第81話
「それと、台所もお風呂もトイレも、私が先に試したので安心して使ってくださいね。」
安心できるか!
というか試したってどういうことだ。
考えたくない。頭が痛い。
でも礼は言わないとな。
「色々気遣ってくれてありがとう、リアネット。」
リアネットはにこっと笑って答えた。
「どういたしまして。」
「で、今日の予定がまるっとなくなったけど、どうしようか。」
「お着替えになったら、ティータイムはいかがですか?」
リアネットの提案で、ビエラも交えて三人でティータイムをすることになった。
「着替えたいから、二人とも外に出ててくれる?」
この状態で人族変換を使うと全裸になるからな。
「私はこのままで大丈夫ですよ?」
「お願い、頼むから!」
必死に頼み込んで、ようやく一人で着替えられる時間を確保した。
「ほんとに…驚いたよ。」
「同感だね、ビエラ。」
リアネットが台所でお茶を用意している間、俺とビエラは応接室にいた。
「朝目が覚めたら、ベトの姿の私が寝ていたとこ、何もなかったんだ。」
「そういやお前、寝るときは全裸って言ってたよな。」
「昨日は疲れて服着たまま寝たけど。」
「それはまあ、良かったじゃん。」
「枕元に書類があった。新しい店の権利書だった。」
「…全部でいくらかかってると思う?」
「最低でも金貨500枚は超えるな。」
俺は頭を振った。
「聞かなかったことにしよう。」
「ダメだよ、知っておかないと。あの子が本気出したら何でもやりかねないんだぞ!」
「二人で何をそんなに楽しそうにお話ししてるんですか?」
気づいたときには、リアネットが菓子とお茶を乗せたトレイを持って俺たちの間にいた。
「え、いや、その…世間話をだな。」
「まあ、私が来るまで待っていてくれても良かったのに。」
「大丈夫だよ、お嬢様。今からいっぱい話そう。」
「そうですわね。」
リアネットはティーセットをテーブルに並べた。
まるで慣れたメイドのような手際だ。
そして俺の膝の上に座った。
「お、おいリアネット?横に席あるぞ?」
「ここが私の席です。」
…もう何も言うまい。
「それで…世間話ってどんな話ですの?」
話題を変えないと。
そうだ、これだ。
「ビエラの新しい店の名前が気になってたんだ。」
「ノベト商会だよ。」
「え、マジで“魔道具”って言葉抜いたのか。」
「新しい店だから大きく名前変えたんだ。繁盛しそうな名前だろ?」
「…そうか。」
「私が名付けましたの。」
「さすがリアネット。」
「…本心じゃないですね?」
「いや、本心だって。」
リアネットの中での俺はどんな奴なんだろうな。
この話題は危険だ。
ビエラ、助け船を出してくれ。
そう願って見ると、ビエラは目を閉じてゆっくりお茶を飲んでいた。
わざとらしいほどゆっくりと。
おい、無視するな!
「それにしてもノベト様、お茶には手も付けないのですね?」
「いや、その…」
鎧を被ってないと落ち着かないんだ。
「そんな鎧なんて取っちゃいましょう。えい。」
リアネットはあっさりと俺の頭の鎧を外した。
「ふふ、素敵なお顔。」
頬が赤い。
やめろ、俺まで変な気持ちになるだろ。
「さあ、私が飲ませて差し上げます。」
リアネットは自分が飲んでいたカップを俺の口元に持ってきた。
俺は慌てて手首を掴んで止めた。
「なぜ拒むのですか?」
「いや、ほら、それはどうかと…」
「大丈夫です。」
「自分で飲むから…」
「ビエラ。」
「はい。」
ビエラは素早くリアネットを支援し、俺の腕を後ろから押さえた。
「ビエラ、お前裏切ったな!」
「ごめんノベト、仕方なかった。」
結局、二人がかりで無理やりお茶を飲まされた。
「はい、お菓子も食べてください。あーん。」
リアネットが不敵に微笑みながら菓子を俺の口に押し込む。
「むぐっ…」
「暴れないでください。きっとお気に召しますから。」
そしてお茶をもう一口。
茶も菓子も最高だった。
味は本当に素晴らしかった。
ただ、これを見ていたら誰でも暗殺未遂だと勘違いするだろう。
そうして混沌としたティータイムは過ぎていった。
俺はそのまま椅子にぐったりともたれた。
「今日は…すごい一日だったな…」
「忘れられない一日になりましたか?」
リアネットが言った。
「ああ、絶対に忘れないだろうな。」
誰かが俺の頭にそっと鎧を被せてくれた。
リアネットだった。
彼女は俺の後ろから見下ろしていた。




