先輩後輩、戦場守護中
星空イベントにおける最大の祭り。
即ち日毎に訪れる『夜襲』はグループの人数によって規模上限が、そしてグループ内で貯め込まれた【星屑の遺石】の数に応じて実際の襲撃群数が決定される。
つまり大人数かつ初日からの狩りを頑張れば頑張るほど迎撃難易度が地獄になり、更に初日からキッチリ『夜襲』にて来たる【星屑獣】を狩り尽くす……。
というデスマーチをこなすことにより、難易度および報酬が最大化するわけだ。
然して……なんというか、その意思決定について俺は一切の意見を出していない。出していないが、誰も何も知らないまま結果として全力全開で駆け抜けたイベント初回以降も、我らが【干支森】グループのスタンスは揺らがなかった。
全力を以って、地獄を蹴り飛ばす。
そんな極めて俺好みのスタンスを、満場一致で、揺らさなかった。
ゆえに────
「おぉー……遂に初日から〝蛇〟が出張ってくるようになったか」
戦場一望の櫓上。見渡す限り広がるは、成長著しい我が戦友たちの狩りの戦果こと地獄絵図……ってな具合に、開戦から数十秒で既に四方八方が大騒ぎだ。
開拓居住エリアを取り囲む深い深い干支の森。その暗闇から顕れ出でるは付けられた環境名に違わず、間違いなく干支モチーフであろう星屑の黒き獣たち。
単体能力は最弱だが物を投げるなど小賢しい戦法も取り、なにより他十一種に比べ群を抜いて多い『数』で以って決して舐められない〝猿〟が一つ。
動きは単調だが素早く、本能的なものか攻め時というかプレイヤーの隙を逃さず喉笛に一直線。これも油断ならない狼型もとい〝犬〟で二つ。
そして小型少数精鋭の敏捷特化。名高いというかアレでアレな殺人兎【紅玉の弾丸兎】と比べれば正直なとこ大したことはないが、蹴り技を主体としてバッチバチ果敢に攻め立ててくる特攻スタイルで一般人には大きな脅威となる〝兎〟で三つ。
そしてそして、巨体かつタフかつ狡猾に攻めも守りも堅い大型種。七、八メートル程度の長躯にて小さなヒトを睥睨する〝蛇〟にて四つ。
後ろ二種に関しては、初回イベント時で二日目から登場した【星屑獣】である。つまり、そんだけこちらの走り方が最適化されてきたということだろう。
大変結構。誇らしいじゃないか────と、
「────前回から、ね。ちなみに二日目で〝辰〟が出たわよ」
「あらぁー……参考までに、空からの襲撃どう対処されたんで?」
「最初は一般勢が頑張って、危なくなったところでミナリナが全て焼き払ったわ」
「oh……それは壮観な眺めだったろうて」
戦場一望の櫓上。隣におわすは白猫様……──ってなわけで、前回は留守にさせていただいたが前々回の再来となる隣同士の保険二枚。
共に『もしもの時の序列持ち』として、どっしり構えておくのが役目。性には合わないが立場上は慣れるべき席に収まり、仲間たちの戦場を俯瞰するまま……。
「「────っと」」
共に、ほぼ同時に〝拳〟と〝糸〟を振るって一拍。
目を向けたのは別方向。けれども結果は揃って一緒。それぞれの介入が到達点にて不意の『危機』を打ち抜き絡め取り、遠くの戦場からは感謝の声……そして拠点中央の〝観戦場〟からは、ワーキャー盛り上がる喝采が届く。
こっぱずかしいっちゃ、それはそう。
けれども逆の立場だったらと考えれば、かつて協力型ゲームで多数側だった俺も『ありがたさ』は理解できる。羞恥は堪えて素直に受け取るのが吉だろう。
こんな風に自分のことを称すのは気が引けるが……まあ、圧倒的な強者が見守ってくれている狩場というのが、如何に安心できて旨いのかを知っているゆえに。
もしもの保険が存在する狩場というのは、多少の無理を顧みることなく気持ちよく経験を積める絶好の場なのだ。数は少ないが実体験アリだ。
……中学時代にハマったネトゲで世話になった【月詠】さん、元気にしてっかな。毎日のように仕事の愚痴を唄うゴスロリツインテール社畜廃課金戦士ってな癖つよの極致だったけど、呪言を巧みにネタへ消化する会話上手さん────
「「────っとと」」
拳撃一閃、糸繰一閃。
思考が遊んでも問題はない。視線だけサボらず走らせていれば、一年弱を掛けて戦いのイロハが染み付いた身体は半自動的に反応する。……と、
「……やっぱソレ、ダメじゃないかしら? 一つのスキルに納まって許される性能じゃないでしょ。いつものことだけどアンタふざけてんの?」
「少なくとも、俺は別に『いつもふざけて』ませんけど???」
なんか以前にも似たようなことを言われた気がするが、隣から飛んでくる呆れ混じりってか呆れ果て混じりのツッコミが一件。
他ならぬ我が万能拳撃拡張スキル《拳嵐儛濤》に対してのものだが……いやはや、それこそ他ならぬ俺が一番そう思っているので残念ながら反論の種はない。
ので、
「まあ、なんですか、あれだよな。そんなぶっ壊れが存在するという事実を目指して、多くの者たちが上まで辿り着いてくれることを願うばかり……」
話題の方向性を、すり替える────が、残念ながら呆れの視線は止まず、なっちゃん先輩は「はふ……」と何やら諦めを多分に滲ませる溜息一つ。
「アンタに毒された後追い信者たちが不憫でならないわ……」
「なんてこと言うんだ」
あまりに酷過ぎる文言と共に、哀れみの祈りを捧げやがった。そして────
「《複数武器適性》なんて、多少は使えるようになったところでアレなのに」
「アレとか言うな」
「大体、戦闘中にコロコロ装備を変えられるからって一体なんなのよ」
「『なんなのよ』ってなんなのよ。俺を見ろ俺を」
「その工夫を武器一本の技術に注ぎ込んだ方が、いろんな意味で安上がりなのに」
「金と努力が掛かっても、その先に在る浪漫がですね」
「絶望的な攻撃スキルの貧困という事実を抱えて、浪漫、ねぇ……」
「おいやめろタブーに触れるな」
「アンタは知らないだろうけど、普通『アルカディアの戦闘』って言ったら光って鳴って派手なスキルの連発応酬が華なのよ? アンタは知らないだろうけど」
「なんで二回も無知を突いたの?」
「それが誰かさんのせいで、なんか気付けば『スキルに頼らず通常攻撃を極めるのが最強』とかいう訳の分かんない派閥が可哀想な勢いで盛り上がってるし」
「可哀想とか言うな???」
「全く……【結式一刀】の一体どこが〝通常攻撃〟だってんのよ。『内』だの『外』だの理解不能なスーパーエネルギーを使いこなしてる極少数どころじゃない例外中の例外を参考にしちゃうとか、おいたわしいとしか言いようがないわ」
「なんてこと言うんだ本当に────っと……!」
止まらぬ止まらぬ、俺の(?)弄りが止まらぬ子猫。
やはり合間で救済の一手を戦場の端まで届かせながら、櫓の上で終わらぬ言葉の応酬を……ってか、一方的に俺がメチャクチャ言われているだけだが。
……いや、まあ。
「あの、えー……なんてぇか、まあ、はい。あれですよ」
「なに?」
この先輩殿も、ノノさんとは別方向で行き届いた気遣い屋だ。ゆえに、
「近い内、参考教材の収録とかも考えちゃいるので……」
唐突でも言おうとしていることは、この後輩わかっているのだ────つまるところ『有名人としての責任は果たしときなさいよ』ってなことだろうて。
昼間のファンサレクリエーションでも、結構いたからな。なんか強引に《複数武器適性》を使って無理してんなーって感じのプレイヤーが、結構。
だからまあ、そう。
「ふーん……そ。────精々、ちゃんと一般人向けに内容を熟考することね」
「心得ておりますとも」
道を示すにしても、殺すにしても。
流行の火付け役となってしまった責任は、果たしておかないとな、と。
かつて〝糸使い〟として、なっちゃん先輩も通った道。




