一方その頃、そして
「────ソーラーちゃーん?」
「ふぇ……っむぃ」
また、ぼーっとしていた。頬をつつかれて、それに気付く。
暇があれば顔を出して入り浸っている相棒ほどではないが、それなりに通い慣れてしまった一室。職人の仕事場でありながらも、自分にはない美的センスを以って洒落た可愛らしさに彩られた……【藍玉の妖精】の個人工房にて。
来客用の椅子に座り世話を焼かれていたソラが、つつかれ呼ばれ意識を戻せば、
「だいじょぶ?」
「い、いえ、あの、大丈夫です」
目前でパチクリ瞬くは、代名詞たる大きな藍玉────察するに気付く前から何度も呼ばれていたのだろうが、意図せずとはいえ無視してしまっていた形。
けれどもニアは気にした風もなく、
「やっぱ、おつかれ? お昼寝しとく?」
「だ、大丈ふっ、です、ふぁらっ……ちょ、あのっ……、……」
ツンツンついつい、むしろコレが目的とばかり。上の空を咎めるためではなく単純に娯楽のため、お姉さんめいた優しい顔で子供のようにソラの頬を連打。
とても楽しそう。
……そして、こういった弄りはソラとて白状すれば満更ではない。ゆえに、いつもいつもいつもいつとて好き放題されるがままになってしまい際限ナシ。
「いーじゃんいーじゃん今日も学校お休みでしょー? 朝からどっかにカッ飛んでった誰かさんなんて放っといて、お姉さんとゴロゴロするのも悪くな────」
というのが、ニアと二人きりの場合の常。
「────ニア、お仕事」
「ぁはい」
そこへもう一人が加わることで、これまたそれなりの付き合いから形成された何とも言い難い絶妙なバランス感が生まれるのが、ソラたち〝三人〟の常だ。
「ありがとうございます……」
「ん。でも、お礼は言わない方がいい」
然して、来客用。つまり『依頼者』が座るための作業用高椅子に落ち着いていたソラに対して、一人用の贅沢ソファで寛いでいた場を共にする三人目。
アイリスは、いつもの如く礼を言ったソラに対して微笑みつつ。なぜか首を横に振り立ち上がると、ツカツカ綺麗な足取りでソラたちの方へ歩み寄り……。
というか、ソラの元へと歩みより。
「ぁ取られた」
「ん、私の」
「…………ニアさんのものへも、アイリスさんのものでも、ありまふぇん」
ニアをちょいと押し退けると、ふにふにむにむに少女の両頬を弄び始めた。
とても楽しそう、である。
そうしてこうして、やはり『いつもの』空気で和やかに……本当に、時たま関係性を思い起こせば自分たちでも驚いたり苦笑いが止まらない間柄で、和やかに。
ニアがはしゃいで、ソラが困りつつも満更ではなくて、アイリスが気分で制御側と悪戯側を行き来して────最早すっかり自然となってしまった形で、時間は止まらずとも極々ゆっくり穏やかに過ぎていき………………数分後。
「んオッケーぃ! 問題なさそだね、どうよっ!」
「バッチリ、です。ありがとうございました」
ニアが達成の声を上げ、ソラが律儀にペコリと頭を下げる。
これにて暇を見計らい持ち込んだ依頼……────魂依器成長に際して調整が必要となった手足装備。【αtiomart -Ele=Memento-】の整備作業は無事完了だ。
【剣製の円環】が第四階梯への進化を果たして、既にそこそこの日数が経過している。つまりソラが『砂』『炎』『氷』に次ぐ第四の魔剣を取得してからも同じくとなるわけだが、アレやコレやと続いたせいで諸々が後回しになっていた。
……というのを、
「もう何度か言ってると思うけど、遠慮せずに声掛けてね? い、つ、で、も!」
「は、はいっ……その、すみません…………」
ニアに気付かれ、今日『お休みでしょ? 暇でしょ? おいで?』と半ば強制召喚の体で今に至るというわけだ。ソラのメイドほどでは……なんて言うのは失礼というか比べる相手がアレだが、ニアも中々に勘が良いというか人を見ている。
それを嬉しいと思えるがゆえに、ソラは素直に『ごめんなさい』と再び頭を下げる。────下げて、上げれば、顔を見たニアは「よしよし」と微笑み頷いた。
頬が緩んでいたのは気付いている。
謝罪をする顔ではなかったことだろうが、取り繕おうとも思わなかった。
「………………さて」
と、再度じゃれ合いが自然発生しそうになった折。作業終了の段落を呼び戻すように、またソファに納まって静かにソラたちを眺めていたアイリスが立ち上がる。
そして、
「それじゃ────私たちも、遊びに行きましょうか」
そんなことを無表情で。
しかし、その実『お利口に待っていた子供』のような気配を隠し切れていない様子で言う【剣ノ女王】様を見て、琥珀と藍玉はパチクリ瞬いた後────
「あはっ……」
「んっふ、姫も可愛いなーこんにゃろめー行こ行こーっ!」
お姫様の両手を天使と妖精が一つずつ取り、もう待つ必要はナシと駆け出していく。そして各々、忘れず隠密用の装衣を身に纏い……。
向かうは、さて何処か。
ニアの有言実行ではないが、今も彼方を翔けているであろう誰かさんは放っておく。突発で始まった本日の予定は、他でもない────
それぞれが抱えた仕事もタスクさえも全部一旦放置。これからに備えて心を整える意味でも、三人で気の向くまま適当に遊びに行ってしまおうではないかと。
ただそれだけ。
それだけで、本当に────とてもとても、楽しそうだ。
ということで、鳥人間もといロケット人間は一旦置いときましょう。
異論は無いね?
三人娘の長い長い一日編、始まります。




