63✦☾作戦準備は念入りに
「なるほど……。つまり、兄弟宮への潜入は難しいが、別方向からユー……例の御令嬢を助ける作戦を考えてくださる、と」
お屋敷でのお仕事が終わった後──私は、先日のお店でレオネル……ではなくレオーネ様と再び密会していた。
ここで会いたい時は、店主を通じて連絡をしてくれと言われていたのだ。どうやらここの店主はレオーネ様と縁の深い方のようだった。
「はい。……王族へ直接密偵行動を行うのは、さすがに危険すぎて、結局お嬢様にもお伝えできませんでしたわ」
「いや……、そもそも、被害者たる貴殿に、加害者を救出するため危険を冒してほしいというのが無理筋な頼みであるしな」
(それはそうですけれど、私も責任は感じるし、何よりザマァ返しの芽は摘んでおくにこしたことはないのですわ!)
このままユーテリア嬢が追放でもされたら、お嬢様はモノホンの悪役令嬢になってしまう──!そんなことにはさせない!
「そこで、レオーネ様にもお願いがございますの」
「当然、私から持ち掛けた話ですからな、できることは何なりと」
私は、トルドー家とのお茶会作戦について軽く説明した。
セラヴェル家から直接ではなく、トルドー家を通せばアシュレーン家と交流を持てるのではないかという狙いだが、今のアシュレーン家の状況だと、トルドー家のお茶会の誘いにも応じない可能性が高い。
「例の御令嬢と親しいレオーネ様から働きかけることは可能でしょうか」
「うーむ……。今は謹慎中で直接話はできないし、まして茶会に出るなどは……」
「御令嬢ご自身が出るのは無理でしょう。奥方様や、それも難しければ、確か妹君がいらしたと思いますが、その方など……」
セズネイ様の資料やアデリーナ様から学んだ貴族の情報では、ユーテリア様には十八になられる妹君がいる。社交界デビューも果たしているはずだ。
「レオーネ様のご判断で、我らの事情──冤罪を晴らすお手伝いをしている旨、お伝えいただいてもかまいませんわ。警戒心を解く必要があるならば」
「妹君か。……しかし、彼女は……」
珍しくレオーネ様は言いよどみ……顎に手をやった。
「何か不都合が?」
「──いや、あいわかった。確かに彼女なら話はできるかもしれぬ。私の方でも動くとしよう」
どこか覚悟を決めたかのようにレオーネ様は顔を上げた。
そこで私は、もう一つのお願いごとを切り出す。
──以前より、今の私に必要だと痛感していた重要なことだ。
「……それはかまわぬが……」
レオーネ様はやや不思議そうな表情を見せつつも、とある“許可証”の手配をしてくださることとなった。
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私は屋敷に戻ると、さっそくお嬢様に計画を話し、まずはココや子ども達を連れて、トルドー家にお邪魔する予定をたてた。
ココは大喜びしているが、テスタやイオ、レザは複雑そうな表情だ。
「もちろん、無理にとは言わないわ。皆は会いたくない方でしょうから……」
「ココだけ行かせるほうがよっぽど不安だ」
テスタは言葉少なに了承してくれた。
メセナとヤーナは、ココから美味しいお菓子の話をさんざん聞かされたらしく、目を輝かせている。
「でも、わたくしの供として連れていくなら、この恰好というわけにはいかないわね」
お嬢様は子ども達を一瞥した。
皆、屋敷で働くにあたり、少なくとも衛生的ではあるものの……、使用人のお古のお古だったり、古い布を継ぎはぎしたお手製の服を着ている。
「使用人見習いの子どもなんて、どこでもこんな物ですけれど……」
「ダメね!こんな姿を見せたらトルドー婦人も心配して、やっぱりココを引き取ると言い出すかもしれないわ!」
不安そうに顔を見合わせる子ども達──。
お嬢様の鶴の一声により、たちまちセラヴェル家ご用達の仕立て師が集められることとなった。
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あとはお嬢様の部屋にてメイド達も集め、ひたすら子ども達のファッションショーである。
「やっぱりリボンの上にはリボンがあった方が良いわね?」
お嬢様は女子たちのドレスを選ぶのに余念がないが……。
「お、お嬢様。あくまで子ども達は使用人見習いですので、あまり豪華な物はかえって不自然ですわ」
リルネが控え目にお嬢様を止めようとしている……。
お洒落な彼女にすれば、フリルの上にリボン、リボンの上にレース、レースの上にフリル……といった、お嬢様の過剰すぎる趣味は耐えられないのだろう。
(女児アニメのコマーシャルで流れる「お姫様変身セット」みたいね……)
お嬢様の好みはとにかく女児である。
ドレスなら、ピンクやバラ色、水色といった華やかで明るいお色に、とにかく装飾が多くゴテゴテキラキラフリフリした衣装だ。
前世の記憶がある自分からすると、完全にコスプレ衣装である。
(しかし、またそれが似あうんだ……!!)
私が心の中で握りこぶしを突き上げていると、お嬢様は不満そうにリルネをきっとにらんだ。
「何よ!いつもはあなた達の選ぶ服を黙って着ているんだから、自分の使用人の服くらい決めさせなさい!」
(全然黙っていないし、毎朝五着は着替えなおしていますけれどね!どれも似合うから仕方ありませんけれども!)
毎朝の戦場のようなメイド室の有様は、お嬢様の中ではないことになっているらしい。
「そうだわ!わたくしのドレスにつけていたような、キラキラの宝石のような飾りもつけましょう!」
「そ、それはダメですわ!」
女児の着せ替え遊びを見るような和やかな気持ちだった私も、慌ててお嬢様を阻止する。
エリヤ様の忠告もあり、ミネラロイド系装飾はなるべく人目につかないようにしなければならないのだ。
(トルドー家も、円環の理に反する行いをしていた以上、屋敷内に神官などはいないでしょうけれど……、それでもメイドの目に触れれば広まりかねないわ)
私自身もメイド達から情報をとっている。彼女たちの情報網は軽視できない!
「光る装飾は門外不出、セラヴェル家の機密事項だとおっしゃったのはお嬢様ですわ!舞踏会など特別な時だけに留めておきませんと!」
「確かに、あちらこちらで普通に見られる物になりますと、特別感が失われますわね……」
マーシア!ナイスフォローよ!
「そ、それはそうね……」
まだ不満そうだが、お嬢様は一応納得してくださったようだ。
「それに、子ども達があまり目立つと、お嬢様の方が映えなくなってしまいますわ。供の者はあくまでお嬢様の引き立て役ですのよ」
ラーサもうまい具合にお嬢様の暴走を阻止してくれる。
「ま、まあそれも当然ね!」
……皆、大分お嬢様の扱いに慣れてきているわね。
子ども達もあれやこれやと、さんざん着せ替え人形扱いされて、大分疲れてきている……。
結局は、リルネやラーサが、粗末ではないが豪華すぎず、上品に見える子ども服を見繕って、それに落ち着いた。
男子たちも、ベストにジャケット、タイまで着けて、なかなか見栄えがする仕上がりだ。
「まあ、こんなもんでしょ!……確かに重要なのはわたくしのドレスですわ!」
お嬢様もとりあえずは満足そうにしているのでヨシとしよう。
──ただ、ココだけはトルドー宅で着せられていた、貴族の娘のようなドレスを着せていってあげようと思っている。
ココはそのドレスを大切にクローゼットにしまい込んでいた。……が、大人である私たちは知っている。
ココがそのドレスを着られる時間は、おそらくあと半年もないのだ。
「これくらいの子はすぐに大きくなっちゃいますからね」
弟妹の多いマーシアが、愛おしさと寂しさの混じったような表情で微笑んだ。
──こっちの準備は着々と進んでいる。私の方も“頭の準備”を進めないといけない。




