38✦✦監視者の事情
本日は短い回が続くので夕刻に二話と夜に一話、計三話を二回に分けて投稿します。よろしくお願いします。
舞踏会の様子をじっと見つめていた者がいる。
教会より貴族社会の監視役を命じられている、学術師エリヤだ。
会場上部にいくつもあるバルコニーの手すりの一つの上で両腕を組み、そこに顎を乗せて場内を見下ろしていた。
「……なるほど、あの石英砂は、カットガラスの研磨に使いましたか……、ま、一応、駒からそれらしい話は聞いてますケドネ」
「エリヤ様。……あのガラス装飾は教会にはどうごまかしますか」
エリヤの横に控えた長身の青年が尋ねた。
褐色の肌に腰までの黒髪を三つ編みにして垂らし──エリヤと同じ教会の制服に身を包んでいる。
「また、派手なモノを作りましたネ……、まあ、幸か不幸か今夜はそれどころじゃなかったから、たいして話題にはならないデショ……万一教会に問われたら螺術で光っていただけと答えるしかないですかネ」
「スティラ嬢の例の噂を隠すだけで、こちらは精一杯ですよ。……悪しき者とやらのおかげで、神官たちはピリついているし」
「ご苦労ですナ、ゼーラ」
ねぎらうかのように、エリヤは精一杯背伸びをして、自分よりかなり背の高い青年の頭を撫でた。
「やめてください、子どもじゃあるまいし。そもそも今はあなたよりけっこう年上です」
ゼーラと呼ばれた青年はむっと眉を顰めると、軽く後ろに避ける。
「ハイハイ。しかしあのお嬢サマは光属性とはネ……。こりゃまた、シアナちゃんと相性の悪い……。いや。ボクの想像どおりなら、むしろ良い、のか……?」
エリヤは首をかしげながら、目を細める。
『シアナ』という名前だけでは、少なくとも総国民螺術全書では探し出せなかった。同名、または似た名の同年代の少女がいないわけではなかったが、全員別に確認された。
登録されていないということは、少なくとも、”クレミナラの夜明け”の儀式は受けていないのだろう。
……ということは。
「考えられるのは、ろくな保護者がいなかったか……それとも隠したか」
駒によると、シアナは元浮浪児で、おそらく風属性とのことだった。
浮浪児なら儀式を受けていないのはわかる。ただ……螺力も屋敷に来た当初に一度使ったきり、それ以降何年も見た者はいないという。
「本当に風属性、なんでしょうかネェ……?」
そう独り言ちるエリヤの後ろで、ゼーラが一際小声でささやいた。
「あのメイドとお嬢様……、そろそろ手を打った方が良いですよ。教会に先を越されたら厄介だ」
「あァ、……そのへんも一応考えてはいますヨ」
(シアナちゃんは、放っておくと、どんどん危険なところに踏み込んでいきそうですからネ……)
エリヤは会場を一瞥すると、ゼーラを従え、バルコニーから去っていった。




