第38話
フェレオラが顔を上げた。
「最初はただの病だと思っていました……ですが、症状、魔力の流れ、反応──どれもがあまりにも既視感があった。
魔道至上教が行っていた“実験”と、まったく同じだったのです」
彼女の口調は穏やかだったが、その声の端には怒りと痛みが混じっていた。
「私は、確認したかったんです。本当に彼らが動いているのか。そして……二度と同じことを繰り返させないために」
ビエラはしばらく黙って窓の外を見ていたが、やがて口を開いた。
「彼らがどういう集団か、私は知っている。──なぜなら、私もかつて……魔道至上教に属していたから」
フェレオラが驚愕の表情で彼女を見た。
「子供のころ、魔力の才能があるという理由で両親から引き離されて、あそこへ送られたんです。
最初は“祝福”だと信じていた。でもすぐに気づいた。あれは教育なんかじゃない、洗脳で、訓練ではなく拷問だった」
ビエラは静かに目を閉じ、ゆっくりと開いた。
その奥には、深く静かな怒りと、消えない傷跡があった。
「私は脱走しました。そして、二度と戻らないと誓った。
……けれど、あの悪夢がまたこの町まで手を伸ばしてきた」
彼女は俯いたまま、かすかに震える声で言った。
「──そして、その過程で……私の妹も、犠牲になった。私よりも強い魔力を持っていた子。
彼らは彼女を“実験体”に選び、そして彼女は“記録も、墓もなく”消された」
フェレオラは口を閉じたまま、強く拳を握りしめた。
何も言わなかったが、その沈黙には、重く苦い決意が宿っていた。
ビエラは歯を食いしばりながら呟いた。
「彼らは、魔法のためなら何でも犠牲にできると本気で思ってる。人も、子供も、村全体も──
それが、魔道至上教よ」
フェレオラはうなずいた。そしてゆっくりと口を開いた。
「だから、お願いしたい。君の情報と力、すべてを駆使して、共に戦ってくれ。
だが、戦闘指揮と市民保護は、私が責任を持つ」
──リアネットの病。
それは偶然の発病ではなかった。
その魔力の波動と闇──私はかつて、オーデリアからも同じものを感じた。
あのエルフの村の精霊樹。
その根を蝕んでいた黒い魔力。
精神と魔力を侵す“異質な振動”。
それと同じ震えが、リアネットの中にもかすかに存在していた。
今なら分かる。すべては同じ源──
“魔道至上教”という、一つの元凶から発せられた“意図的な侵蝕”。
……私は、ただ何もしたくなかった。
ただ静かに生きていたかった。
だが──これは、もう限界だ。
これは──本当に、ひどすぎる。
怒りが、胸の奥でくすぶっていた。
もしかすると、これほど「手足があったら潰しに行きたい」と思ったのは初めてだったかもしれない。
私は、何も言わなかった。
だが、心の奥底で、ゆっくりと──決意が芽生え始めていた。
***
昨日の騒乱がまるで嘘のように、朝は穏やかだった。
鳥が鳴き、朝日が窓からまぶしく差し込んでくる。
リアネットは私の上で安らかに眠っており、
その横では、ビエラが椅子にもたれかかって腕を組んだまま、軽く眠っていた。
この部屋の中に聞こえるのは、二人の静かな寝息だけだった。
もうすぐ──カルロスだかカルルアだか、あの男が襲い来るだろう。
やはり、戦うしかないんだろうな。
……問題は、俺がどう戦えばいいのか、まったく分からないことだ。
せめて──人型に変身でもできればいいのに。
その瞬間──
「利用者ノベトの現在レベル:60」
「機能解説権限、レベルアップ条件を満たしました」
「機能詳細説明モード、開放可能です」




