凸凹情報共有中
そして、数分の後────つまりは極めてゲーム的というか干したりせずとも迅速に水気が飛んでいき、ズブ濡れの服が乾くまでの些細な時間を挟んだ後。
「結局、なにをしてきたんで?」
不要とはいえ、雰囲気重視で用意してみた焚火を囲みながら。
水気と一緒に不機嫌も多少は飛んで行ったかなといった頃合いを見計らって問うてみれば、ゆらは剣呑な視線を真っ黒な巨大湖へと向けつつ……。
「私の『魂依器』のデメリットは、知ってるな」
「まあ、概要程度は?」
不要な会話やら揶揄いやらにはガン無視か噛み付きを返すばかりの【銀幕】様も、流石に必要かつ最低限の質問くらいは吝かでなしと応対してくれる。
然して渡された端的な言葉に頷くと、
「それをメリットに転用した。────お前に依頼を持ってったとき言ったろ。【青源の深域】の様子が変わっていた、判断材料の詳細は省くと」
「言ってたなぁ」
「それが答えだ」
「ぁー……っと…………?」
ゆうて言葉足らずには違いない物言いに、ひとまず俺は頭を捻った。
ゆらの『魂依器』────魔舌こと【熾揮者の舌鋒】が齎すメリットは、この身でも存分に楽しませていただいた被認知戦域支配型無差別埒外強化能力。
ステータス、スキル、そして魔法。システムの恩恵にしてプレイヤーの主たる力である三要素の内から二つを封印、残る一つを超強化もとい〝狂化〟する権能だ。
単身にて戦場を丸ごと滅茶苦茶にすること叶う、アルカディアでも有数の壊れ魂依器に違いない……のだが、摂理めいて大いなる力は大いなる不利も内包する。
【熾揮者の舌鋒】のデメリット、それは超強化能力そのものである。
上昇幅が極端すぎるがゆえ基本的に扱い切れる者がおらず、鍛錬適応期間もナシにタダ乗りは不可能であるため自滅不可避……という意味ではない。
能力の行く先が、同類だけに限らないという意味だ。
そう、ゆらの魂依器が秘める権能はエネミーにも作用してしまう。そして極めて厄介なことに、ヒトとは異なる道理で動く化物連中はソレに即時適応する。
更には異常の魂依器が振り撒く気配が甚大であるゆえか否か、能力起動と同時に超広範囲へと強制挑発効果が発散。仮に神創庭園で使おうものなら周囲おおよそ数キロメートル、ダンジョン内であれば下手すりゃダンジョン全域から全員集合。
つまり超人をも超越したヒト vs 化物をも超越した怪物百鬼夜行との大戦争が自動的に開始されるという地獄オブ地獄……とまあ、大体そんな感じ。
ぶっ壊れだなんだと世に言われておりソレは事実でもあるのだが、全ての要素を並べて冷静に考えれば『誰が運用できんだよコレ』と言う他ない代物なのだ。
無限に実用的ではないという意味で、時たま本人は『ガキの玩具』などと形容するくらい。言い得て妙というかなんというか……────
ともあれ、そんな前提知識を元に頭を捻れば解答を導き出すのは難しくない。
「…………【青源の深域】って、転移門を潜ったら即ドボンで対策ナシなら窒息不可避。何かしら対策して行動時間を確保したとして、どこまで泳いでも無限に真っ暗な水中が続くだけで何にも出会えない……ってのが、以前までの情報だよな?」
いや〝今〟を実際に自分の目で見ていない俺には以前も何もないのだが……さておき、とりあえずここまでの言葉にツッコミはないようだ。
ゆらが続きを待つ様子を見て、俺は考えを述べ────コイツが全部ちゃんと説明してくれたら下手な推理を披露する必要ないだろコレと思わなくもないが、
文句など今更のことゆえ、述べる。
「んじゃ察するに、以前までは魂依器を解放したとて何も寄ってこなかったけど、今は……────なんか、寄ってくるようになった、ってこと?」
述べて、反応を伺えば……。
「そうだ」
ゆらは一つ、頷いたつもりなのか軽く頭を揺らしながら肯定した。
「『緑繋』の攻略前には存在しなかった……あるいは隠れていたか、私らに興味がなくて奥底に引っ込んでたか。なんにしろ見えなかった姿が、わんさかとな」
「………………………………」
さすれば、俺は黙るのみ。
いやだって、あれじゃん……完全水没ダンジョンってか水中一色ダンジョン、一般には『海の中』などと形容されるダンジョン内に蔓延る存在なんてさぁ。
────チラと、この場でタグ付けするのであれば択ナシの『良心』ことサヤカさんへと顔を向けてみる。然らば、不要な焚火に喜んで当たりながらポワポワ幸せそうに和んでいた聖女様は、俺の視線を感じ取ると振り向いた。
振り向いて、目が合い、ゆっくりパチパチと緑色の瞳を瞬かせた後。
「その、はい。なんと言いましょうか────泳ぐモノたち? が……」
「マジごめんなさいだけど俺は力になれん絶対に無理だ許してくれ」
最大限に配慮した言葉選びにて事実を伝えてくれたものだから、トラウマに屈することを良しとしている俺は瞬時一切のプライドを捨てて頭を下げた。
きちんと居住まいを正して正座もした。伝われ誠意とガチの拒否────と、
「チッ……やめろ、うぜぇ。無理に連れてきゃしねぇよ事前に言っただろうが」
「そういう悪ノリしないとこは一周回って純粋なる善なんだよなぁコイツ……」
「ぶっ殺すぞ」
「『ぶっ殺す』とかは言うけども」
こちらは当然のこと「無理はなさらず」と微笑んでくれる聖女様だけでなく、ゆらもコレに関しては普通に優しい。安心して〝脚〟の責務に集中するとしよう。
「ありがてぇや…………んで? それが攻略可能になったっていう判断材料?」
「全部じゃねぇがな。私はダンジョンが挑戦有効化された合図と受け取った。受け取った上で、他の判断材料を集めて────今は、まあ確信がある」
「ほーん……」
さておき、戯れはそこそこに真面目な話も忘れずに。
結局のところ全ては答えてくれないらしいが、まあそれは以前に言っていた『いつか話してやる』の内訳に入る事柄なのだろう。今は踏み入るまい。
「……とのことですので、今回は私も前進に助力したのですが」
とはいえ、それ以外も言葉足らずはコイツの常。いい加減に話が進まないと聞く立場の俺を慮ってくれたのか、会話の助力もサヤカさんが買って出てくれた。
「予想以上、でしたね。それなりに全力を尽くして抗ってみたものの……」
そして、彼女は共に抗ったのであろう同行者の顔色を窺いつつ……。
「────恥ずかしながら、二人して呆気なく追い返されてしまいました」
深く思考せずとも、冷静に噛み砕かずとも、誰もが一発で『ヤベー』とわかる結果を述べた。……そして、ゆらもソレを否定しない。つまるところ、
「…………マジ?」
俺の知る限り単体戦力最上位……個人的には【剣ノ女王】や【剣聖】に次ぐ囲炉裏その他と肩を並べるか、下手すりゃ上回るのではと思っている【銀幕】が。
俺どころか世界が知り認める『アルカディア最高の支援術士』である聖女こと【玉法】に尽くされた上で────呆気なく、追い返されたと?
そんなもの、
「え、マジ?」
そう言う他ないだろうと素直に口へ出しつつ、ご本人へと目を向ければ。
「……文句あるかよ、クソが」
「口が悪いなぁ……」
割かし強めに睨まれて、俺は即時撤退ごめんなさいと両手を上げた。
全力全開で正面から戦り合った場合、魔法狂化の《狂奏に酔いし頽廃歌》による得意分野ゴリ押しにて勝率レートはギリ【銀幕】7:3【無双】らしいです。
あの無敵侍、刀ナシでも強いんすよ。お披露目の機会があるかは知らないけど。
なおスキル狂化であれば5:5、ステータス狂化であれば0:10。
更に権能解放全狂化の場合も0:10で無敵侍らしいです。なんなんアイツ。




