03【読み切り】不幸な電話(コメディ・ホラー)
※小さじ一杯のホラー要素が含まれます。
「もしもし?」
『はい、どちら様でしょうか?』
「これは不幸の電話です。3日以内に同じ内容の電話を3人にかけなさい。電話をかけなければ、あなたに不幸が訪れます」
『どちら様?』
「どちら様でもありません。不幸の電話です」
『じゃあ不幸さん。困るんだよね、そんなお願いさあ』
「不幸の電話がかかった時点で、あなたは不幸なんです。諦めて誰かに電話をかけてください」
『困るのはあなただと思うよ。だってあなたがかけてきたこの番号さ、不幸な電話だもん』
「不幸な電話?」
『うん。3日以内に誰かから電話が来ないと、あなたは不幸になるよ』
「そんなの、聞いたことないですが」
『僕も半信半疑なんだけど、不幸が訪れるって言われると、なんだか不安じゃない? 残り1時間切ってたから、電話貰えて助かったよー』
誰かを困らせようと思って始めた些細なイタズラ。面倒な人にかけてしまったようだ。
「……どうせ、でまかせです」
『お互い様でしょ。電話をかける方が楽だから、助かるよ。僕って友達少なくて、電話かかってこないから心配だったんだよ。ありがとね!』
一方的に電話を切られてしまった。
思わぬカウンターを受けてしまった。『不幸な電話』なんてイタズラ、考えついたこともなかった。私もやってみようかな。
ふとスマホを見ると、画面上部でカウントが進んでいる。なにこれ?
【残り2日23時間58分】
額に汗が浮く。嫌な予感。『3日以内に誰かから電話が来ないと不幸になる』というムカつくおじさんの言葉が脳裏をよぎる。
もう一度、タイマーに目を移す。
【残り2日23時間57分】
急いでWebブラウザを開いて『不幸な電話』を検索する。どのサイトを確認しても情報がない。
脅しじゃないぞと言わんばかりに主張するタイマーに、不安が増す。ただでさえ就活でイライラしてるのに!
友達に電話をかけてもらう? いや、友達を不幸にしちゃまずいだろ! それに、なんて説明するんだよ!
最近の通話履歴を確認する。かかってくるのは母さんばかりだ。今日の夕方だって、一人暮らしを心配して電話をかけてきた。
え? 母さんに『不幸な電話』を回すの? どんな親不孝者だよ! まだ初任給でお礼もしてないのに!
…
……
………
母さんと友達を着信拒否に設定した。メールで通話機能が壊れたと説明したから心配はされてないはず。
『不幸な電話』を引いてから、あらゆる手を尽くした。でもなぜか悉くが失敗した。これは掌編なので詳細を語る紙面がないのが残念だ。
【残り0日1時間05分】
タイマーを見ると、残り1時間を切りそうだ。スマホを初期化してもタイマーは消えなかった。電源を切って放置も考えたけど、不安になるだけだ。
藁にも縋る思いで、『不幸な電話』を受け取ってしまった男に電話をかけた。
『どーしたの?電話がかかってこないとか?』
「ぐっ」
着信拒否されていると思ったが、無事に繋がった。人を馬鹿にする様な態度が頭にくるけど、ここは我慢だ。
『ギャハハ、図星でやんの!かわいそー!』
「元はと言えばあなたのせいでしょ!責任とってよ!」
『君だって、僕に不幸の電話をかけたじゃない。お互い様よ』
「あれは……就活のストレスを発散したくて」
『そうか。就活中なのか。それは大変だよね。僕も苦労したよ。頑張り屋な君に、悪いことしちゃったみたいだね』
「……こちらこそ、不幸の電話なんてかけてごめんなさい」
『ちゃんと謝れて偉い! 社会に出たら必要な技能だから、心に留めるんだよ! よし、おじさんが一肌脱いであげよう。1万円払ってくれれば、折り返し電話してあげるよ!』
「え、もしかしてこれって詐欺?」
『詐欺だと思うなら拒否してもらってもいいよ。でも就活中なんでしょ? 不幸な電話が本当のことなら、内定貰えないかもねー』
「ぐうぅ、わかりましたよ! 払います!」
『そうそう、いい判断力だ! おじさんは君のこと、応援したげる! じゃあお金の受け渡し先は――』
……
『もしもーし、おじさんだよー』
「これは不幸な電話です。3日以内に他の人から電話がかかってこなければ、あなたは不幸になります」
『はああい、オーケー! 不幸はおじさんに移りました! あとは任せて!』
急いでホーム画面に戻る。タイマーが消えていた。
「やった! タイマーが消えた! おじさん、ありがとうございました! 詐欺だったら許しませんよ!」
『詐欺じゃないから! さーて、今日は焼肉かなー? ……ところでタイマーってなんのこ』
もうこれ以上、詐欺師かもしれないおじさんと話したくない。急いで電話を切り、番号を着信拒否に設定する。
久しぶりの開放感に、思わず雄叫びを上げた。
「いよっしゃあああ! 就活頑張るぞ!」
…
……
………
3日後、第一志望の企業から内定をもらうことができた。両親には喜ばれ、友達からは羨望の眼差しを向けられる。
ニュース番組を流すテレビの前で、発泡酒じゃないビールのタブを開け一人で祝杯をあげる。
達成感、充実感、優越感。
詐欺師に1万円払ったけど、結果良ければ全てよし! 懇親会の持ちネタにでもしようかな!
「おじさんに乾杯!」
『本日未明、◯◯区のマンションの一室で男性の遺体が発見されました。手にはスマートフォンが握られており、近隣の住人によりますと、「電話がかかってこない」などと叫ぶ声が聞こえたとのことです。警察は––』




