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ちょっと天然の女子はきらきらでピカピカになる  作者: ついざきまさひろ
第六章 世界は、あなたが考えているより、ずっと広い

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第4話 夢をかなえるために生きてる

 私は、溶けて水になってしまうんだと思いました。


 ……。


 と、何かが私の顎を起こしてきます。


 水? 


 と思ったら、違いました。


 魚? 


 いいえ、大きな黒っぽい生き物。


 ……アシカです! 


「デッカ?」


「……」


「チッチャ?」


「はい! いますよ!」


 その声を、私は、また、はっきりと聞きました。


「チッチャ! またチェリー川に来たのね! あのね、チッチャ、私とリクちゃんは、あなたを、チッチャじゃなくて、デッカって呼ぶことにしたの」


「なに、それ?」


「あ! ごめんなさい。勝手に名前を変えちゃって……」


「チッチャとか、デッカとか、うっとうしいのよ。私は、私。私は、チェリー川で泳いで、亜鹿アシカ選手になるの」


「なに、それ?」


「なに、それって、あなた、私の真似しないで。あなた、オウムじゃないでしょ」


「ああっ。ごめんなさい。アシカ選手って、なあに?」


「漢字で書けば、亜細亜アジアに、鹿せんべいの鹿シカ。私のこれからの姿よ」


「アシカせんべいが?」


「違うー! 亜鹿アシカ選手よ、亜鹿アシカ! あなた、漢字ドリルやってないわね?」


 ううっ……。


 私は、うつむき、うなずきました。


 確かに、漢字ドリル、やっていません。

 嫌いなんです、あれ。

 面倒くさいし、つまらないし……。


「私は、オリンピック代表になるの。そのために、私はチェリー川に来たのよ」


「オリンピックのアシカ選手なんて、あるの?」


「もーっ! だから、バカとは話したくないのよ」


 なんか、ひどい言われようです。

 水の中でも、悪口を言う人は、いえ、アシカはいるようです。

 私は、ちょっとだけムッとしました。

 ちょっとだけ。


「いい? よく聞きなさい」

 チッチャは偉そうに言います。

「あなたの知っていることが、みんな、正しいこととは限らないの。この世界は、あなたが考えているより、ずっと広いのよ」


「それはそうね。私もそう思う」


「うん。素直でいい」


「それで、チェリー川で泳ぐと、オリンピックの代表になれるの?」


「また何言ってるの。ただ泳いでなれるわけないでしょう。この川で、私は血のにじむような努力をするのよ。今までだって、私は、拍手に、ポーズ、キャッチボール、バスケットボール、輪投げ、輪くぐり、書道、お絵かき、計算問題、漢字の読み書き、みんな、できるようになったの。がんばって、がんばって、がんばったからよ」


「すごーい! どうして、そんなに、がんばれるの?」


「夢があるから。私は夢をかなえるために生きているの」


「ホントに、すごい……」


「ふっ! あなたみたいな小鮎に言われたくないわ」


「え! 私、アユっていうの! チッチャ、私の名前、知ってたの?」


「知るわけないでしょ。あなたは稚鮎でも若鮎でもない小鮎だなと思ったから、そう言ったまでよ」


「子供のアユってこと?」


「それは稚鮎。小鮎はね、稚鮎、若鮎って呼ばれる鮎とは、また別の種類の鮎」


「そうなんだ……」


「あなた、何にも知らないのね」


「えへへ」


 私は、ちょっとだけ照れました。

 ちょっとだけ。


「小鮎は、生まれたところで一生を終える小さな鮎なのよ」


「それで、私は、小鮎?」


「そう。あなたは、チェリー川で、何にも考えないで、ただ、泳いだり、溺れたりしているだけでしょう。それだったら、オリンピックの亜鹿選手になんて、なれるわけない。ううん。代表の補欠の補欠の補欠にも、なれないわ」


「ううっ……、私の泳ぎは、だめなのね……」


「ああっ……、うーん……、あなたは、まあ、そこそこのセンスの持ち主ではあるから……。補欠の補欠の補欠くらいにはなれるかも」


「チッチャ。私の泳ぎ、見てくれたの?」


「見たわよ。お尻のフグも。……フグ。いいわね」


「わぁっ! ありがとう!」


「何よ! いいのは、お尻のフグ! あなたの泳ぎは、私の泳ぎに、徹底的に負けるわ」


「ううっ……、やっぱりアシカ選手には負けちゃうのね、徹底的に」


「あったりまえでしょう! あなたは、泳ぎの楽しさしか知らないもの」


「え? それじゃ、だめなの?」


「私は、その先にある、苦しみ、つらさも知ってるの。そうしてまたその先にある楽しさ、喜びも知ってる」


「苦しい先に、また楽しさとか喜びとかがあるの?」


「あるわ。それは、経験したものにしかわからない」


「ああ……、そうなのね……」


「いいのよ。あなたは、ここで、何にも考えないで生きていきなさい。私は、亜鹿選手になって、世界に羽ばたくから」


 ……。


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