覇道顕現
────後に、いろんな意味で名立たる西陣営の宝石細工師、あるいは裁縫師である【藍玉の妖精】ことニアは、その時のことを以下のように語っている。
欲望に負けて、とんでもない怪物を生み出してしまった。後悔はしていないと。
────後に、ただでさえ世に大きかった名を更に様々な意味合いで轟かせる、もとい慄かせることになった東陣営の【右翼】ことリィナは、こう語る。
他人のアイドル適性に恐れ慄き震えたのは、アレが最初で最後だと。
────後に、誰かさんとは別方向で順調に人気の道を歩み、誰かさんの一部ソレとは異なる広く落ち着いたファン層を獲得した【糸巻】ことナツメは、語る。
封印処理するべき案件だったでしょ、と。
────そして後に、お喋り柑橘類という不本意な渾名が一部界隈で流通し、不本意な人気再燃を博すことになる哀れな柑橘類は、語った。
驚嘆。まさしくその一言に尽きます。いやー理解してはいたんですけどね畏れ多くも友人という枠へ幸運にも納まれてしまった身として理解しているつもりではあったんですけどね軽々と想定を飛び越えてくれちゃいましたよビックリ仰天たまげたなぁといった感じでしてハイ。いえね笑えるくらい下手というか匙加減を知らないファンサ具合アレコレから薄っすら薄々察してはいたんですがマジあの人なんというか骨の髄まで『全力』という言葉その化身なんですねって、そんな化物性根に器用極まる抜群なんて言葉では済まされない要領の良さと『才能』が併さり生まれたのが彼もとい彼女あの怪物です。よく「男がロールプレイする〝女〟は女より可愛い」なんて女子に喧嘩を売るようなことを宣う人々がいますが、アレはもうそんな次元ですらありませんよ『ある意味で本物』なわけですからねぇ。いやどういうことかもなにもそういうことですよアレを誰と心得ますか? 我らがクラウン様の得意分野、誰にも真似できない絶対の唯一性。つまるところ──以下省略──と。
──────そして、後に。
ご本人は、こう語った。
需要に応えているだけですよ。ご満足いただけていますか、と。
限定状況における〝お馴染み〟となった、和風味を宿す給仕服を纏い。最早すっかり順応し慣れ切ってしまったのであろう、天女の如き微笑を湛えて。
何者とて逆らえないような、魅力という名の覇気を揺らめかせ────伝説と相成った、降誕の一夜その阿鼻叫喚を当然の戦果であると告げるように。
◇◆◇◆◇
「────大変お待たせいたしました。ご注文をお伺いします」
「「「「「────────────ッッッ!!!!!」」」」」
「お飲み物、御代わりをお持ちいたしましょうか?────はい、ただいま」
「「「「「────────────ッッッ!!!!!」」」」」
「畏まりました。少々お待ちを……えぇ、はい。勿論〝私〟が伺います」
「「「「「────────────ッッッ!!!!!」」」」」
「6、9、12、17、18、24番テーブル、分担して空き皿のバッシングを……」
「「「「「────────────ッッッ!!!!!」」」」」
「えぇ、大丈夫。暴徒連中の対応は〝私〟に投げていただいて構いません」
「「「「「────────────ッッッ!!!!!」」」」」
「……お祭り騒ぎになってしまって、ごめんなさい。それぞれ落ち着いて頑張」
「「「「「────────────ッッッ!!!!!!!」」」」」
バチリ。バチバチ。
「お客様方」
「「「「「────────────────」」」」」
「お食事中は、お行儀よく。────良い子が多く見える卓の順に……」
「「「「「────────────……」」」」」
「おもてなしへ伺わせていただきますから……ね?」
「「「「「────────────……………………!!!!!」」」」」
なんというか、端的に言って、この世の地獄と称すに相応しい光景であった。
「うわぁ……」
「これは……」
「えぇ……」
「なんあれ……」
そして、そんな男女の区切りなく阿鼻叫喚を極める地獄の様相を眺めるは、大衆酒場の最端席にて祭りから逃れる紅四点。それに加えて……。
「………………お前たちが生み出した怪物だろう。なんとかしろ」
戦慄、動揺、驚嘆、ドン引き。蚊帳の外から新生怪物の『無双』風景を呆然と見守る女子四人へ、ひたすら大きな溜息と共にツッコミを入れる黒一点料理長。
然らば、首謀者の片割れこと元凶にして彼の相方でもあるがゆえ。最も答えを返す義務があると言われたら否定できないノノミの反応は────
「ご、ごめんなさい……」
「いや、謝られてもな……」
大変に珍しく、真に動揺の極致なのだろう。
想定を超えるどころか非想定の彼方へとカッ飛んで行った友人男子の混沌たる勇姿を見て、オレンジ色の瞳を瞬かせる彼女は秒で素直な謝罪を零した。
一鉄も一鉄で責めづらい部分がある。なぜかと言えばそんなもの、おふざけで焚き付けたからといって誰が〝アレ〟に成るものなどと予想が付くかと。
その程度の同感は流石に抱けてしまうほど、祭りの中心たるアレは狂っていた。
「……………………え、なん……なんなの? アイツ、本職メイドだったの?」
「衝撃の事実……?」
「しかもなんというか、喫茶店とかに生息してる雰囲気のソレじゃないですよね……なんかこう、マジもんの気配を感じるのは一体なんなんです……?」
いや『マジもん』とか見たことないですけど────と、混乱を深める様子でパチクリしているノノミの言葉にナツメとリィナも共感の首肯。
「…………………………ぁー……」
そして、そう言われてみればソレに思い至るのが約一名。
他の者たちが知る由もない、現実側においてアレを取り囲む諸々の事情を知っているニアだけが、思い至る────ハルの振る舞いが、彼の十八番であることを。
彼こと曲芸師の十八番中の十八番……──そのもの記憶再演であることを。
ニアは知っている。ノノミが言うような『マジもんのメイド』というやつを。いやマジというか自称かつ例の制服は自分で勝手に用意している物らしいが、心の在り様については察するにマジもといガチなのであろうメイドさんを。
つまりは、彼女の優美な侍りの振る舞い────……否、それだけではない。
常の澄まし顔は、お姫様。
不意に魅せる無垢な微笑は、天使。
対するを手玉に転がす妖艶な語り口は、お姉様。
節々に光る計算された至極あざとい所作は、アイドル二人。
稀に滲む強引だが快活で嫌味の無い迫力、専属職人。時折に浮かぶ柔らかな物腰、聖女。ふとした時に顔を覗かせる跳ねるようなアクセント、元気娘。要所でトドメを刺しに行く蕩けるような発声などは……おそらく、ニアの親友。
それらで全てではない。他にも無数────完璧な『記憶』によって再現された数多の〝魅力〟が同時に介在し、それら全てが統合共演して彩る一つの姿。
……あれは最早、ごっこ遊びなどではない。
「………………………………………………これは、あれだね」
仮想現実に結実してしまった、全てを壊す一つの仮想人格。
────もし仮に、アレが目の前へ来たのなら。そしてそのまま、表層人格をアレにしたまま自分へ復讐を開始するのなら……高確率で有り得そうな未来を想定した結果、必定の死を覚悟したニアは悟ったような顔で、ぽつり。
「〝地獄の釜の蓋が開く〟……って、やつですね」
「元凶の片割れよアンタ」
「煽った私たちも同罪ではある」
「つまり私たちが元凶にしてアレの〝親〟……やべぇ震えてきましたね」
そして、連なった戦慄、動揺、驚嘆、ドン引きの声音に次いで────
「……………………おい」
低い声音が、一つ。
「……気のせいか。こっちを見てるように思うが」
果たして、それが刑罰執行の先触れとなり。
数十秒後に会場の片隅から安地が消失。そして、数分と経たずに女子が新人類に蹂躙されたのは……言うまでもなく、後世に語られる笑い話となった。
特定の相手に対してはコレにニアちゃんの親密スキンシップがコンボ実装されることで更なる地獄と化すらしいです。エンドオブザワールド。
なお無意識「こんなことに関わらせちゃアカン」と統合を逃れたお師匠様エミュ。




