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ちょっと天然の女子はきらきらでピカピカになる  作者: ついざきまさひろ
第五章 しわくちゃのマントヒヒ

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第2話 自分でちゃんと気をつけなさいよ

「くそっ……」

 グリズさんは怒りの持っていき場がないようでした。

 ブーッとまた鼻息を荒げます。

 右手でこぶしをつくり、それを左の手のひらに打ちこみます。

 パンと乾いた音がしました。

 そうして、「スジコ丼、スジコ丼」とぶつぶつ言いながら、その場を行ったり来たりします。


 ああ、グリズさんは、スジコ丼を、本当に、本当に、食べたかったんですね。

 スマホのスジコは、ルビーのようでしたものね。

 グリズさんは、その太い首を、長く、長く、ながーくして、待っていたんですね。


 俺の体は、スジコ丼を食う体になってんだよ!

 

 その気持ち、私もわからないではありません。

 私だって、朝、学校に行く時、お母さんに、「夕飯は、アユの大好きな野菜コロッケよ」と言われたら、そうなんだぁ、野菜コロッケなんだぁ、と学校で一日中、野菜コロッケ、野菜コロッケ、野菜コロッケ、とずーっと楽しみにしていて、夕飯までには、すっかり野菜コロッケを食べる体になっていますから。


「俺が悪かった。つい、かっとなっちまって」


 グリズさんは、ようやく落ち着きをとり戻した様子です。

 また、さわやかなイケメンになっていました。

 白い歯を見せ、笑います。


 でも、何か、そういう変わり身の早さって、ちょっと、こわいようにも、ずるいようにも、私には感じられました。


「リク。ごめんな」

 グリズさんは、軽く頭をさげました。


「はい」

 リクちゃんは、うなずき、にっこりとしました。

 

 胸のマントヒヒは、しわくちゃです。

 

 でも、リクちゃんは、いつも通りの澄んだ笑顔。


 と、そこで、私は、カッパーさんの言葉を思い出しました。


 ━━うっかりや失敗っていうのは、誰にでもあるから━━。

 ━━自分が失敗しちゃったら、反省すればいいし、誰かが失敗しちゃったら、許してあげればいいんだよ━━。


 私は、リクちゃんは偉いなぁと思いました。

 そうして、私も、グリズさんを、悪く思うのはよそうという気持ちになれました。

 グリズさん、謝ってもいるんだし。


 そこで、私は、スカートのポケットの中の一万円札を思い出しました。


「グリズさん、お金です」

 一万円札を、グリズさんにそっと差し出しました。


 と、グリズさんは、私の手にあるお札をただじっと見つめるだけで、なかなか受け取ろうとしません。


「おにぎり、いくらだったんだ?」


「ジョンソンさんが、お代はいらないって言ってくれたんです。そんな、悪いですって、私もリクちゃんも言ったんですけど、ジョンソンさん、受け取らなくて」


「そうか……」


 グリズさんは、ようやく、お札を手に取りました。


「これ、俺が渡した札か?」


「そうです」


「なんで、こんなに折れてんだ?」


「えっ……」


「俺は、自分の札を折らない主義なんだ」


「ああっ……、ごめんなさい……」


 これは、私が謝るべきなのでしょう。

 なにしろ、お札を折ったのは私です。


 それにしても、お札を折らない主義があるなんて……。


「仕方ねえな」

 

 グリズさんは、ひとつ、吐息をもらすと、たたまれていたお札を、大きな手でひろげ、黒革の長い財布の中に収めました。


 私は、それを見て、ああ、お札を折らないから、あんな長い財布なんだと気づきました。


 でも、あんな長くて重そうな財布、私はとても使えないとも思いました。


 スカートのポケットにいれたら、その重さでスカートがずり落ちてしまいそうです。

 デニムのポケットにいれたら、あっという間に、スリに盗られそうです。


 もっとも、いつも、千円札一枚くらいしか持たない私ですから、ああいう財布は、そもそも必要ありませんね。


「アユ。倒れたんだって? 大丈夫?」

 お姉ちゃんが、そっと私の肩を抱いて、言ってきました。


 いつの間にか、リクちゃんが、お姉ちゃんに話したようです。


「うん。緊張しすぎて、心臓がドカドカしただけ」


「『だけ』じゃないわよ。あなた、もう中学生なんだから、自分でちゃんと気をつけなさいよ」


「うん。気をつける。高校生になっても気をつける。大人の魅力的な女になっても気をつける」


「ふざけないで!」


 ふざけてないのに……。


 私がこくりとうなずくと、お姉ちゃんは自分の気持ちをしずめるかのように、ちょっと間をおきました。


「……。アユ、ごめんね。あなたたちふたりを買いに行かせて、私、責任、感じるわ」


「私はいいよ。謝るなら、リクちゃんに謝って。あと、お礼もね」


「そうね」


 お姉ちゃんは、リクちゃんに歩み寄ると、

「リク君。ごめんね。それと、ありがとうね。アユも、お世話してもらって」

 丁寧にお辞儀しました。


「そんな! 俺は、アユちゃんのお世話なんてしてません」

 リクちゃんは、大きく、頭を振りました。

 

 やさしいリクちゃん……。

 私が思っていると、

「リク! 食おうぜ!」

 グリズさんが声をだしました。

 紙袋の中の、ラップで包まれたおにぎりを、リクちゃんに手渡します。


「あっ! ありがとうございます」 


「コウちゃんも、アユちゃんも」

 

 グリズさんは、お姉ちゃんと私にも、おにぎりを一個ずつ、くれました。


 お姉ちゃんも食べるようです。

 ここは、お腹すいてないからなんて言わずに、食べるところですよね。

 私もいただきます。


 私たちは、川の水に、すぐ手がとどくほどの岸辺に四人、並んで座りました。

 自然の中での食事です。

 グリズさんの希望がかないました。

 よかったです。


「うめー!」 

 上半身、裸のグリズさんは立ち上がると、肘を曲げ、左右のモリモリの腕の筋肉をだしてみせました。

 手首も曲げ、ボディビルダーのポーズです。

 

 リクちゃんも慌ててマントヒヒTシャツを脱いで、グリズさんのようにボディビルダーの真似をして、

「うまーい!」と声をあげました。


 私は、もちろん、脱ぎませんでしたけど、やっぱりグリズさんのようにボディビルダーの真似をして、声をあげました。

「うめー!」


 お姉ちゃんも、もちろん、脱ぎませんでしたけど、かなり恥ずかしがりながら、グリズさんのようにボディビルダーの真似をして、半ば、やけくそ気味に声をあげました。

「おいしー!」


 私も、リクちゃんも、グリズさんも大笑いしました。

 お姉ちゃんのボディビルダーのポーズが一番うまかったんです。

 

 それはそうと、ジョンソンさんの、おにぎり、本当においしかったー! 

 ありがとう! ジョンソンさん!


 ドン・ジョンソンは、ずっと、大繁盛、間違いなしだわ、と私は思いました。


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