ファンサ
────さて、とはいえだ。
ファンサだの何だの慣れないことを成そうとて、俺にできることなど真実たかが知れている。これは謙遜でも無自覚でもない純然たる事実。
アーシェのように問答無用で全てを従えられる存在感があるわけでもなければ、ゴッサンのように大衆を背中一つで導けるカリスマがあるわけでもない。
ういさんのように究極の一たる生き様で人々を魅了できるわけでもなく、ルクスのように比類なき自由で以って憧れを誘えるわけでもない。
……なんて、パッと浮かんだ『頂点に立つ者たち』と比べてしまえば当然っちゃ当然。けれども他の序列持ちと比べたとて、やはりどうしたって俺は浅い。
まだまだ俺は紛うことなき最新参の序列持ちであり、まだまだまだまだ〝手札〟が少ない。手札の多さに定評がある身ではあるが、それはあくまで『戦闘』という極限られたコンテンツの中にしかなく他に応用の利かない強みの一つ。
たとえば囲炉裏のように、笑顔と振る舞いと弁舌で以って人を沸かすなど無理ゲー極まれり。残念ながら、まだそこまで俺は『有名人』足りえていない。
つまるところ、結論。
ファンサだの何だの慣れないことを成そうとて、俺に……今の【星架】に成せることなど、これまでに示してきた一分野しかない。
であれば、自然。ファンとの交流なんてもんは……。
さあ、どこからでも掛かって来いと。精一杯に大物ぶりながら、悠然と腕を広げて笑み、この俺が相手になってやろうと嘯く程度しか択がないわけで────
ルールは簡単だ。
ゲストの中から募った希望者全員vs俺一人。
プラスこちらは武装ナシ移動ナシ攻撃ナシ更にアクティブスキル全封印。
全員……希望者総勢五十名弱。ほぼ野郎で形成された打倒【星架】決死軍の勝利条件は、誰か一人でも俺に一撃を入れるか俺を少しだけ動かすか。
俺に許された行動範囲ってか開幕前に自分で描いた縛りの〝円〟は、軽く足を開くのが精々の数十センチ────とまあ、そんな舞台の上で。
「「「「「オ゛ラ゛ァ゛アアアァアッッッ!!!!!」」」」」
「「「「「処せぇ゛ッ‼︎ 処せぇえ゛あ゛あ゛ッッ!!!」」」」」
「「「「「無礼講万歳ィィエッッッ!!!!!」」」」」
暴徒と共に、レッツダンス。
刃物乱舞、鈍器も乱舞、押し寄せる気勢怒声は絶えず尽きず、爛々と目を輝かせて粛清の皮を被った『じゃれ合い』に騒ぎ沸き立つ野郎の群れ+極少数の女傑。
そんな求められる者としては愛すべきなのだろう地獄絵図に毎秒、視界の悉くを塞がれながら────お祭り開始より、数えて五分。
ゆらりゆらりと揺れながら、一切の戯れを努めて涼しい顔で捌きつつ……。
数えて、五分。────即ち、最初に「それまでは軽めに対応するから」と宣言しておいた刻限を跨いでから、更に五秒ほどを悠然と心の中で数えた後。
「……………………………………、さてと」
「ぁっ」
暴徒対応を続けながら、これ見よがし舐めプと余裕と紙一重だろう緩慢な瞬き。そして同時並行、呟きながら眼前へ迫った曲剣の刃を片手指二本にて白刃取り。
瞬間。両手で握り締めた得物を指二本で微動だにできず囚われた曲剣使いの兄ちゃんを端に、俺の気配が切り替わったのを察した挑戦者各位が────
「それじゃ、ちょっとギア上げようか」
危機を察する、それよりも早く。俺はその場を動かず足踏みを一撃。つまるところ……──外転出力『廻』出力三割、全周分散解放ってなもんで。
斯くして、
「「「「「なん゛ッッッ!?」」」」」
「「「「「ぁお゛ッッッッッヴぉ!!?」」」」」
「「「「「ほぁああぁあぁあッ!??」」」」」
「「「「「人間じゃねぇえ゛ぇ゛ィエアッ!!!!!!」」」」」
飛ぶ人、舞う人、跳ねる人。
勢いそのまま威力を抜いて放った『外』の極致を以ってして。足から地へ、地から俺以外の足元へと伝った遠隔震動撃が、押し寄せていた近接勢の身体を一つ残らず宙へと浮かす。それぞれの装備重量に応じて、打ち上がり方は様々だ。
────様々だからこそ、愉快な衝突が連鎖して混沌模様の大惨事。
然らば、哀れな戦士諸君がバタバタと重なり合って地に伏せるまで三秒フラット。水平視界を埋め尽くしていた群団の背が低くなり……現れたのは、
「うむ。美しいかな定石」
後衛。つまり暴徒こと前衛の群れによって遮られていた射線が開けた瞬間、抜かりなく備えていた詠唱を解放して砲撃を重ねた魔法士諸君の顔ぶれ。
炎の雨、雷の矢、土の礫、氷の槍、風の刃……バリエーション豊かな魔の矢玉は属性毎に連なり、かつ他属性や他者の魔法とは干渉しない絶妙な間隔を確保した上で着弾点を合わせた一点集中。一般勢などと舐められない、中々見事な段取りだ。
であれば、
「んじゃ、せぇ────」
こちらも、遠慮などしたら失礼にあたるだろう。
外転出力『廻』臨界収斂────&現界魔力混合圧縮。
「──────んのッァ‼︎」
解放。薙ぐ掌。迸るは青。
表の俺に宿る魔力は〝水〟の色。そして〝水〟属性の魔力が《現界》にて獲得する性質は《重さ》という概念。よって属性付与された『廻』は常の威力に加え、
魔へ干渉し得る実質量をも備えて、荒れ狂う。
その結果。
「「「「「ほぁあ゛ッッッ!!!?!?」」」」」
簡単に言えば、一斉に『壁』へ衝突したようなもの。標的に到達するより早く当たり判定に阻まれた無数の魔法は、砕け、ひしゃげ……近くの味方弾と混じり合い、干渉相殺へと至り────あえなく、一つ残らずが消滅した。
然して、
「………………」
「「「「「「「「「「……………………………………」」」」」」」」」」
地に伏す下方から、そして立ち尽くす水平から集うは呆然の視線。場に満ちるは「えぇ……」といった風なドン引きの沈黙……────ではなく、
「「「「「──────────────────っっっ!!!」」」」」
場外から届いた大歓声、もとい黄色い悲鳴。
他ならぬ、大乱闘を希望しなかった主に女性プレイヤーのゲスト勢からのものだ。いやはや、どう受け取ったものやら無限に困るなと頬を掻いてみれば……。
「………………────上等じゃねぇの……」
と、
「モテピエロがよぉ……」
「憧れと嫉妬は共存すんだよなぁ……!」
「手から衝撃波だせんのが偉いんけ……?」
「正直クソ格好良いと思いますけれどねぇ……???」
とか、
「俺も早く、ああなりたい……」
「五年くらい修行に捧げれば良かですか……!」
「いいや、まだ負けてないね……‼︎」
とか、とか────
「そうとも、こっちにゃ敗北条件が設定されてねぇんだ……! つまりッ‼︎」
「俺たちがぁッ!」
「泣いても泣かすまで屈さなければァッ‼︎」
「「「「「あの【星架】野郎を泣かせられるッ!!!」」」」」
…………とか、とか、とか。
むしろ、あっち側にとっての燃料というか、どこまで本気なのやら恐ろしい自己鼓舞の呟きやら叫びやらの呼び水になってしまったようで────
勿論、冗談だと思うけどな? 冗談だ、と……おも…………。
あらこわい。皆さん目が本気に見えるのは気のせいかしらと。
「…………は、ッハ」
よかろう、よかろうとも、誠に結構。
今この時、俺は東陣営序列第三位【星架】その人。挑み掛かる衆目の瞳を見返し、胸張って返せる大言なんざ残念ながら一つしかない。
それじゃあ元気に、いってみよう。
「────オラどうしたァ‼︎ 掛 か っ て 来 い や ぁ ッ ! ! ! 」
「「「「「───────────────ッッッ!!!!!」」」」」
俺に叶う精一杯のファンサを、彼ら彼女らの心ゆくまで誠心誠意。
私の知ってるファンサと違う。
※ゆらちょろとのイチャで『石ころ』に魔力を籠めていましたが、ハルちゃん状態で〝雷〟を籠める前に籠めたのはセンスを用いず属性転換していない〝素〟の魔力であり〝水〟ではありません。表では〝水〟だけ、裏では〝雷〟だけで反対側の属性魔力は使えませんのであしからず。
感想を見る限り勘違いしていそうな人が一定数いそうだったので注釈をば。
でも今回〝水〟の特性は『重さ』だって言ってるしチョロイチャの時も「重くなった」とビックリしてただろって? さぁ、なんなんだろうなぁ……




