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妖かしつれづれ話 拾の話・籠の鳥  作者: けせらせら
後の章
14/22

14

 小さなブレーキ音と共に身体がガクリと揺れた。

 目を開けると、隣に百太郎の姿が見えた。

「おい、着いたぞ」

「どこに? 学校?」

 一瞬、自分がどこにいるのかわからず響は周囲を見回した。どうやら車の後部座席に座っているようだ。

「おいおい、寝ぼけてるのか? さっき高校から帰ってきたんだろ。どんだけ学校好きなんだ?」

「ここは?」

「病院だ。ほら、さっさと降りろ」

 百太郎はタクシーの運転手に料金を払ってから、座席でウトウトしている響の肩を揺らして少し乱暴に言った。

「病院? どうしてこんなところに?」

 まだ頭がぼんやりとしている。

「しっかりしろよ。また籠女が倒れたってさっき言っただろ」

「籠女、どうかしたんですか?」

 百太郎の言葉に、さすがの響もハッとして顔をあげる。

(そうだ)

高校から帰ろうとしていた響のところに、突然、百太郎がやってきてタクシーに押し込んだのだった。

「おっと、さすがに籠女の名前を聞いて目が覚めたようだな。その籠女の容態を確認しに行くんだろう? いや、そう心配するな。倒れたとはいっても、今回の入院はあくまでも検査のためという話だ。ちょっと疲れただけかもしれない」

「疲れた?」

 響はタクシーを降りて、百太郎と並んで歩き出した。

「ここんところ徹夜で絵を描いていたらしいからな」

「またですか? 相変わらずだな」

 百太郎の話を聞き、響は少しホッとして笑った。籠女が倒れたのはこれが初めてのことではない。寝食を忘れて絵を描くことに没頭し、筆を握りしめたままその場に倒れているのだ。

「そうだな。あいつは絵を描き始めると時間が過ぎるのを忘れる。そういえば最近描きはじめた絵を観たか?」

「いや、どんな絵?」

「お前の絵だよ」

 少し誂うような表情で百太郎は言った。「どうだ? 嬉しいか?」

「また、ボク? どうしてそんなものを?」

「それだけお前のことが好きだってことだろ」

 そう言ってニヤニヤと笑う。

「誂うなよ」

「お前たちが知り合って3年か。早いものだな。きっとあと3年もして高校を卒業したら結婚か?」

「勝手に決めるなよ」

「嫌なのか?」

「嫌だなんて言ってないだろ」

 少し照れながらも響は言った。

「お前の気持ちはわかる……が、籠女の気持ちはわからんな。お前みたいな堅物のどこが良いんだか」

「知らないよ」

「ここ最近のあいつの絵はお前のものばかりだからな」

「でも、それで倒れていたんじゃボクのせいみたいじゃないか」

「素直に喜べよ」

 そう言って百太郎は横を歩く響を肘で突く。

「嫌だよ。籠女には元気でいてほしいんだ。術でなんとか出来ないものなのかな?」

「体力回復くらいならな。だが、俺たちの術ってのはあくまでも妖かし相手のものだ。医術とはまるで違う」

「それなんだけど、この前、古い書物を見つけたよ」

 周囲を気遣いながら響は言った。

「また古い文献をあさっているのか?」

「古い術の研究は面白い。そこに何が書かれていたと思う?」

「何だ?」

「蘇りの秘術だ。妖かしの力にも通じるものらしい」

 少し声を潜めて響は言った。

「おい、そいつはーー」

 さすがに百太郎は顔色を変えた。

「禁忌だって言うんだろ。そんなことはわかっている。誰もそれを本気で使おうなんて思ってやしないよ。でも、なかなか面白いものだよ」

「そういうものは知ってしまえば使いたくなるものだ。いい加減にしておけよ」

「わかっているよ。それがなぜ禁忌かなんてボクだって知っている。でも、あれは術者としてとても興味があるものだ。おまえだってそう思うはずだ」

「まあ、おまえの気持ちもわかるが、とりあえず今は忘れておけ。籠女の前で術の話をしても、退屈がられるだけだぞ」

「わかってるよ」

 響たちは急ぎ足で籠女のいる病室へと向かった。


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