零(ゼロ). どうか、この手を……
瞳の色も髪の色も肌の色も関係ない世界に行きたい。
有り得ないはずの青いバラが咲いている世界に──……
第一章 君が大空を羽ばたけるように
零.どうか、この手を……
予備校のテキストが目の前で踊ってる。
ああ、勉強しなきゃ。
今度こそ……受からなきゃ……
獏はテキストに手を伸ばす──
光が弾けた。
目の高さに上げた腕を外し、再び瞳を開くと、テキストは霧散し、代わりに見たこともない少女がこちらを見つめている。
「勇者様……?」
少女は小さなピンク色の唇を農わせて、か細い声でそう言った。
白いフリルのついた服に、赤いチェックの帽子とスカートとレッグウォーマー。青いブーツ。キュートな格好をしている。
長くウェービーな髪は黄緑色。大きな瞳は葡萄色だ。
かわいい。はっきりいって、すごく好みだ。
「勇者様……」
彼女はつぶらな瞳から大粒の涙をこぼした。
「勇者様……お願い……助けて」
少女は白く華奢な手を獏に向けて伸ばす
「お願い、どうか、この手を……!」
思わずその手を握りそうになったとき、
「待て!」
新たな声が聞こえた。振り返ると、気の強そうな少女がこちらを睨んでいる。
「騙されるな!オマエは、このオレの手を取れ‼︎」
噛みつきそうな勢いで手を突きつけられる。」
ファーのついた黄色系のボーイッシュな格好。腰には剣を下げている。
赤いミディアムヘアで、両サイドに金色のメッシュを入れている。吊り気味の目は濃いブルー。
イケてる。こういうのもタイプだ。
「専者様……」
「早くしろ‼︎」
いきなり究極の選択だった。
漠はうろたえた。
「ゆ、勇者さま……」
震える小鳥みたいな黄緑色の髪の少女が、戻を流したまま縋るように獏を見上げた。
「もちろんオレの手を取るよな?」
気高きライオンのような赤毛の少女は、どこか見下すように獏を見た。
〔問1〕(制限時間3分)
どちらの少女の手を取るか答えよ。
①黄緑の髪の儚げな少女
②赤い髪の勝ち気そうな少女
消えていたテキストが復活し、巨大化して獏に迫ってきた。
見開かれたページと少女たちを比べて、獏は人の良さそうな顔に脂汁を浮かべた。
こんなん、大学入試には出ないよっ!
頭を抱える。制限時間ゲージはどんどん減っていく。
赤毛の少女が牙のように尖った歯を覗かせて、獏の右肩を強引に掴む。
黄緑色の髪の少女は恐る恐る、獏の左腕に手を添える。
「おいまさかコイツに味方する気じゃないよな、コイツはな──」
赤毛の少女が早口で何か吠え始めたが、勉強とバイト疲れでクマのできた重たげな目は、もう黄緑色の髪の少女にしか向けられていなかった。
泣いてる女のコをほおっておくなんて男じゃない!(ちょっとタテマエ)
てゆーか、こーゆー清楚で可憐で健気なカンジのコのが、ボクは好きなんだ‼︎(ホンネ)
獏は朦朧とする頭を振って、自分の腕に添えられたままの白い手を握った。
「勇者様っ!」
可憐な少女は頬を染め、目を輝かせた。
「チクショー、このオレにこの仕打ちとは‼︎ だからバカなオトコはイヤなんだ‼︎ おまえな、コイツはオレのことを──」
……ああ、夢なのに眠い…………




