバーグをパクり。
「如何かな?」
「今日も美味い」
「となれば、それがコンディションの顕れさ」
「シェフが元気でなによりだ」
豆腐と……ひじき、だな。そんで鶏。ハンバーグもとい寄せ団子の味は、今日も今日とてプロの一言。所詮はバイト仕込みの俺では及ばぬ確かな力量である。
嫌味もなく褒め称えれば、和さんは素直に笑み、
「まあ、最近いろいろと大変は大変だけど……それは別に君たちがアレコレやらかしたせいで生じたものばかりでもないからね。この程度の多忙は慣れっこさ」
言葉に偽りナシということか、疲れている様子を見せず口軽く嘯いた。
……確かに見たことねぇんだよな、このアーシェとは別方向ってか現実的な完璧超人様が疲れてるとこ。いや俺たちと母親に囲まれて弄り倒されてる時なんかに疲れたような顔はしたりするが、それはまあ別として────と、
「そうだ春日君。代表から君へ伝言がある」
「…………なにが『そうだ』だよ。それ言うための同席だろコレ」
「まあまあ、俺が君と仲良くしたいだけの可能性も」
「やめてくれ。ぞっとする」
突如として放り込まれる爆弾。今の俺にとっては緊張して然るべき話題が上がるに際して、当然のこと身が……竦んだりは、別にしない。
和さんが向こうから食事を共にするパターンは、おおよそ五分の確率で何らかの用事アリ。でもって先日やらかしたばかり、さすれば諸々と関わり深い親御さんから声が掛かる可能性は流石に読めていた。甚だ道理である。
いろいろと〝問題〟が生じる可能性も、察してはいたからなと。
「出頭命令?」
「そんな物騒なものではないさ。気休めではなく、ね」
ゆえに落ち着いて言葉を返せば、あちらも約一年の付き合いを経て俺のことは把握済み。意外そうにする気配もなく頷いた後、味噌汁の椀を傾けて一拍。
「そらちゃんと君の……例の偽装婚約云々に関しては、君たちが上手くやってくれたから一抹の問題も生じないだろうとのことだ。むしろ安心されていたよ」
「……それは、マジで何よりだけども」
次いで告げられた言葉に関しては、流石に俺も反応を抑えず胸を撫で下ろした。
────そう、それ、そこ。
アーシェが先日ぶっ放した俺たちの婚約宣言。俺も俺とて寝耳に水のビックリ仰天は置いとくとしても、その問題についてだけは不安を抱えていた。
公には存在を知られていない四谷代表の娘、夏目陽こと四谷そら。
知る人ぞ知る〝人〟連中……冗談ではなく現代の天下を治めている『四谷開発』へ取り入るため、近付かんとする者たちの目が自然と向く先。
詳しいことは聞かされていないが、四谷というか徹吾氏にも事情があったのだろう。忌々しく思いながら無視できない『しがらみ』を排するため、当時【曲芸師】として台頭した俺との電撃的な婚約情報を仕立て上げたのだが……。
今回のことで、さてどうなってしまうのやらと。
「そらちゃんのことを、君だけでなくアイリス君……ホワイトの姫君も間違いなく大切にしていることが伝わった。その上で、君とアイリス君との婚約発表だ」
「……なんというか、うん」
「混乱も混乱、大混乱さ。一体なにがどうなっているんだと、偽装婚約を流布して以降も〝隙〟を窺っていた連中が一人残らず阿鼻叫喚だよ。傑作だね」
さて、そうなってしまったらしい。
────まあ別に、同情する義理もない。ソラに手を出そうというなら、体裁に縛られ……ているからなのかは不明だが動けない『四谷』に代わって、【曲芸師】改め【星架】や【剣ノ女王】が真っ向から相手になるぞという見え方で結構。
実際のとこ俺は自身に『権力』が在るなどと思えちゃいないのだが、それが大切な人を守る壁になるというのであれば以後も有効活用していく所存だ。
んで、俺がソラを大切にしているなんてのは【星架】が示してきた〝これまで〟にて全世界の知るところだろう。然らば今度は、名高き世界征服成功者までもが隣で大切な人の大切な人を守り始めるのは想像に難くない……となれば、
「そういった心配は、もう要らないだろう。君も安心していい」
「あぁ、もう、本当に何より……」
とまあ、そういうことらしい。
────然らば、
「それはそれとして、お父様から元偽装婚約者殿に言いたいことや聞きたいことはあるそうだ。近い内に時間を取るから、二人で食事でもしようかとのことだよ」
「………………やはり出頭命令では?」
「例によって取り次ぐけど、なんて返しておこうか?」
「…………………………………………Yes、です」
俺は俺、向き合うべきところと存分に向き合っておくとしよう。
Yes death.




