長い一日、その夜に
──────……
────……
──……
「どうしたヒーロー? いい顔してんじゃねぇか」
「うるへぇ」
────夜。俺は焚火の前で精神安定剤をムシャつきながら、揶揄いニヤつく心なき銀色の粗暴者に向けて目と声音で威嚇を返していた。
現在地は【セーフエリア】より遥か彼方、仮想世界の限界魔境こと円外領域の何処かしらに位置する……位置する、なんだろうな?
なんと形容したら良いものやら、木の上にある広場? それとも、蔓で繋がれ宙へ浮かぶ風船のような小さい陸地? ともかく、そんな半浮島の上。
アルカディアにおいては旅慣れの極致と言えるであろう、ゆらとサヤカさん曰くの安全地帯。『アウトサイド』では極々稀少と言えよう気を抜いても構わないらしいセーフポイントで、キャンプを張ったのが現実時間で一時間ほど前のこと。
然して現在時刻は午後八時過ぎ。
俺、ゆら、サヤカさんの順で夕飯休憩を取ることになり、野郎(おれ)と野郎(?)が先に三十分ずつでササッと済ませ……今へ至る。つまり、
「ッハ、健全でいいじゃねぇか。お前も嫉妬とかすんのかよ」
「してねぇ」
ごゆっくり────と送り出した聖女様が戻るまで、この性悪ひん曲がり天邪鬼もとい格好の玩具を見付けたと言った様の【銀幕】と、二人きりってなわけで。
「諸々の感情がイカれてるヒーローだと思ってたぜ、なぁ主人公様?」
「俺のことなんだと思ってんだテメェ……」
これでヒトの様子を人より確かに窺う性質なのは把握済み。ゆえに些細な心の乱れを目敏く見抜かれ、あまつさえポロッと余計なことを口から零してしまったのが数分前。時を巻き戻せるのであれば直々に過去の俺を張り飛ばしに行っている。
……だって、さぁ。
「なにって言われてもなぁ。────お幸せなラブコメの主人公様か?」
「否定できねぇ我が身がギャグ過ぎて今いっちゃん腹立つ」
ちょうど頃合い良く、擦れ違うように居合わせた夕食の席。アーシェとニアから散々〝デート〟のアレコレを語られ自慢されたら……まあ、なに?
俺も別に、いや別にというか当たり前というか、聖人君子には程遠いので?
……────いいなぁ、というかさぁ?
楽しそうで何よりでございますねぇ、というかさぁ?
ゆうて、ちょーっと楽しそう過ぎやしませんかねぇ、というかさぁ?
俺抜きの三人だけでも随分と楽しそうではございませんか、とかなんとかさぁ?
「ぁ゛ぁ゛ー……」
あぁ、そうとも。
なんか、普通に嫉妬してんのよ。三人それぞれに、やきもち焼いてんのよ。そんでその事実が、果てしなく『俺キモくない?』に繋がって激しんどいのよ。
なにこれ??? もしかして独占欲とかいうやつ? 自分は世界から三人も独り占めしようとしといて? ヤバ過ぎないか自己中も流石に極まれりだろ────
とまあ、そんな具合に。
「ハル」
「はい」
「いい顔してんじゃねぇか」
「ヒトの醜さを笑う悪鬼羅刹め退治されろ」
思わず、よりにもよって誰より相応しくなさそうな相手へ「いやさぁ……」と零してしまう程度に、俺のメンタルは謎の不意打ち大ダメージを負っていた。
軽く死にたい。
おそらく、ニアにもアーシェにも短い食事の席で即バレしてただろうなコレと察せてしまうのも併せて至極しんどい。退治してほしいのは俺の方だ────
「ッハ……まあ、んなどうでもいいことはどうでもいいとして」
「十八の青年にとっては己の存在肯定に関わる重大事なんすけどねぇ……」
「笑われたいなら腹の底から嗤ってやるが?」
「いろんな意味でムシャクシャが悪化しそうなんで遠慮しときます」
……けれども、一周回ってコレが適任か。
優しく親身になられても厳しく貶されても今の俺には追撃の極大ダメージになりそう。ならば適当かつ興味なさげに振る舞われるのが一番ちょうど良かったやも。
然らば────あぁ、ヒトに興味がない銀色で助かったぜと感情に揺さぶられ緩くなっていた口を締め直し、頭を振り鬱陶しくヘラった思考を蹴飛ばした。
後で一人、どうにか消化すればヨシとしよう。
「んで、なんすか」
斯くして、やはり精神安定剤を口へ放り込みながら。話を切り替えようとしたからには行く先が在るのだろうと、ゆらに横目を投げつつ促してみる。
で、促しても即座に返事が来るか来ないかは天邪鬼の常的に確率半々。今回は後者の気分だったらしく、たっぷり十秒ほど沈黙を溜めた後……。
「【星架】」
「ぁ?」
転がったのは、呟くような一言。
それは果たして俺の名前を呼んだつもりか。そう問うように首を傾げれば、
「仮に私が【青源の深域】攻略に同行依頼を出したとして、お前が受ける確率は……どれくらいある? トラウマ云々は聞いた、その上で頼むとしたら、だ」
「……………………おー、っとぉ……?」
パチパチと現実的な音と反応を奏でる仮想の焚火。
その光を眺めては銀色を照らされながら、ゆらは真剣……まではいかない、しかし冗談の戯言ではないとわかる絶妙に力の抜けた表情で俺に問い返した。
────あぁ、なんというか、わかってるよ。
多分だけど俺、コイツの中で大分『評価』が高いよなって嬉しい事実は。
そしてそれは、つまるところ。
「…………そんなにヤバい感じなのか? いや、察してはいるけども」
上から数えて何番目、かまでは流石に知らん。けれども間違いなく戦力的な評価で……こう、なに? 光栄なことに随分と上の方にマークされているのだろう【星架】へ直々に────しかも苦手を押して依頼をしようとは。
あの【銀幕】が、そうまですることを躊躇わない程度に、今日で三箇所を回った【青源の深域】は激ヤバな難易度が想定されるというわけで……──
「……まあ、そうだな」
然して、ゆらは曖昧に頷き、
「私の読みが正しければ、だが」
「正しければ?」
ほんのりと、また少し言葉を溜めた末。
「アレの最終的な〝格〟は、無上限大規模戦闘に届くかもしれねぇ」
「…………まーじかよ、ったく。アルカディアめ」
現状の推測を素直に打ち明け、俺の顔へ存分と苦笑いを塗りたくった。
嫉妬しているというより、それは単に寂しいの範疇ではないかね青年。
己が感情に戸惑う十八歳男子いとおかし。




