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42✦☾攫われた少女を捜せ!

個室に少年を入れると、ホットミルクに少しだけハチミツを入れて差し出した。

少年は立ったまま、物珍しそうに部屋中を見ている。


「ここで話したことは、他の人には聞かれないから安心してね。さ、その椅子に座って」


けれど彼は、カップをじっと睨むばかりで口をつけようとしない。

そこで私は、もうひとつ用意していた自分のカップに少し分けて、目の前で飲んでみせた。


「大丈夫よ、変なものは入っていないわ。あたたかくて甘いのよ」


ようやく少年はカップに口をつけたかと思うと、すごい勢いで飲み干した。

そしてようやく少し落ち着いたのか、少年は手の中にあるカップを睨みながら、少しずつ話始めた。


「ココを(さら)ったのは、多分、王都の貴族だ」

「え……?」


思わず、私は椅子から身を乗り出した。


(貴族ですって?)


「どうしてそう思ったの?」

「レザが見た。ココを乗せた馬車が大きな屋敷へ入っていくのを」

「レザ……お友達の名前ね」


少年は小さく頷いた。


「レザは、俺より少し年下。目がいい」


私は少しだけ微笑んで、彼を見つめた。


「私はシアナ。……本当の名前はルシアナ。あなたの名前を教えてもらってもいいかしら?」

「……テスタ」

「ありがとう……テスタ」


おそらく少年──テスタは、まだ警戒心を解いてはいない。

でも、私は彼が名前を教えてくれたということが、とても嬉しかった。


✦••┈┈┈┈••☽••┈┈┈┈••✦


テスタの話によると今日の昼、果実などを売りに集落に行った際、ココがいなくなった。

皆で捜していると、見慣れない女が馬車に女の子を乗せ、王都の方向へ去ったいう話を聞いたという。


「山越えの近道で先回りして、王都の門を皆で手分けして見張った。王都に行く川沿いの道はいつもぬかるんでいるから、車輪がひどく汚れた馬車を捜して、レザが見つけて追いかけた」


ココらしき少女が乗っているのは確認できたが、屋敷内に入ってしまえばどうにもできなかったという。

テスタは悔しそうに唇を噛んだ。


「どの屋敷だったか、わかるかしら?」


私は本棚から王都の地図を取り出す。

テスタが考えながら示した場所は……、──トルドー螺伯家(らはくけ)だった。


「白い壁で、塔が四つあった。窓枠や屋根は黄色っぽかった」


(外観からも間違いないわ。……トルドー家が、なぜ??)


「俺が悪い……。ココの手をしっかり握っていれば……」


私はあわてて、テスタの両手を握る。


「テスタのせいじゃないわ!悪いのは(さら)った人だけ。そこを間違っちゃだめよ。──大丈夫。絶対にココは見つけるわ」


(この警戒心と自立心の強いテスタが、必死で助けを求めてきたんだもの、何としても力になりたい──)


トルドー家については、ユーテリア嬢の件でも、何とかして潜り込めればと思っていたところだ。

思わず腕を組んで考えていた、その時だった。


✦••┈┈┈┈••☽••┈┈┈┈••✦


ドンドンと、すごい勢いでドアがノックされる。


「シアナ!?門番から聞いたわよ!リルネの恩人が来てるって本当!?」

「お、お嬢様!?」


開ける間もなく、得意げなお嬢様がババーンと現れた。


「ほぉら、やっぱり金貨が欲しくなったのでしょう??わたくしは心が広いから無礼は許し、今からでもちゃーんと褒美はくれてやりますわ!」


(お、お嬢様……、オホホ笑いをしている場合ではないのですわ!っていうか、金貨を断られたの根に持ってらしたんですね……!)


「金貨はいらない。ココを捜してほしい」


テスタは突然現れたお嬢様にも(おく)することなく、即答した。


「こ、“ここ”?え?どこ?」

「お嬢様、この少年の妹が、王都に(さら)われたようなのでございます」

「まあ!?なにそれ大事件だわ!」


ああ、見るからにワクワクしている……。お嬢様にはできればギリギリまで隠していたかった。天然ドジなのに冒険大好きっ子なのである……。


「貴族の、この家に……ムグ!」


テスタが地図のトルドー家を指さそうとしたのを、無理やり抑えつけ、慌てて小声でささやいた。


「その情報を伝えるのは待って!正面から乗り込みかねないわ!そんなことになったら、ココは余計危険になるかもしれない!お嬢様はそういう人なのよ!!」

「大人で、貴族なのに?」


心底不思議そうなテスタの表情が心に刺さる……!少年よ、世のなかにはいろんな大人がいるのよ……。


「無闇に動きますと、犯人に知られ彼女に危険が及ぶかもしれません。できるだけ水面下で捜し、彼女の安全を確保したいと思っております」


怪訝そうな表情をしているお嬢様にそう伝えると、テスタを離し、ひきつった笑みを浮かべる。


「テ、テスタ、ココが攫われる心当たりはない?何でも……、いつもとちょっとでも違ったことがあったなら、教えて」


少し考えるとテスタは、思い当たったかのように顔を上げた。


「数日前から、見慣れない男が集落で、ココくらいの年の子どもに声をかけていたらしい」


つまり、犯人は数日前から誘拐する子を物色していたということになる。それでココに白羽の矢が立った……。


「その男が何を話していたか、とかわかるかしら?」

「そこまでははわからない。集落に戻って聞いてくる!」


慌てて飛び出しそうになるテスタを止める。


「今夜はもう、この屋敷に泊まっていったら?夜は危険よ」

「仲間たちが屋敷の外で待ってる。放っておけない」

「ちょ、ちょっと待って。まだ攫った目的もわからないし、他の子も狙わないとは限らないわ。できれば安全なところに……」


私はしばし考え込んだ。

トルドー家が絡んでいるとなると、すぐの解決は難しい。


(でも、それまでこの子たちを置いておける安全な場所なんて……)


「面倒ね!その子たち全員、うちに泊めりゃいいじゃないのよ!部屋なんてどうせ余ってるんだから!」


お嬢様がしびれを切らしたようにそう叫んだ。

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