「幸せは、まだ間に合うことだった」
久しぶりに帰った実家。
母は何も責めなかった。
だからこそ気づいた、本当に大切なこと。
幸福の日に届けたい、親子の物語。
次の休日。
私は実家へ向かった。
電車の窓に映る自分を見ながら、
何度も考えていた。
もし。
あの日、母からの電話に出ていたら。
もし。
『会いたいな』に返信していたら。
そんな後悔ばかりが浮かんでくる。
実家の最寄り駅に着く。
見慣れた景色。
何度も通った道。
なのに。
少しだけ違って見えた。
玄関のドアを開ける。
「おかえり」
母はいつも通り笑っていた。
その声を聞いた瞬間。
胸の奥に溜まっていたものが、
少しだけほどけた気がした。
リビングには、
私の好きだったお菓子。
テーブルには、
私が好きだったおかず。
何も言っていないのに。
母は覚えていた。
昼ご飯を食べながら、
私は聞いた。
「なんで言わなかったの?」
母は少し困ったように笑う。
「だって忙しそうだったから」
「心配かけたくなかったし」
その言葉を聞いて。
私は何も言えなくなった。
母はずっと。
私のことを気にかけていた。
なのに私は。
仕事が忙しいから。
疲れているから。
そんな理由で、
母を後回しにしていた。
気づけば外は夕方だった。
帰る時間になる。
駅まで送ってくれる母。
子供の頃は手を引かれていた道を、
今は二人で並んで歩く。
改札が見えてきた時。
母が言った。
「顔見られてよかった」
たったそれだけだった。
でも。
その言葉が。
今まで聞いたどんな言葉よりも温かかった。
私は思わず笑う。
「また来るよ」
母も笑う。
「うん、待ってる」
電車に乗る。
ドアが閉まる。
小さくなる母の姿を見ながら、
私はスマホを開いた。
母とのトーク画面。
今までほとんど返信していなかった場所。
私はメッセージを送る。
『今日は帰ってよかった』
数秒後。
返信が届く。
『私も』
たったそれだけ。
本当に短い言葉。
でも。
なぜか涙が出そうになった。
幸せって。
大きな出来事じゃない。
特別な日じゃない。
会いたい人がいること。
その人に会えること。
伝えたい言葉を、
ちゃんと伝えられること。
そして。
"また今度"を、
"今日"にできること。
窓の外には夕焼けが広がっていた。
私はスマホを閉じる。
そして思う。
幸せは。
失ってから気づくものじゃなくて。
気づけた時に、
大切にするものなんだ。
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「あなたは最後に、親へ『ありがとう』を伝えたのはいつですか?」




