お姉さんですから
────と、いうことで。
我が親愛なる専属魔工師殿に無理難題を託した後。
「それ何やってんの?」
「んー……耐火の特性転写ぁー…………」
「ほぇー。まだ俺には早い世界だ」
俺は現在地的な意味での極々ご近所さん……即ち、我が愛する専属細工師殿のアトリエへと念話一本にて転がり込んでいた。
昨日帰宅後に別れてそのまま、ずっと貯まった依頼の作業を頑張っていたのだろう。声音は一応だが生きているので徹夜まではしていないと思われるが、今も謎の布地と謎の赤い甲殻を術式で云々している職人の背中には疲労の色が見て取れる。
さて……。
「余計な世話だろうけど、休憩ちゃんと取れよ?」
「取ってるー……わかってるー…………」
「どんくらい貯まってんの?」
「たくさーん…………」
「三日ちょいで、そんなメチャクチャ溜まるもん?」
「ここ三日だけじゃなくてー……暫く前から溜めちゃってたからー…………」
「って、そりゃそうか。本当すまんな最後衛を最前線に引っ張り出して」
「んー…………」
…………さー、て。
「ぁー……えー、わ、悪い。邪魔だよな完全に。声掛けた時に言っ……わせる前に気ぃ遣えって話だわ。なんだ、無理しない程度に頑張────」
近くまで来たのだからと顔が見たくなり寄ってしまったが、完全なる作業の邪魔者。気を散らさせてしまうのは全く本意ではないので、一応……一応は『まだ大丈夫』そうな様を見れただけで満足して退散するべきだろう。
そう思い、回れ右してアトリエを去ろうとすると。
「────お?」
一段落ついたのか、はたまた一段落つけたのか。品を丁重にインベントリへしまい込んだニアちゃんが疲れた顔のまま立ち上がり、
「お?」
そのままツカツカと、部屋の扉へ向かっていた俺の方へ歩み寄り、
「お?」
袖を摘まむとか淑やかなものではなく、むんずと衣服の背中を鷲掴み、
「お、お……」
俺はズルズルと引き摺られるようにして、最後。
「っ……おぉ」
いつもの一人用贅沢ソファへと、放り込まれた。
────あ、訂正。ノット最後。最後の一撃は……。
「お、ぇ、ちょっと待────ヴぇっふ」
遠慮も躊躇もなく術式もなく俺を追加のクッションに仕立てた、我が専属様の控え目ささやかな質量爆弾。締めて二人分の体重を受け止めたソファが盛大に唸り、
「……………………ぇ、いいんすか」
「なにそれ。クッションが喋らないのー」
願ってもいない、ただただ俺が嬉しいだけの状況が始まった。
…………なんてな。
「……ねぇ」
「クッションは喋らない」
「次のイベントは、いつものとこ?」
「…………だよ。今回は修行ナシ」
「ゆっくりのんびり?」
「見ようによっては? 公開用の攻略再現動画をリィナと作んないといけないから暇ではないけど、ほぼ動かないから『ゆっくりのんびり』っちゃぁそう」
「ふーん」
あぁ、わかっているともさ。
「…………邪魔、しなかったら」
「無駄に声とか入れらんないから、お喋りもダメだけど。それでも良ければ全然」
「……じゃあ」
やはり、顔を見に来といて正解だった。
「……いる」
「ん、お好きなだけ」
まあ、当然だろう。
────ソラやアーシェとは違い、これまで逆に不自然なほど、退院から俺のことを特別に気にする素振りを見せていなかったのはニア一人だけ。
だからといって、心配されていなかったかなどと嘆くほど馬鹿ではない。
入院中および親友による軟禁中。こいつが、どれくらいの感情を俺に割いてくれていたか。それを疑うほど底抜けた間抜けではない。
「ありがとな。昨日とか、ソラのことまで気ぃ回してくれて」
「……………………別に。お姉さんですしー……」
と、そういうことらしい。
おそらくだがニアが発端と言ったメイド服騒ぎも、まあ同じくそういうことなのだろう。自爆も含めて空回ってはいたが、常ならないことをして気を紛らわせようとしていたのではなかろうかと。それで結果として、延命は叶っていたわけで。
要するに、自分を後回しにしてくれたわけで。
…………してくれちゃった、わけなもんだから。
「ニア」
「なーにー……────」
「そういうとこマジで好きだけど、重ね重ね無理してくれんなよ」
「へ、にゅ……」
互いに積み上がっている無数のタスクから目を逸らし、一時。
健気で不器用で甘やかし上手で甘え上手な愛すべき藍色娘を……常に避け得ず付きまとう罪悪感とは、こちらも上手に付き合いながら。
一時、感謝を込めて全力で甘やかしに掛かるぐらいは────
「な、なに、こらっ……! ────クッション! クッションでしょ!? あたしを抱き枕にしてどうす……ひぃっ、ちょ、顔! 近ぃい……!」
「相変わらず攻められたら秒でコレなのが無限に愛おしいな貴様……」
「愛ッ……!!!!!」
────許され……まあ、
赦されなくとも、自重する気など更々ないということで。
一人残らず愛おしい。




