第五回【星空の棲まう楽園】
────そして、時は過ぎ去り二月の頭。
「えー、あー、はい。ということでね、ようこそ我らが【干支森】へってことで」
「「「「「────────────────────ッ!!!」」」」」
「ご来場されたゲストの方々は、当選おめでとう楽しんでいってくださ」
「「「「「────────────────────ッ!!!」」」」」
「【干支森】運営同志諸君は久しぶり、前回のドタキャン改めて謝罪のほどを」
「「「「「────────────────────ッ!!!」」」」」
「………………今日の晩飯は山盛りミートボールのトマトソースパスタでした」
「「「「「────────────────────ッ!!!!!」」」」」
「ははーん、さては誰一人としてスピーチの内容なんざ聞いてねぇな?」
────……と、星空イベントこと【星空の棲まう楽園】定期開催当日。
最早完全に『お飾り』ではあるものの今なおグループリーダーとして祭り上げられている俺は、参加者総員の視線を受けながら。
ほぼ強制で壇上させられたスピーチ台にて頬を引き攣らせていた。
身内こと現スタッフとも呼べる既存勢が百五十名程度。そして招待客ことゲストの面々が百名ジャスト。更に加えて、前回の俺不在に関する補填として再度招待された枠が数十名。締めて三百弱にもなる視線の雨霰……。
いやまあ、ソレについては別にヨシ。
今更その程度の注目でビビる俺ではないってか、こちとら万の観客を前にして高笑いを曝け出した前科アリ。親しんだ者たちが過半数を占める場で緊張だのなんだの、一々そんなものを覚えるような精神レベルは既に卒業済みだ。
だが、しかし。
面と向かって向けられる熱気に関しては、まだまだ耐性練度が甘かったようで。
いや、なに。俺……というか【曲芸師】もとい【星架】が世間で割かし好評であり、有難いことに羨望やら応援やらの対象となっている事実は受け止めている。
何故この人たちは俺を見て斯様に熱狂していらっしゃるの────なんて、嫌味無自覚を通り越して愚か蒙昧に寝惚けたことを宣うつもりはない。
俺に会うために、馬鹿倍率の抽選会に参加する。そんな人がいるのだ。
そして当選を経て、此処へ来て【星架】を見て、熱狂する。
そんな人が、少なからず、いてしまうのだ────と。
改めて一年前を冷静に思い返せば信じられない今の現実に直面して、黄色い歓声を直で浴びて、俺が思うことはシンプルに一つ。
普通に恥ずかしい。
然らば択とて一つのみ────立場に殉じて、逃亡も派手にいかねぇとなぁ‼︎
「ぁーハイハイ元気が良くて大変結構オラ皆さん真上に傾注ゥッ!!!」
〝想起〟&《十撫弦ノ御指》起動。
触れた所有物の遍くを弾丸と成す指先が弾くは『弾』ではなく『銃』そのもの。つまり豪速で高々と撃ち上がるは紅の結晶火縄銃こと【紅玉兎の緋紉銃】×沢山。
そして、はい。引き金を引く。
放っておけば真上の向こう、イベント時に限り空に代わって天蓋となっている大地までカッ飛んでいきそうな銃が三十丁。その中心に舞った一丁の引き金へ縛り付けられていた【九重ノ影纏手】の影糸が、アクションと共に魔力を────
〝表〟の姿にて暴発の元となる不一致魔力を、銃身内部の反応弾へと伝えた。
斯くして、爆音光輝の大連鎖。
深紅に輝く花火が都合三十発、華やかに祭りの開幕を賑やかすと同時。
「じゃ、そういうことで」
俺は大歓声から静かに身を躱すまま、そそくさと壇上から退散した。
◇◆◇◆◇
────斯くして、一応は落ち着……いてはいないものの。ひとまず、とりあえずは、騒ぎの中心から回避を成功させて数十秒の後。
ワーワーヤーヤー大騒ぎと相成っているゲスト勢。それらと一緒に盛り上がりながらも職務として統制に掛かり始めたスタッフ勢。
ひっくるめての賑やかを他所に……。
「あーいうことばっかしてるからファンが増えるんですよ?」
「そんな馬鹿な」
「一芸に注ぎ込まれている技量が、相も変わらず天井知らずだったな……」
「戦闘にも応用利くんで練習済みのムーブっす」
俺は久々の再会となった友人二人と、早速のこと交友を深めに掛かっていた。
こちらから言わせてもらえば、それこそ相も変わらず地味に関係性ってか仲良し度合いが謎である男女ペア。それぞれに専門を異とする職人二人にして、我らが【干支森】の参謀&料理長として活躍するノノミ&一鉄ことノノさん鉄さん。
最近はバタバタしていて鉄さんの店にも顔を出せていなかったので、本当に二人とも久しぶりに顔を合わせた形。そんでもって一応、友人として仮想世界を留守にする旨と理由については簡単に連絡していたので……。
「ともあれ、本当に調子は良さそうですねぇー。安心、安心!」
「あぁ、安心はしたが……まあ、無理するなよ」
「ご心配お掛けしまして」
もう何度目とも知れないが、何度でも感謝を返して然るべき。二人からも気遣いは有難く頂戴する────といったところで、背中にドン。
「あら。────ぐっふふ……ダメですよー? 妹ちゃんを不安にさせちゃー」
「『ぐっふふ』て」
振り返らずとも、ノノさんの揶揄いがなくとも犯人はわかっている。
でもって埋め合わせというかフォロー期間は継続中ゆえ、影糸リリースを堪えるまま脇からニュッと生えてきた小さな頭を適当に叩き撫で……ていると、
「────んで? 早速アンタたち籠もるの?」
次々来襲。やはり【干支森】では諸々を隠す気が一切ないらしい駄妹に続いて、今回も今回とて参加してスッカリ居ついてしまった様子の子猫様。
歩み寄ってきた、なっちゃん先輩の問いに対して。
「ぁー……いやー…………これ、いきなり引き籠もった場合」
言い淀みつつ、アイコンタクト。
向ける先はオレンジ色。即ち我らが参謀こと相談役の柑橘類様は、俺の視線を受け取るとパチパチ瞬きながら顎に手を当て思案した後。
「暴動が起きたりはしないでしょうけども、埋め合わせのハードルが上がってきますよ? 大丈夫です? 私は全然それも面白そうなんで大丈夫ですけど」
「だよなぁ……」
当然でしょと言わんばかり当たり前のことを言われて、俺は口籠った。
甘く見てはいなかったつもりだが、実際に我が身で受けて甘い見積もりだったと改めるべきだろう────なにかといえば、他ならぬゲスト勢のテンション諸々。
流石に、あれだけ求めて来られた方々を放置で引き籠もりってのは……。
「……? ん、なんでもいい」
と、視線を引き籠もりの協力者へ向ければ、常の無気力顔から首肯一つ。
「最悪、足りなかったら別で時間作る、よ」
「……悪いな。そん時は公開時期ちょい延期するから、無理ない程度に頼むわ」
「うん」
これで、アイドル様である。
ファンのため云々といったアレは、まさしく他人事ではないから……といった思考があってのことかは不明だが、素直に了としたリィナの頭を撫で継続。
さて、そしたらば、と────ずっと、すぐ隣に居た藍色へ目を向ければ、
「んじゃ、お務め頑張ってくるわ。ちょっと待っててくれ」
「はいはーい。ごゆっくりー」
ひらひら手を振られたので、俺は今一度。
呼吸を整えてから、気楽に覚悟を決めて、群衆の元へ駆けていった。
意識改革順調進行。




